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【127】LAST STANDⅥ -形勢逆転-

 マギアバングルをイレインに投げ渡せ――。

「何を言ってるんだマーセディズさん! これは俺にしか扱えないんだぞ!?」

当然、荒唐無稽(こうとうむけい)とも思えるその指示にキヨマサは反発し、左手首にはめているマギアバングルを右手で覆い隠す。

マギアバングルは元々の個体差や着用者の得意属性の影響を受けやすく、基本的には複数人での使い回しが困難な専用品とされている。

キヨマサが着用している物もまた、既に彼の「匂い」が染み付いていることから他人に渡しても使えない可能性があった。

「魔力を少しブーストさせるだけなら何とかなるはずだ! やれることをやらなければ、彼女が殺されることになるぞ!」

「くッ……」

一瞬だけ思い悩むような表情を浮かべた後、深く息を吐きながら左手首からマギアバングルを外すキヨマサ。

「分かった……自らの命を燃やすことに比べれば、何てことは無い」

命と引き換えにイレインを助けようとしたアクタイオンの最期を思い出すと、彼は外したマギアバングルをイレインに向かって放り投げるのだった。


「(マギアバングル……! そうか、こいつに貯蓄された魔力を使ってラストスパートを掛けろというわけか……!)」

マーセディズの意図を察したイレインはマギアバングルをキャッチし、それを利き手である右手首へと素早く装着する。

通常時は利き手の反対側に装着することが多いが、彼女の場合は「魔力を解放することで肉体を補佐する」という目的だけに使用するため、効率的に魔力を流しやすい利き手へと装着していた。

「いいぞ~、どうせ真っ向勝負じゃ俺には勝てないんだから、あらゆる手段を使ってせいぜい足掻いてくれよぉ?」

その様子を余裕綽々といった表情で静観するジークフリード。

このまま力技で押し切ってしまえばほぼ確実に勝てるので、単刀直入に言えば手を抜いているのだろう。

「……」

くだらない挑発に乗ること無くマギアバングルの調整を終わらせ、地面に突き刺していた「無名の剣」を再び構え直すイレイン。

傍目から見ても疲れの色が出ていた先ほどまでとは異なり、今の彼女は闘志が甦ったかのように鋭い眼差しをしている。

「(少しだけ元気が出てきたぞ……これならば、あの男に一泡吹かせてやることができるかもしれない……!)」

大剣を握り締めている両手に力を込め、イレインは雄叫びを上げながら落第騎士へと襲いかかるのであった。


 戦いを続けられるだけの体力を取り戻したイレインが放ったのはシンプルな袈裟斬り。

「クックック……10回遅い、100回遅いんだよなぁ!」

その程度の攻撃ならば喋りながらでもかわせるジークフリード。

「ぬぅんッ!」

だが、今回のイレインは明らかに攻撃動作が素早くなっていた。

袈裟斬りがかわされるのは想定の範囲内であり、彼女はすぐに前へ踏み込みながら水平斬りを繰り出す。

マギアバングルのおかげで体力に多少余裕が生まれ、大剣を複雑に振り回す連続攻撃ができるようになったのだ。

「くッ……しまった!?」

余裕を見せるあまり油断していたジークフリードは水平斬りに反応することができず、「無名の剣」の剣先で横腹を切り裂かれてしまう。

普通の人間とは異なり、その傷口からは紫色の禍々しい液体が染み出していた。

「何だこの痛みは……無名剣になろうとも俺の邪魔をするのか……アクタイオン!」

今の一撃は致命傷にはなり得ない程度の攻撃だったはずだ。

にもかかわらず、魔神に憑りつかれた落第騎士(イリーガルナイト)は傷口を押さえながらその場に(ひざまず)くのだった。


「ジークフリード……覚悟ッ!」

この好機を逃すまいと剣を前へ突き出しながら突撃(チャージ)を仕掛けるイレイン。

剣の重量に振り回されていたこれまでとは異なり、今は完全に彼女が主導権を握っている。

「クソッタレがッ! やはり、その無名剣は俺にとって危険だ!」

一時しのぎの魔力注入で痛みを押さえたジークフリードは間一髪のところで「無名の剣」の刃を両手で捕らえ、そのまま力を込めることで無理矢理へし折ろうと試みる。

イレインは後ろに下がり間合いを取ろうとするが、落第騎士の馬鹿力がそれを許さない。

「何て硬さしてやがる! 剣身が全く曲がらないなんて物理法則もあったもんじゃねえ!」

しかし、ジークフリードの力を以ってしても「無名の剣」に損傷を与えることは叶わず、このままでは埒が明かないと判断し彼は一旦仕切り直すことを決めた。

「むッ……!」

突然手放されたことでイレインはバランスを崩しそうになるが、両脚でしっかりと全体重を支えてファイティングポーズを維持する。

「オレに向けていた剣が貴様の首を斬り落とす……その皮肉を味わえ!」

それどころか、彼女にはジークフリードを挑発できるだけの精神的余裕が生まれていた。

状況は数分前と比べて明らかに変化しつつあった。


「小娘風情が……人の剣を寝取っておいて図に乗るなよッ!!」

一方、逆に余裕を失いつつあるジークフリードは罵詈雑言を発しながら猛然とダッシュし、小娘(イレイン)の眼前まで肉薄したところで連続パンチを繰り出す。

「寝取られたのではなく、逃げられたの言い間違いだろうが!」

これまでのイレインだったら激しい猛攻に押し負けていたかもしれない。

しかし、今の彼女は違う。

剣を触媒とすることで魔力障壁を形成し、ジークフリードの連続パンチを確実にガードしていく。

彼が疲れるか、あるいは攻撃を切り上げるタイミングを辛抱強く待ち続ける。

そして、その時は意外に早く訪れた。

「……!」

ジークフリードの連続パンチが鈍くなった隙を見逃さず、魔力を一瞬だけ放出することで彼をよろめかせるイレイン。

「食らえッ!」

「無名の剣」の刃が光を反射し銀色に輝いた次の瞬間、地面に2つのガントレット――ジークフリードの両手が落ちるのだった。

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