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【112】JOIN FORCES -隠し通路を探せ-

「「イーディス!」」

物置部屋での騒ぎを聞きつけたのか、別の部屋で待機していた万引きシスターズが武器を携えた状態で援護にやって来る。

「落ち着け二人とも! こいつらは敵じゃない……一時的な味方としては使えるぞ」

それを見たイーディスは双子の少女たちを諭し、こいつら――マーセディズとキヨマサが敵ではなくなったことを伝える。

「え? どういうことなの?」

「簡単に言うと『交渉』が成立した。こいつらはジェレミーを探しにテンプルへやって来たらしい」

「へぇー、この人たちもジェレミーと知り合いなんだ」

説明を受けた万引きシスターズのシャーリーとソフィは事情を理解できたのか、両手に握り締めていたナイフを腰ベルトへと戻す。

そして、彼女らはついさっきまでナイフを握っていた右手を差し出し、屈託の無い笑顔を見せながらマーセディズに握手を求めるのだった。


「私はソフィっていうの! えへへッ、よろしくね騎士のお姉ちゃん!」

「私はシャーリーです。この子の双子の姉です」

万引きシスターズの白くて柔らかい右手を優しく握り締め、「お姉ちゃん」らしい穏やかな表情を浮かべるマーセディズ。

「こちらこそよろしく。ボクはマーセディズ。普段はスターシアン・ナイツの騎士をやっているんだけど、今はワケあって人探しに来ているんだ」

「……あれ? もう一人のお兄ちゃんは何をしてるの?」

ソフィから指摘を受けたことで銀色の騎士はキヨマサのことを思い出し、物置部屋の奥の方を振り返る。

「彼は毒が回って大変なことになっていたが……ふむ、どうやら多少は回復してきたようだね」

その視線の先には黒髪の少年が立っており、ゆっくりとした動きで乱れた服装を整えていた。

「キヨマサ、この子たちに自己紹介をしたらどうだ?」

「ああ、そうだな……俺の名はキヨマサ。元々はグッドランドのギルドに所属していたが、今は長期休暇を取ってスターシア中を旅している」

マーセディズにそう促され、嘘と真実が半々程度に入り混じった自己紹介を行うキヨマサ。

ギルドの所属歴は真実だが、旅の目的は少しだけ嘘をついていた。


 全員が集まったところでイーディスたちはかつて食堂だった部屋へ移動し、現在の状況と次にすべきことを話し合う。

「あんたたちと会う少し前、アタシたちスカヴェンジャーはテンプルの最深部を目指して進んでいた。その途中でトラップが作動してしまい、メインルートを塞がれたうえにリーダーたちとはぐれてしまったんだ」

テンプルへ侵入してから起こった出来事について簡潔に説明するイーディス。

「幸いにもリーダーはここの構造を把握していて、トラップを解除できる制御室を探しに行った。もちろん、可及的速やかに合流できたほうが良いに決まってるから、アタシたちもトラップを迂回できる隠し通路を探していた――というワケさ」

彼女らが踏んでしまったトラップは大人数が移動しやすい通路を塞ぎ、集団で攻めてくる侵入者を分断することを目的に設置されていたものだ。

当然、ルートがそこしかないと防御側も移動範囲が大きく制限されてしまうため、イーディスたちのリーダー――イレインは「関係者だけが知っている隠し通路があるはず」だと判断し、別行動を取る直前にそれを探すよう指示していたのである。


「んで、アタシたちは構造的に怪しそうな部屋を隅々まで調べ回ったんだが、これといった成果はまだ得られていない。探し方に関する知識はあるけど専門家ではないからな」

タメ息を吐きながらイーディスはボロボロの椅子へ腰を下ろし、かつて食堂だった部屋を見渡す。

目に見える形では隠し通路の入り口らしき痕跡は無い。

「ふむ……この部屋、食堂としては少し天井が低いな」

「言われてみればそんな気もするが、それがどうしたというんだ?」

マーセディズの何気無い指摘を軽くあしらうイーディス。

だが、銀色の騎士は天井がどうしても気になるようだ。

「この程度の高さなら飛び降りても怪我はしない……間違い無い、天井に何かあるはずだ」

何かを確信したマーセディズは突然ボロボロのテーブルの上に立ち、両手を伸ばせば届くほどの高さにある石造りの天井を丁寧に調べていく。

「おいおい、そんなところを調べても何も出ないと思うぞ」

「フッ、これだから素人は……まあ見ていろよ」

「素人だと?」

素人扱いされたイーディスはムッとした表情を浮かべるが、心の中では天井については盲点だったと認めざるを得なかった。

壁と床はある程度念入りに調べたものの、天井に関しては「ここには隠し通路など作れないだろう」という先入観から調査を怠っていたのだ。

「(けッ、これで何も見つからなかったら思いっ切り(あざ)笑ってやるからな)」

椅子に座ったままマーセディズの行動を静観するイーディス。

だが、本当に嘲笑うべきは彼女の節穴同然の目であった。


 銀色の騎士が天井を調べ始めてから数分後――。

「(む……ここだけ叩いた時の音がやけに軽いな。それに空洞で反響しているようにも感じる)」

一か所だけ怪しい部分を見つけた彼女はそこを動かせないかと色々試すが、手を滑り込ませる隙間が無くなかなか難しい。

「お? 騎士様が何か見つけたようだね」

マーセディズの苦戦を見かねたイーディスは足元に落ちていた小石を拾い上げ、先ほど「アルカロイドキャノン」を放った時と同じようにリフティングを始める。

「何を考えている? いきなりボクを裏切るつもりか?」

「そこを退いてくれればそうならずに済む……こいつでぶち抜いてやるよ!」

「おっと!」

意図を察したマーセディズがテーブルから飛び降りた次の瞬間、リフティングで勢いを付けた小石をシュートするイーディス。

タイミングが悪かったら危うく直撃しているところだった。


「おお! この威力なら……!」

蹴り放たれた小石はマーセディズが怪しいと踏んでいた部分に命中し、その奥に隠されていた空洞へそのまま飛び込んでしまう。

どうやら、彼女が握り拳で叩いた場所はハリボテで作られており、そこが隠し通路の出入口になっていたらしい。

「こいつは驚いた……まさか、こんなところに隠し通路があったとはな」

「ボクを味方に引き入れなかったら見逃していたな、このド素人め」

「チッ……」

些細な点ですら見逃さない観察眼――。

非常に悔しいが、ド素人のイーディスはプロフェッショナルであるマーセディズの能力を認めるしかなった。

「(良い腕をしている……この女、リーダーと同等以上の実力を持っているな)」

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