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【108】TEMPLE -人は神を信じ、そして裏切った-

 昨晩から今朝にかけて大雨が降ったとは思えないほどの快晴に恵まれ、昼頃になるとベチャベチャだった山道はかなり乾き始めていた。

地面のコンディションが良くなったおかげでユニコーンも脚力を最大限発揮できるようになり、僕たちは予定より大幅に遅れながらも目的地である「ヴァル・ログ神殿」へと無事辿り着いた。

「これが……ヴァル・ログ神殿……?」

神殿と言ってもかつての威光はすっかり色褪せており、今は風化しつつある遺跡でしかない。

「そうか、異界人ならば知らないかもしれんな。こういう神殿をオレたちの世界では『テンプル』と呼んでいる」

想像とは大きく異なる姿に呆然としていると、僕の肩を叩きながらイレインが神殿――テンプルについて説明してくれる。

「昔はスターシア国内だけでも100か所ほどあったらしいが、神様への信仰心を失った人間たちにより破壊されたという伝承が残っている。ここは幸運にも焼き討ちを免れたテンプルで、最深部まで入ることができる物としては世界唯一かもしれん」

「人間だけが神を持つ……でも、神を殺そうとするのも人間だけ――か」

「ああ、神の意思で人は生まれたのかもしれないが、人の意思を神が操ることはできなかったのさ」

テンプル――。

それは、人間が神を信じ……そして裏切った歴史を見てきた場所。


「ヒヒーン……」

テンプルの入り口前を見渡してみると、今にも崩れ落ちそうな石柱に一頭のユニコーンが繋がれていた。

野生の個体が罠に引っ掛かっているというわけではなさそうなので、おそらくは誰かが乗ってきたものだろう。

「ふむ……どうやら、オレたちと同じ目的を持つ『先客』がいるようだな」

それを見たイレインは右手で顎を触りながら唸る。

「テンプルに侵入する大バカ野郎は大体4種類に分けられる。トレジャーハンター、墓荒らし、命知らずの探検家――そしてお尋ね者だ。程度の差はあれど遭遇したら厄介なことに変わりは無い」

彼女の言う「大バカ野郎」の存在がどれほどのリスクを招くかは判断し難い。

だが、一つだけ言えることは……。

「……とにかく、オレたち――いや、オレは絶対に『ヤスマリナのランプ』を手に入れなければならない! 場合によっては力尽くで奪い取ることも辞さないつもりだ……!」

どんな脅威が立ちはだかろうとも、イレインの決意を挫く理由にはならなかった。


 「先客」に(なら)って3頭のユニコーンたちを入り口前に繋ぎ、僕たちはテンプルの中へと進入する。

隊列の先頭はもちろんイレインが務め、殿(しんがり)となる最後尾にはイーディスが就く。

僕と万引きシスターズは実力者二人の間に挟まれるカタチだ。

壁に遺されている燭台(しょくだい)に火は灯されていないが、その代わりとして光属性マギア「シャイン」による光源が設置されており、石造りの通路は意外なほど明るかった。

「このマギアは数時間とは言わないな……設置されてからまだ1時間程度しか経っていないようだ」

「テンプルは1時間で全て回り切れるような規模じゃねえ。『先客』とはどこかで鉢合わせするかもしれんな」

光源を見たイーディスの推測に同意し、より一層気持ちを引き締めるイレイン。

「先客」の存在も気になるが、それ以上に厄介な仕掛けがこの神殿には隠されていた。

「うーん、でもまあ悪質なトラップが無いだけマシだよねー」

「ソフィ! そういうことを言うと……!」

万引きシスターズのシャーリーが妹の油断を(たしな)めたその時、待ってましたと言わんばかりに神殿がグラグラと揺れ始め、天井から突然何かが降って来る。

「ジェレミーッ!!」

「ッ!?」

イレインが叫びながら僕の腕を掴んで引っ張った直後、僕が立っていた場所は分厚い石壁に押し潰されていた。

もし、彼女が気付いてくれなかったら……ああ、考えたくもない。


「クソッタレ! トラップがまだ生きていたとはな……!」

首を横に振りながら悪態を()きつつ、イレインは石壁の向こうにいるであろうイーディスたちが無事か否かを確認する。

「イーディス、万引きシスターズ! こっちは大丈夫だ! そっちはどうだ!?」

「ああ、何とかね……ったく、トラップの話をした途端これだよ。冗談じゃねえ……」

石壁のトラップは極端に分厚いわけではないのか、向こう側にいるイーディスの返事や万引きシスターズの騒ぎ声は聞き取ることができた。

「そうか、無事なら良かったが……おい、この石壁は何とかなりそうか?」

しばしの沈黙の(のち)、イーディスから返ってきたのは予想通りネガティブな答えであった。

「……無理だな。力尽くで壊すのも持ち上げるのも難しい」

どうやら、石壁のトラップを力技でどうにかすることはできないようだ。

ずっと作動したままだと利便性が悪いので、何かしらの方法で解除できるはずだが……。

「分かった。イーディス、オレとジェレミーはこのまま先に進んでトラップの制御室を探す。お前と万引きシスターズは別ルートを探してくれ。もしかしたら隠し通路が見つかるかもしれない」

「ああ、テンプルの深部は何が起こるか分からん。二人とも気を付けろよ」

分厚い石壁越しに別れを告げると、僕たちは再合流の手段を見つけるために別行動を開始するのだった。


 トラップの制御室――。

そこにヴァル・ログ神殿を安全に攻略するための方法があるらしい。

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