【114】JOIN -果たされた再会-
「(これは……最低でも10年は放置されていたな。最後にこれを使った奴はどうなったのだろう……)」
経年劣化によりほつれ始めているロープを登っていくマーセディズ。
彼女が力を加える度にほつれが増している気がするが、それはあくまでも気のせいだと願いたい。
「いいぞマーセディズさん! あともう少しだ!」
「重いんだよあんたは! さすがのアタシでも腕がつってきたんだが……!」
キヨマサの声援とイーディスの野次を受け、銀色の騎士は力強く順調に蜘蛛の糸を伝っていく。
だが、それが効きすぎたのか彼女は少し力み過ぎたらしい。
「あっ……!」
次の瞬間、何とか耐えていたロープがついに千切れてしまい、マーセディズはロープを掴んだまま真っ逆さまに落ちてしまう――はずだった。
「(やっぱりだ! この可能性を考えておいて良かった!)」
ロープが持たない可能性を予想していたマーセディズは咄嗟に氷属性マギア「ケンブ・ロック」を下に向かって放ち、無理矢理足場を作ることで落下距離を最小限に抑える。
「おお! スゲェ!」
それを見たキヨマサは思わず感嘆の声を上げ、もはや役立たずとなったロープを勢い余って手放す。
「最近覚えたマギアだったから上手く使えるか不安だったが……何とかなったな」
滑らないように気を付けつつ氷の足場から立ち上がり、上で待っている面々へ合図を送るマーセディズ。
振り出しに戻るという最悪の事態は避けられたが、問題はここからどうやって上に登るかだ。
「大丈夫かマーセディズ? こっちには代わりに使えそうな物は無いぞ」
「その心配も必要無い。ボクは氷属性マギアで足場を作ることができる」
「フンッ、あーそうかい」
さっきまでとは一転して心配してくれるイーディスに対し、マーセディズは自力で何とかできると答える。
「魔力で生み出した氷は様々に応用が利くのさ……まあ見ておけ」
人を殺すことなど造作も無いほどの硬さを誇る氷――。
それを活かした「上に登る方法」とは一体……?
「自然現象で生まれる氷」と「魔力で形成される氷(魔力氷)」は似ているようで根本的に異なる性質を持つ。
触って冷たいのは明らかに前者だが、炎天下に晒されてもなかなか融けない耐久性では後者が勝る。
事実、マーセディズが先ほど足場代わりに作った氷は全く溶けていない。
石造りのテンプル内は寒気がするほど涼しいとはいえ、自然にできた氷ではここまで長持ちしないだろう。
「(ボクは細い氷を放つマギアを扱える。それでロープのような氷柱を作ればイケるはずだ)」
氷属性に関しては多種多様なマギアを覚えているマーセディズが編み出したのは、氷をロープ代わりにして登る作戦。
幸い彼女は滑り止め加工済みの革手袋とブーツを着用しているため、氷を握ることに関しては特に問題無い。
気を付けるべきは自身の体重を支え切れるだけの太さを見極め、最低限の魔力消費で氷柱を作ることである。
魔力をケチって細い氷柱にしてしまうと、重みに耐え切れず落ちてしまう可能性もあり得る。
この世界では「魔力の消費=体力の消耗」なのでやり過ぎは禁物だが、ここぞという場面では出し惜しみしてはいけないのだ。
「冷たき氷よ柱となれ……『チルノイザー』!」
右手の人差し指を天井に向かって掲げ、氷属性マギア「チルノイザー」を詠唱するマーセディズ。
次の瞬間、彼女の人差し指から細い氷が放たれ、真っ白な蜘蛛の糸のように天井と指を繋ぐ。
「(これでは全然足りない! もっと魔力を注いで太くしなければ!)」
マギアで作られた氷の糸はまだまだ頼りない。
始点から終点まで均一且つ握りやすい直径になるよう、マーセディズは慎重に魔力をコントロールしながら氷柱を成長させていく。
「見事な魔力コントロールだ。親族に優秀なマギア使いがいるのかもな」
「ああ、俺は知ってるぜ。あの人の妹はマギ研所属の魔術師なのさ」
「なんで妹さんのことを知ってるんだ? お前ら付き合ってるのか?」
「!? そ、そんな関係じゃねえよ……!」
イーディスとキヨマサが駄弁っている間にも氷柱はどんどん太くなっていき、気が付くと透明な氷の柱が出来上がっていた。
少なくともマーセディズの握り拳を上回る直径になっている。
この太さならば十分にロープの代わりとして機能するだろう。
「(よし……ボクの計算ならば大丈夫なはずだ。行ってみるか……!)」
もはや棒と呼ぶべき太さになった氷柱を握り締め、銀色の騎士は上へ上へと登っていくのだった。
途中でミシミシという音が鳴り冷や汗をかく場面はあったが、「チルノイザー」で作った氷柱は何とか最後まで持ちこたえてくれた。
「いやはや、一時はどうなるかと思ったが……案外何とかなるもんだな」
「フッ、スターシアン・ナイツの騎士を侮ってもらっては困る」
困難を乗り越えたイーディスとマーセディズはガッチリと力強い握手を交わし、ここでようやく互いの力を認め合う。
「あんたの知識と冷静沈着さ、確かに見させてもらった」
「こちらこそ、お前の腕っぷしと比類なき脚力を頼りにさせてもらうぞ」
打算的な協力関係が「友情」に変わったところで一行は隠し通路をしゃがみ歩きで進んでいき、やがて終点へと突き当たる。
「む……何だこれは? 何かで隠し通路への入り口が塞がれているのか?」
一行の先頭を歩いていたイーディスは行き止まりになっている原因である「何か」を押してみるが、かなり重たいのか少し力を掛けるだけでは全く動く気配が無い。
「これは木製の棚――おそらくは本棚か。しょうがない、罰当たりかもしれないがブッ飛ばしてみるか」
「何か」の正体が重い本棚だと判断した彼女は助走距離を稼ぐために少し後退し、左肩を突き出したショルダータックルでそれを突き破る。
「ひぇぇ、何てパワー! あんなの食らったらミンチより酷くなっちゃうよ!」
ソフィが思わず戦慄するほどのタックルを受けた本棚はバラバラに粉砕され、周辺に木片を撒き散らすのであった。
一行が辿り着いたのはヴァル・ログ神殿の2階のかつて図書室だった部屋。
「ッ! ジェレミー、無事だったか!」
「ま、マーセディズさん……!?」
だが、そこには既に先客がいた。




