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【128】FINAL SWORD -魔神を断つ剣-

「う、腕が……再生が間に合わないだと!?」

両腕をガントレットごと斬り落とされ、痛みよりも先に再生が始まらないことに狼狽えるジークフリード。

この時点で既に魔神アラヴィアータによる侵食の影響が大きくなっていることが分かる。

「これで終わりだド外道ォォォォッ!!」

18年もの間溜め込んでいた様々な思いを吐き出すかのようにイレインは叫び、今や自分の一部となった「無名の剣」を因縁の相手の胸部へと深く突き刺す。

「うぐぅッ……!」

心臓を貫かれたジークフリードは苦しそうな呻き声と共に血を吐き出し、危機的状況を打開しようと手首から先が無い両腕を動かしながら懸命にもがく。

先ほど腹部を斬り裂いたのが効いているのか、今の彼は人智を超えた力を全く発揮できていない。

そして、18年に亘る因縁も終局を迎えようとしていた。


「フッ……クックック……」

「往生際の悪い男め……さっさとくたばったらどうだ?」

この期に及んで不敵な笑みを浮かべるジークフリードに対し、剣を握り締める手に力を込めながら冷酷に吐き捨てるイレイン。

だが、落第騎士の表情はこれまでよりも遥かに清々しいものであった。

「俺もとうとうヤキが回ったな……」

「……!」

「ああ……嬢ちゃんがこれほどデキるとは思わなかったよ……Wunderbar(見事だ)」

死の間際に発せられた、噓偽りの無いゼーバッハ語による称賛の言葉。

その一言を最後にジークフリードはピクリとも動かなくなっていた。

「……」

復讐を果たしたイレインは落第騎士の亡骸から静かに剣を引き抜き、それを杖代わりにしながら一息つく。

緊張の糸が少し緩んだせいか、これまでの戦いで蓄積した疲れがドッと押し寄せてくる。

「(まだだ……まだ終わってはいない! あの男を操っていた邪神も討たなければ……!)」

しかし、彼女はまだ倒れるわけにはいかない。

依り代としていたジークフリードを見捨てた、魔神アラヴィアータの息の根を止めるまでは……!


 魔神の加護を失ったジークフリードの死体は瞬く間に腐敗が進行していき、気が付いた時には鎧を(まと)った白骨体と化していた。

おそらく、アラヴィアータに憑りつかれた時点で生命力を全て奪われていたのだろう。

「まさか、まさか、まさかッ! 今の人類に退魔剣を新たに作る力が残されていただと……!?」

その時、先ほどジークフリードだった白骨体から禍々しい紫色の煙が噴き出し、今まで息を潜めていた魔神が久々に姿を現す。

彼は新たな退魔剣――「無名の剣」の存在に少なからず脅威を感じているらしい。

「くッ……今の我では斬られても耐えることができん……!」

まだ全盛期の力を取り戻していない魔神は「無名の剣」を恐れ、瞬間移動で再び姿を消そうと試みるが……。

「お前も逃がしはしない! たとえ神であってもオレ様が斬り伏せてやるッ!」

当然ながらイレインはアラヴィアータを見逃すつもりなど無く、彼女はジークフリードの死体を踏み台に宙を舞う。

人智を超えた魔神を確実に仕留めるため、残された全ての力を「無名の剣」へと注ぎ込む。

そして……!

「アクタイオンよ……今こそ邪神を断てッ!!」


 無名剣の刃が銀色に光り輝き、瞬間移動で消えようとしていた魔神アラヴィアータの姿を捉える。

「ま、待て! 話せば分かる! 交渉を!」

「……!」

この期に及んで命乞いをしてくる魔神の戯言は無視し、退魔剣として覚醒しつつある「無名の剣」を力一杯振るうイレイン。

彼女の全身全霊を注いだ一撃が戦いに終止符を打つ決定打となった。

「わ……我が……魔神アラヴィアータが小娘風情に負けるのか……!?」

銀色の刃に一刀両断された魔神の肉体は真っ二つに切り裂かれ、その切断面から例の禍々しい煙を噴き出しながら透明になっていく。

かつて、限られた勇者にしかできないとされていた魔神の抹殺――。

イレインは極めて困難な状況下でそれを成し遂げたのだ。

「こ、この……クソがぁぁぁぁッ……!!!」

魔神アラヴィアータは情けない怨嗟の叫び声を上げ、全盛期の力を取り戻すこと無くこの世界から完全に消滅する。

謳われぬ戦いは終わった。

そして、アクタイオンと同じく命の炎を燃やし尽くしたイレインの戦いも……。

「私とアクタイオンに断てぬモノ……無し……!」


 空中で魔神アラヴィアータを斬り伏せたイレインは地面に着地すると、そのまま全身から力が抜けるように倒れ込んでしまう。

「イレインッ……!」

イーディスを先頭に僕たちは勇者のもとへ駆け寄るが、苦しそうに呼吸を整えている彼女は明らかに衰弱していた。

「しっかりしろイレイン! まだ死ぬには早いだろ!? 『ヤスマリナのランプ』を手に入れなくちゃいけないんだろ!?」

親友の上半身を支え、為すべきことを果たすまでは力尽きるなと必死に訴えかけるイーディス。

「イレイン……!」

「お願い……お願いだから死なないで……!」

イレインの無事を願っているのは彼女がスカウトした万引きシスターズも同じだ。

しかし、周囲の思いとは裏腹にイレインの衰弱は着実に深刻さを増していた。

「もういいんだよ……これで彼女の……アイリスのところに逝けるんだから……そんな物はもういらない……」

「イレインッ! お前が死んだらスカヴェンジャーの連中にどう説明すればいいんだよ!?」

最悪の結末を恐れて涙ながらに叫ぶイーディスに対し、イレインはただ静かに微笑みかけるのであった。


「あなたが……新しいリーダーに……そして……義賊として生まれ変わって……ね……」

この言葉を最後に彼女はゆっくりと眠るように目を閉じる。

18年間を復讐に捧げた女は戦いを終え、今度はかつて愛していた幼馴染との再会を果たすべく旅立った。

生きとし生ける者には決して到達できない、どこまでも遠い場所へと……。

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