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【113】SPIDER'S THREAD -蜘蛛の糸-

 イーディスたちが隠し通路を発見していた頃、別行動を取っていた僕とイレインはテンプル内のトラップを解除できる可能性がある「トラップ制御室」に辿り着いていた。

「うーむ……これはちょっとオレ一人でどうにかできる状態じゃないな」

操作盤を色々と弄っていたイレインは肩をすくめ、タメ息を()きながら僕の所へ戻ってくる。

「ダメみたいですか?」

「ああ、経年劣化が激しくて操作できそうに無い。残念だがトラップを解除するのは難しそうだ」

水筒の水を飲みながら少しだけ休憩した後、彼女は代替案となる「プランB」の模索を始める。

「……どうやら、こちらも隠し通路を探す必要がありそうだな」

トラップ制御室の入り口付近にある階段を見ながら呟くイレイン。

「何十分も休憩してる暇は無い。行くぞジェレミー」

「は、はい!」

彼女にそう急かされた僕はすぐに水筒を片付け、その後ろ姿を追いかけるのだった。


「さて、隠し通路を見つけたのはいいが……あれをどうやって上るんだ?」

イーディスたちが発見した隠し通路は脱出専用に作られたものらしく、彼女らがいる部屋から通路へ入る手段が見つからない。

「アスカやルクレールがいれば奥に飛び込ませて調べさせることができたんだが……クソッ、こういう時に限ってなんで置いてきちまったんだ」

ファミリアたちをテンプル入り口に置いてきたことを後悔するキヨマサ。

臆病な性格で神経質なユニコーンを野良モンスターや山賊から守るため、テンプル入り口で待機するよう命じていたのが仇となってしまった。

「今から入り口まで戻るのは時間が掛かり過ぎる。ここはボクたち自身の力で何とかするしかない」

自らの判断を恥じているキヨマサをそう諭しつつ、マーセディズはジェスチャーを交えながら隠し通路の構造について説明する。

「あの隠し通路は2階からこの部屋へ繋がっているものと見た。そういうタイプの通路の場合、滑り落ちすぎるのを防ぐために姿勢保持用のロープが張られていることが多い」

「なるほど、そのロープを伝っていけば2階の部屋に出られる――というわけだね」

「そういうことだ。お前の身体能力ならばできるはずだ」

説明内容が上手く伝わったところで彼女はイーディスの肩を叩き、隠し通路の中に入るよう指示するのであった。


「それはアタシに対する命令かい? 騎士様ってのは随分と偉いモンだね」

だが、イーディスは騎士様(マーセディズ)の口の利き方が気に入らないのか、なかなか動き出そうとしてくれない。

「すまなかったな、今のは『命令』ではなく『提案』だ。お前の比類なき脚力に期待していたんだが……ボクの見込み違いだったか」

「チッ……仕方がない、仕方がないねえ」

マーセディズの三文芝居にはさすがに思うところがあったらしく、悪態を吐きながらも隠し通路を駆け上がるための準備運動を始めるイーディス。

「まずは隠し通路に飛び込んで中の様子とロープの有無を確かめる。ロープが残っていたらそれを垂らして登れるようにする――この手筈でいいな?」

「ド素人にしては考えたな……よし、それで行こう」

手順の最終確認を終えたところで彼女はテーブルを踏み台にジャンプし、隠し通路の側面にある出っ張りを左手で掴む。

「掴み所が無いな……よいしょっと!」

地形の悪さに文句を垂れつつもイーディスは高い身体能力で縦穴をよじ登っていき、通路の奥で横穴へ変わっていることを発見するのだった。


「(確かに、下り坂みたいに滑っていくにはちょうどいい傾斜だな……さて、ロープはまだ残っているのか?)」

2階から1階に向けて下り坂となっている横穴へ完全に入り込み、下に垂らすためのロープが無いか探すイーディス。

普段から使えるようにしておかないと隠し通路の意味が無いため、日常メンテナンスを怠っていない限りロープはあるはずだが……。

「(お、あったあった……少し経年劣化が見られるけど、まあこの程度なら千切れはしないだろう)」

だいぶ前に火事場泥棒が使ったであろう古びたロープを手に取り、イーディスはそれを下に向かって蜘蛛の糸のように垂らす。

「下の連中、聞こえるか? こいつを伝って登って来い! アタシが引っ張って支えていられるのにも限度があるから、早くしやがれ!」

「……分かった! お嬢ちゃんたち、まずは小柄な君たちが先に行くんだ」

彼女の指示を聞いたマーセディズは万引きシスターズへ先に上るよう促し、自らはもしもの時に備え真下で待機する。

「ねえ……これ、本当に大丈夫? 途中で千切れたりしない?」

「平気平気! 私たちは軽いから大丈夫だって!」

古びたロープを心配しながらも一生懸命登っていくシャーリーとソフィ。

彼女らは小柄で体重が軽いためか、幸いにもロープが突然千切れることは無かった。


「マーセディズさん、次はどっちが行く?」

「お前が先に行け。ボクは自力でも何とかなる」

銀色の騎士にそう促され、垂れ下がっているロープに掴まるキヨマサ。

彼は万引きシスターズよりも大柄且つ体重も重いため、さすがにロープもミシミシと悲鳴を上げ始めている。

「おいおい、本当に大丈夫なんだろうな……?」

「早くしやがれ! 重さを掛けている時間が長いとロープが千切れるぞ!」

「くッ、分かったよ……!」

上でロープを支えているイーディスに怒鳴りつけられ、キヨマサは恐る恐るといった感じで頼りない蜘蛛の糸を登っていく。

「これぐらいでビビってんじゃないよ! この腰抜けが!」

「クソッ、あんたも後でやってみやがれってんだ。多分千切れて真っ逆さまだぜ」

散々罵られながらも彼は何とか登り切った。

最後は装備品を含めて最も重いマーセディズの番だ。

軽量タイプの鎧を身に着けているとはいえ、体重+αの重量に経年劣化気味のロープが耐えられるかは保証できない。

「(多分途中で千切れるそうだな……今のうちに対処法を考えておかなければ)」

できればそれは杞憂で済んでほしいと願うマーセディズだったが……。

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