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【134】COMRADE -共犯者たち-

 朝食のメニューはトマトとマッシュルームのソテー、ベーコンエッグ、ベイクドビーンズ、ソーセージ、ブラックプティング、スコーン、魚の燻製という内容の所謂「フル・ブレックファスト」だ。

主食には「ポリッジ」と呼ばれる(かゆ)が添えられている。

「さて、まずはあなたたちをここに連れて来た理由なのだけれど……」

食事の手を一旦止め、ついに話の本題を切り出すレガリエル。

「あなたたちは『洗礼』というものをご存知かしら?」

洗礼――。

それは人智を超えた存在により執り行われる、潜在能力を解放するための儀式。

日々の鍛練や努力だけでは引き出せない力を手に入れられるが、一定の地力を備えていないとその力に翻弄される恐れがある。

そのため、「洗礼」は才能ある戦士でなければ受けることができないのだ。

「ボクたちに『洗礼』を授けてくれるのですか?」

ベーコンエッグを平らげたマーセディズからの期待を込めた質問に対し、レガリエルはくすくすと笑いながら次のように答えるのだった。

「フフッ……そうね、『空の柱』を踏破するためには必要かもしれないわね」


 僕たちがノウレッジ・パレスに招待された理由は分かった。

「なるほど……それで、オレたちまで連れて来た理由は何なんだい賢者様。貴女ほどの御方が単なる悪戯心で行動するとは思えませんな」

次に気になるのはイレインたちも一緒に連れて来られた理由だ。

当然ながら彼女らとレガリエルは初対面なので、ここまで丁重にもてなす必要性があるとは言えない。

まあ、単純に「自分が信頼する相手の友達だから多分大丈夫」という程度の考えかもしれないが……。

「ああ、それはね……先ほど話した通り、ジェレミーとキヨマサは異界人よ。彼らを元の世界へ帰すには『空の柱』を登り切らなければならないのだけれど、あそこから帰って来た者はいないと云われているわ」

僕たちの旅の最終目的地である「空の柱」は前人未到の地とされている。

過去に何人かの勇気ある冒険者が向かったが、何年経っても誰一人として帰って来ないという。

旅が成功するか否かに関係無く、「空の柱」への冒険は帰ることが叶わない一方通行の旅路になる可能性すらあり得る。

「だから、無理にとは言わないけれど――」

「その『依頼』、引き受けさせてもらいますぜ」

強制はしないが、可能ならば異界人を帰還させる旅に協力してほしい――。

レガリエルはおそらくそう言いたかったのだろう。

それを察したイレインは先読みして自らの意思を伝えると、イーディスと万引きシスターズにも同意を求めるかと思われたが……。


「イーディス、シャーリー、ソフィ……この朝飯を食い終わったらお前たちとはお別れだ」

「え……!?」

イレインのその発言を聞いて驚いたのは僕たちだけだった。

「……」

当事者であるイーディスと万引きシスターズは食事の手を止め、静かにイレインのことを見つめている。

もしかしたら、彼女がこのようなことを言い出すのは予想できていたのかもしれない。

「『空の柱』の噂はオレも何度か耳にしたことがある。あそこは話に聞くだけでも危険な場所だ。お前たちを――ましてや子どもを連れて行けるような場所じゃねえ」

生還者による詳細報告が無い以上、どんな危険が潜んでいるか分からない極地に仲間を連れて行くことなどできない――それがイレインの下した結論であった。

少なくとも、ヴァル・ログ神殿よりは遥かに危険な場所であることは明白だ。

「ジェレミーたちは強い決意を以ってかの地へと赴く。彼らの友人としてオレも付いて行こうと思う。だが、お前らはダメだ」

「……」

これが最後になるかもしれないイレインの指示を静かに聞くイーディスたち。

「……もし、オレが帰って来ない時はスカヴェンジャーの連中を頼んだぞ」

その沈黙は肯定なのか、それとも……。


「――けるな」

「え?」

いや……イーディスの沈黙は決して肯定ではなかった。

「ふざけるなって言ってんだ! 昨日アタシたちを置いてどこかに逝こうとしたのを引き留めたのに、その努力を無下にするのかよ!」

ナイフとフォークを置いた彼女は突然席から立ち上がり、左隣の席に座っているイレインの所へ近付くと、その胸倉を思いっ切り掴みながら怒りを露わにする。

「アタシやシャーリーたちの実力に不安があるってのかい! なあ!?」

イレインとしては仲間たちの身を案じて「ここから先は自分だけでいい」と伝えたかったのだろう。

しかし、イーディスたちは逆に「お前らは付いて行けないから置いていく」と捉えてしまったらしい。

「アタシはあんたに助けられなかったら野垂れ死にしてた……それ以前に死にたいと思ったことも何回もあった。だから、今更死ぬことが怖いなんて思っちゃいない。アタシの命なんて軽いモノだからな」

自らの穢れた出自とそれに苦しんでいた過去を明かし、死地に赴くことなど恐れていないと語るイーディス。

「その話は前にも聞いた! 自分の意志で命を絶つことと、誰かに命を奪われることはワケが違うんだ!」

それに対して「自殺と他殺には天と地ほどの差がある」と主張し、あくまでもスカヴェンジャーの仲間は連れて行かないと意思を曲げないイレイン。

このままでは殴り合いに発展しそうな雰囲気だが、これは外野の僕たちが止めるべきなのだろうか?


 一触即発状態のまま睨み合いを続けるイレインとイーディス。

「まあまあ、二人とも落ち着きなさいな」

その状況に待ったを掛けたのは、意外にも上座に座っている賢者レガリエルであった。

「これはあくまでも私の意見なのだけれど……もしかしたら、お友達も『空の柱』まで連れて行ってあげるべきかもしれないわ」

いっそのことみんなで『空の柱』に向かおう――。

賢者の予想外の提案にイーディスの表情が明るくなり、イレインは逆に表情を曇らせる。

「ふむ……賢者様がそう仰られるのには何か理由があるんだろう?」

「当然です。明確な根拠も無く無責任に提案を述べるようなことはしません」

不服そうに「提案」の真意を尋ねてくるイレインに対し、これまで見たことが無い引き締まった表情で質問に答えるレガリエル。

そして、彼女は衝撃的な事実をスカヴェンジャーの面々に伝えるのであった。

「この国のお尋ね者たちを手助けした以上、あなたたちも『彼ら』にとっては同罪なのだから」

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