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【106】WALL OF ARKAS -脱獄大作戦、再び-

「(シャルルは安静にしておけば大丈夫そうだな。心配なのはむしろジェレミーのほうか……)」

妹の治療についてはヒューゴーに任せるべきだと判断し、自らはキヨマサと共にジェレミー捜索を優先することを決めたマーセディズ。

「すまないな、ヒューゴー。シャルルのことは頼んだぞ。何かあったらデンショサードに手紙を持たせて飛ばしてくれ。250キロ程度なら十分往復できるだろう?」

「ああ、それは構わないが……今日はもう日が暮れるぞ。遠出するのなら明日にすべきでは?」

ヒューゴーの意見はごもっともだ。

アーカディアはスターシア王国の中でもかなり北側に位置していることもあり、日没時間はリリーフィールドなど中部以南の地域よりも早くなる。

仮に今から町を出たとしたら日没時間を過ぎてしまうため、隣町に行くこともアーカディアへ引き返すこともできなくなるだろう。

もっとも、マーセディズとキヨマサは追われる身なので、一か所に留まる時間を減らすべきなのかもしれないが……。


 診療所から帰ってきたマーセディズたちは隠れ家で旅支度を済ませ、日没時間を過ぎてからアーカディアを発つことにした。

「どうするんだマーセディズさん? この時間はもうチェックポイントは閉じられているぜ」

キヨマサが指摘している通り、チェックポイントが閉じられてしまうと町の外へ出ることもできなくなる。

しかも、彼とマーセディズはシュタージの陰謀で追われる身となっているのだ。

チェックポイントのように身分証の提示を求められる場所を通過するのはリスクが大きすぎる。

かと言って、いつまでもアーカディアの町に閉じこもっているわけにもいかない。

「(ふむ、どうするべきか……)」

愛馬エンツォの手綱(たづな)を握りながらマーセディズは考える。

リリーフィールドよりは遥かに小規模だが、アーカディアにも貧困層や不法移民の集まるスラム街が存在する。

特に不法移民は堂々とチェックポイントを通るわけにはいかないため、城壁の内外を行き来するための「隠し通路」を複数用意している。

衛兵が把握しておらず、尚且つエンツォを通らせることができる隠し通路さえあれば……!


「……いや、道はまだ残されている! この町にも城壁の下を通るトンネルが掘られている。リリーフィールドの時と同じようにそれを使えば壁の向こうへ出られる」

「なるほど、そりゃ名案だ。一度ならず二度もナズリーの巣穴を通ることになるとはな」

世の中には登山者(クライマー)と呼ばれる城壁を難無く登り切れる冒険者もいるが、あいにくマーセディズとキヨマサにそのような技術は無い。

垂直に近い壁を登るには特殊なテクニックが要求されるため、素人が見様見真似で行うのは危険すぎるのだ。

そもそも、ゴキブロスみたいに壁をカサカサ登っていたら、衛兵の弓矢で狙撃されるのがオチだろう。

結局、町の外へ出るには「誰かが作った隠し通路を使わせてもらう」という結論に落ち着くしかなかった。

「今回は協力者はいない。ボクたちが自力でルート確認から安全確保まで行わなければならない」

「使えそうな隠し通路について当てはあるのか?」

キヨマサからの質問に対し、マーセディズは現時点における率直な見解を述べるのであった。

「ここの土地勘についてはそれなりに自信がある。2か所ほど候補は考えている」


 目が覚めるキッカケは頭上から落ちてくる雨粒だった。

万引きシスターズのユニコーンが体調不良を起こした後、山道で一夜を明かした僕たちを待っていたのは幸先悪い雨模様であった。

「この辺りは元々天候が変わりやすいが……それにしても、だ。あまり良いコンディションとは言えないな」

「ああ、少なくとも昨晩は気圧は安定していた。今回みたいな通り雨は前例が無い」

僕や万引きシスターズよりも早起きしていたのだろう。

イレインは山道の泥を手ですくいながら地面の状態を確認し、イーディスと長時間にわたって話し込んでいた。

「……ようやくお目覚めかジェレミー。ちょっとこっちに来てくれ」

僕が起きたことに気付いたのか、手招きしながら自分の方へ来るよう促すイレイン。

指示通り山道の方に近付くと、彼女は泥団子を作りながら地面の状態について説明してくれる。


「見てみろ、泥団子が全然固まらないほど軟らかい。ここまでベチャベチャだとユニコーンではまともに進めないかもしれん」

確かに、イレインが作っていた泥団子は早くも崩れ始めている。

ぬかるんでいる山道もこれぐらい軟らかい可能性を考えると、「ユニコーン自身の体重+騎乗者の体重+荷物の重量」を支えることは極めて困難かもしれない。

この辺りは道の整備がほとんど為されていないため、泥沼に足を取られまくることも十分あり得るだろう。

「確実に移動距離を稼ぐのならば、オレたちはユニコーンから降りて自ら歩くべきだろう……ふぅ、今日は長い一日になりそうだな」

完全に崩れてしまった泥団子を投げ捨てながら灰色の空を見上げるイレイン。

一日を全て移動に費やすことを思えば、彼女の言う通り「とても長い一日」になりそうなのは間違い無い。

「(マーセディズさんたちは大丈夫かな……できればあっちから追い付いてくれるといいんだけど)」

叶いそうにない希望を胸に抱きつつ、僕は細く険しい山道を長時間歩くための準備を始めるのであった。

【デンショサード】

長距離飛行を得意とする鳥型ファミリア。

極地以外の地域に広く生息している汎存種である。

高い飛行能力と優れた帰巣本能を持つことから、作中世界では伝令手段兼非常食としてよく飼育されている。


【ゴキブロス】

黒光りする昆虫。

体長10cm程度とそこそこ大きいうえ、身の危険を感じると凄いスピードでカサカサ逃げていくことから、所謂「不快害虫」として嫌われている。

なお、病気を媒介したり人に危害を加えるわけではないので、人間の勝手な理屈で悪者扱いされているとも言える。

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