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【115】ELAINE -彼女のたった一つの願い-

 マーセディズたちが見つけた隠し通路は2階の図書室と1階の食堂を繋ぐもの。

本来は2階から1階への一方通行だが、彼女らは無理矢理な手段で逆走してきたのだ。

「へッ、お前らナイスタイミングだな! オレたちはトラップの解除ができなくて、ちょうど隠し通路を探そうとしていたところだったんだ」

「いやはや、まさか意外と早く再会できるなんてな。もう少し時間が掛かるかと思っていたんだけど」

予想以上に早かった再会の喜びをグータッチで分かち合いイレインとイーディス。

「……ところで、2人ほどオレ様の知らないヤツを連れているな。ジェレミーは知っているようだが?」

イレインが知らないヤツ――マーセディズとキヨマサについて言及すると、彼女らは簡潔に自己紹介を行う。

「ボクはマーセディズ、スターシアン・ナイツに所属している騎士だ」

「俺はキヨマサ。元々はグッドランドのギルドに所属していたが、今は訳あって旅をしている」

「もしかしたらイーディスから聞いているかもしれないが、このオレ様が『スカヴェンジャー』のリーダーを務めるイレインだ」

互いに名を名乗って軽く握手を交わした後、マーセディズは疑問に思ったことを早速口にするのであった。

「マギ研の魔術師(ソーサラー)に頼まれて人(さら)いをやったのはお前だな?」


 銀色の騎士の容姿を見たイレインは「あること」に気付く。

「(そういえば……あの依頼人はこの女にかなり似ていたな)」

だが、盗賊とはいえ彼女はプロフェッショナルである。

そう簡単に依頼人について口を割るわけにはいかない。

「さあな……たとえ知っていたとしても教えられないな」

「そうか……まあいい」

答えを既に知っているマーセディズはそれ以上の追及を避け、テンプルを訪れた目的であったジェレミーの右手を掴む。

「ボクたちの目的は達成された。さあジェレミー、寄り道は終わりにして本来の旅路に戻るぞ」

「……」

しかし、彼は無言のまま一歩も動かず抵抗してくる。

「どうした? お前の旅の目的にここは関係無いだろう」

予想外の反抗に苛立ちを見せ始めるマーセディズ。

「やれやれだぜ……」

その時、状況を静観していたイレインは二人を強引に引き離し、銀色の騎士の右手首を捩じ上げながら詰め寄るのだった。

「自分の意見を押し通す前に、まずは相手の話へ耳を傾けたらどうだ?」


 イレインがアイコンタクトで「ここからはお前の言葉で納得させろ」と合図を送ってくる。

「マーセディズさん……この人たちはあなたが思うほど悪人じゃないんだ」

僕としては思いをそのまま打ち明けた言葉であったが、マーセディズは異なる受け取り方をしたらしい。

「お前、(たぶら)かしたなッ!」

スカヴェンジャーを肯定するように発言をコントロールされている――。

そう早とちりしたマーセディズは周囲が制止するよりも先に剣を抜き、その剣先をイレインの首筋へと向ける。

「落ち着けよマーセディズさん!」

「クソッ、面倒くさいタイプの女だ!」

幸い、キヨマサとイーディスが後ろから押さえ付けたことで事態は収束したが、一歩間違えれば大問題に発展するところであった。

「誑かされているのは、騎士道などという幻想に踊らされているお前の方だろう」

一方、命の危機に直面しても全く動じなかったイレイン。

僕は片方に肩入れするつもりは無いが、周囲の者がどちらを支持するかは火を見るよりも明らかだ。


「……貴様、騎士に対してあまり良い印象を抱いていないようだな?」

イレインの一言を受けたマーセディズは多少冷静さを取り戻し、一度は抜いた剣を収めながらこう尋ねる。

「(あの時のことはあまり言いふらしたくないが……でも、こいつは『強烈な一撃』を食らわないと動揺しないだろうな)」

しばしの沈黙の(のち)、イレインは「騎士を嫌う理由」を包み隠さず話すことを決めた。

「ああ、落第騎士(イリーガルナイト)に幼馴染と純潔を奪われた以上、好きになれるわけがない。オレにとっては騎士は全てそう見えるのさ」

「ッ……!」

彼女のカミングアウトに言葉が出ないほどのショックを受けるマーセディズ。

落第騎士――。

騎士道から外れた存在であるそれは、マーセディズのような正騎士にとっては忌むべきものであった。

「オレだって昔は騎士を目指していたさ。だが、あの時をキッカケにオレは夢を捨て、その代わりに復讐心を手に入れていた」

もしかしたら、イレインは銀色の騎士の中に「違った生き方」を見い出していたのかもしれない。


「……ま、昔の話だから気にしないでくれ。お前みたいな真っ当な騎士に話す内容じゃなかったな」

そう言いながら肩をすくめると、突然僕の背中をポンっと叩くイレイン。

「さあ、本来の仲間のところへ戻りな。異界人として行かなければならない場所があるんだろ?」

おかしい……。

まるで中の人が変わってしまったかのように物分かりが良すぎる。

「さっさと行け少年……オレが名残惜しくなる前に!」

イレインの異変にこの場にいる全員は明らかに気付いていたが、万引きシスターズ以外の4人は本人の意思を尊重し黙っていた。

……そう、幼いが故に素直な万引きシスターズ以外は。

「イレイン……もしかして悲しいの?」

「ソフィ……!」

「だって……あんなに悲しそうなイレインは初めて見るんだもん」

ソフィとシャーリーの言及に対し、一言も発すること無くただ顔を伏せるイレイン。

その行動自体が彼女の心情を如実に表していた。


「……お前は何を探しにここへ来た? 冒険者としての野心を満たすためではあるまい」

気まずい沈黙が続く中、それを打ち破るように尋ねたのはマーセディズだった。

「内容次第では少しだけ手を貸してやっても――」

「『ヤスマリナのランプ』」

「……何だって?」

「幼馴染を生き返らせるため、オレは願い事を何でも叶えてくれるというそれを探しに来た。たとえ、それが自然の摂理に反するとしても……!」

「ヤスマリナのランプ」の存在は噂話として広く語られており、マーセディズも度々耳にしていた。

もっとも、現実主義者である彼女は実在を疑問視していたが……。

「本当に存在するのかも分からないモノを見つけるため、こんな危険な所まで足を運んだというのか?」

噂話に振り回されるのは止めろと指摘するマーセディズの前に片膝を付き、噓偽りの無い涙を流しながらイレインは頼み込む。

「18年間の努力を無駄にするわけにはいかない。アイリスともう一度再会し、あの時助けられなかったことを謝りたいんだ……!」


 盗賊にまで身を堕とした彼女の願いはただ一つ。

幼馴染をこの世に蘇らせ、18年前の出来事を清算し新たな人生を始めることであった。

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