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【107】SANCTUARY -目的地は皆同じ-

 テンプル――。

遥か昔、古代スターシア人が神を(まつ)るために建設した神殿である。

かつては国内に100か所近くあったとされるテンプルだが、神への信頼を失った人間の手で全て破壊されてしまい、現在は跡形も無く消え去った場所が多い。

一方で焼き討ちを辛うじて免れたテンプルも少数ながら存在し、アーカディアの東方約200kmの山中に位置する「ヴァル・ログ神殿」もその一つだ。

ヴァル・ログ神殿は人里から遠く離れた場所に建てられていたため、人間に危害を加えられること無く緩やかに朽ち果てつつあった。


「ここが『ヤスマリナのランプ』が封印されているテンプルか……けッ、外観は随分とシケてやがるな」

昼夜問わない強行軍でヴァル・ログ神殿へ到着した落第騎士(イリーガルナイト)――ジークフリートは、ボロボロのテンプルを見るなりこう吐き捨てる。

宝物が眠っているのならさぞかし豪華絢爛(ごうかけんらん)な外観を期待していたのだが、実物は苔まみれであちこちが崩れ落ちている有り様だった。

いつ崩壊するかも分からない建物へ入るのはなかなかに勇気がいることだ。

「人間はおろか、生物の匂いをほとんど感じ取れぬ。少なくともここ最近は誰も立ち入っていないようだ」

ジークフリートが連れているファミリア――アクタイオンは持ち前の嗅覚で入り口付近の様子を探り、主へ情報提供を行う。

「ふむ、入り口を護っていた結界もかなり弱まっているか……ジークよ、例の小娘どもが追いつく前に用事を済ませるべきでは?」

「そうだな……追いついても返り討ちにして口封じすればいいが、こちらの意図を嗅ぎつかれると面倒だ。さっさと行くぞアクタイオン」

「うむ……!」

ファミリアからのアドバイスに従い、灰色の落第騎士はずかずかと神殿の中へ入っていくのだった。


 一方その頃、僕たちは予想通りぬかるんだ山道を相手に悪戦苦闘していた。

「頑張れよお前ら! この泥沼を抜ければ多少は楽になるからな!」

3頭のユニコーンたちを大きな声で鼓舞しつつ、彼らの手綱を力強く引っ張ることで半ば強引に前進させていくイレイン。

僕とイーディスと万引きシスターズはそれぞれが乗ってきた個体の後ろに就き、お尻を押すことで前進をアシストする。

単に押すだけであるが、地面が軟らかいせいで踏ん張り過ぎると簡単に足が泥沼に埋まってしまう。

「げげっ、まーた足が埋まっちゃったよ」

「もう……気を付けてよソフィ」

体重が非常に軽い(何キロぐらいなんだろう?)万引きシスターズの妹ソフィでさえこの有り様だ。

彼女よりも重い僕たちは細心の注意を払わなければならない。

「クソッ、こんな苦行の先にある『ヤスマリナのランプ』ってのは、さぞかし凄いお宝なんだろうな」

「ええ、それに見合ったモノだといいんですけど……!」

いつもは冷静沈着なイーディスでさえ悪態を()いている。

下手な答えを返して彼女を刺激しないよう、僕は無難な言葉を選びながらユニコーンの尻を押し続けるのであった。

イレインが目的地として示した「ヴァル・ログ神殿」に辿り着くのはいつになることやら……。


 衛兵たちの監視を何とか掻い潜り、アーカディアからの脱出に成功したマーセディズとキヨマサ。

「なんて軟らかい地面だ……! 踏ん張れば踏ん張るほど足が沈んでいく……!」

「大丈夫か、マーセディズさん? 俺も降りて手伝ったほうがいいんじゃないか?」

こっちはこっちでユニコーンのエンツォが泥沼に悪戦苦闘しており、マーセディズが後ろから押すことで前進をアシストしていた。

しかし、エンツォは整地された競馬場に慣れている元競走馬なうえ、体力的な衰えを誤魔化せないほどの老馬でもあるため、下手するとジェレミーたち以上に苦戦する可能性が高い。

「いや、ダメだ。お前は手綱を握っていてくれ。そうしないと暴れ出した時に制御できなくなってしまう」

キヨマサからの提案を却下し、引き続き手綱を握っておくよう指示を出すマーセディズ。

ユニコーンは繊細且つ神経質なファミリアであり、ふとした拍子に驚いて暴れ出すことがあるからだ。

そんな時、手綱で制御できる人間がいないと自分自身を傷付けてしまい、その傷が原因で命を落とす事例も決して少なくなかった。


「この山道、一体どこに繋がっているんだ? 道中に集落があれば良いほうだが、この調子じゃ何も見つからないぜ」

「道をよく見てみろ。雨で消えかかっているが、ユニコーンと人間の足跡らしきモノがたくさん残っている」

悪態を吐いているキヨマサに対し、マーセディズは道に残っている足跡を見てみるよう促す。

「足跡……これはつい最近できたものだな」

「ああ、それなりに重装備のユニコーン3頭だ。人間の足跡は降りて引っ張っていった飼い主だろう。どうやら、ボクたち以外にも苦労してこの道を通った連中がいるらしい」

「……このどれかにジェレミーが乗っていたかもしれないのか」

ここまでヒントを出せばキヨマサも察することができた。

自分たちよりも少し前、ジェレミーをさらった連中がこの道を通過した可能性を――。

「シャルルが襲われたあの日、ボクはアーカディア周辺で最も有名な盗賊ギルドへ殴り込みに行き、そこでジェレミーらしき少年の情報を得た」

「そうだろうな。単なる情報収集のためだけに聖剣を持っていく必要は無かったはずだ」

スカヴェンジャーの見張りから入手していた情報と山道に残る足跡を基に、マーセディズが導き出した結論は……。


「ジェレミーをさらった盗賊どもの行き先は……おそらく、この山道の終点にある『ヴァル・ログ神殿』でほぼ間違いない!」

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