【123】LAST STANDⅡ -復讐の刃は深く突き刺さる-
闇属性マギアによる遠距離攻撃を全て振り切り、一段と高い岩場まで駆け上がっていくイレイン。
「ジークフリード……覚悟ッ!」
次の瞬間、そこから飛び降りた彼女は猛禽類を彷彿とさせる急降下攻撃を仕掛ける。
「覚悟か……まだ死んでやるわけにはいかねえなぁ!」
それに対してジークフリードは回避行動を取らず、左手に構えている盾から魔力障壁を展開することで攻撃に備える。
彼が余裕を持って展開した魔力障壁は非常に強力であり、イレインの渾身の一撃をいとも簡単に受け止めてみせた。
「チッ、そう簡単にはいかないか……!」
魔力障壁を抜くのは難しいと判断したイレインは、一旦攻撃を終えることで仕切り直しを試みる。
しかし、これはジークフリードの狡猾な作戦であった。
「ああ、そう簡単に死んでくれるなよ!」
彼は相手が着地するタイミングを見計らい、魔力障壁の解除と同時に盾からエネルギー波を発射。
「くッ、しまった!?」
所謂「着地狩り」を受けるカタチとなったイレインは攻撃を回避できず、エネルギー波と共に岩場へ叩き付けられてしまうのだった。
「イレインッ!」
その一部始終を見ていたイーディスは思わず叫び、万引きシスターズは祈るように無事を願う。
「クソッ……今のは少し痛かったな」
幸い、結構激しい勢いで叩き付けられたわりにダメージは少なかったらしく、イレインは服に付いた砂埃を払いながら再び立ち上がる。
「おうおう、それぐらい強がってくれなきゃ張り合いが無いぜ!」
もっとも、それを見ていたジークフリードも有効打となることは期待しておらず、彼は愛剣「ニーベルンゲン」を振り回しながら攻撃態勢に移る。
「もっともっと痛めつけてくれるッ!」
禍々しく変貌した大剣を正面に構え、身体強化系マギアを併用した加速で一気に間合いを詰める作戦らしい。
落第騎士と言えどその突撃には「騎士としての矜持」が残されていた。
「うおおおおおッ!」
ジークフリードの必殺技「シュトルムアングリフ」をまともに食らったらひとたまりも無い。
真っ向勝負で迎え撃っても力負けする以上、イレインはこの場をどう凌ぐつもりなのだろうか。
「大地よ我が盾となれ……『ストーンウォール』!」
相手の直線上に立っていた彼女は瞬時にマギア詠唱を終えると、先ほどと同じように魔力を纏わせたダガーを地面へ突き刺す。
その直後、地面を切り裂くように岩の柱が現れ、落第騎士の突撃を阻むかのように幾重にもわたって立ちはだかる。
「……んで、オレ様はその間に逃げる!」
当のイレインはマギア発動直後に移動しており、ジークフリードの攻撃が当たらない場所から次の一手を考えていた。
「チィッ! ちょこまかとよく動く!」
残念ながら落第騎士は急に止まれない。
「ストーンウォール」で勢いを殺し切れなかったジークフリードは壁に大剣が突き刺さり、致命的な隙を晒してしまうのだった。
「ええい! 動けニーベルンゲン! なぜ抜けないんだ!?」
「封神の間」の壁に深く突き刺さった大剣を抜こうと悪戦苦闘するジークフリード。
だが、彼の馬鹿力を以ってしてもニーベルンゲンをなかなか引き抜くことができない。
「無様な姿だなジークフリード! 貴様のような悪漢にはお似合いだよ!」
その様子を見たイレインはすぐに死角から飛び出し、マギア発動に用いたダガーを回収しながら落第騎士に狙いを定める。
「これで終わりだ……先に地獄へ墜ちやがれッ!」
持ち前の脚力で一気に近付いた彼女は両手にダガーを握り締め、それをジークフリードの腋の下――鎧でカバーしづらい急所へと思いっ切り突き刺す。
「うぐぅ……ッ!?」
魔神に憑りつかれたと言えど所詮は人間の肉体、急所を攻撃されたら無傷では済まないらしい。
「18年前のあの日、私とアイリスが負った苦しみ……それ以上の苦痛を味わって死ねぇ!」
憎悪の言葉を吐きながらダガーを握る手に力を込め、復讐の刃を深く深く食い込ませていくイレイン。
傷口から溢れ出る鮮血が両腕を伝い、彼女の身体を赤黒く穢していく。
普通なら明らかに失血死しているほどの出血量であったが……。
「フッ……クックック……アーハッハッハッハッハ!」
しかし、ジークフリードは死ぬどころかむしろ高笑いするほどの余裕を残していた。
おびただしいほどの流血を強いられているにもかかわらず、だ。
「お前が味わった苦痛はこの程度か? 全然痛くも痒くもないなぁ……!」
イレインの方を振り返りながら歪んだ笑みを浮かべ、腋を締める勢いで彼女のダガーをへし折るジークフリード。
「クソッ……バケモノめ……!」
さすがのイレインもこの状況に至ることは予想できず、彼女は動揺を隠し切れないまま一旦後退を決断する。
「へッ、これから『本物の苦痛』ってヤツを教えてやるぜ!」
戦いの流れは変わった。
ジークフリードは魔神アラヴィアータの能力である瞬間移動を巧みに利用し、姿を消したかと思えば突然現れるという行為を繰り返す。
「アラヴィアータ様に認められた俺はこういうこともできる。この速さについてこれるかな?」
その気になればいつでも攻撃を仕掛けられるはずなのに、こうやって挑発してくるのが大変嫌らしい。
「ナメるんじゃない……!」
最後の予備のダガーを取り出したイレインは勝負所を見極めようとしているが、千載一遇のチャンスはなかなか巡って来ない。
「(ジークフリードの瞬間移動……なぜ5回で一旦小休止しているんだ?)」
そんな中、一騎討ちを見守っていたアクタイオンは旧友の「ある行動パターン」に気が付くのだった。




