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【104】REUNION -再会の姉妹-

「(少なくとも町中にはジェレミーはいないだろう。父上は隠れ家を上手く使えと言っていたが、こちらから動かないと彼を救い出せないかもしれん)」

これからは「攻撃的な逃亡生活」に切り替えることを考えながら帰路に就くマーセディズ。

幸い、彼女にはユニコーンという強力な移動手段があるので、その気になれば遊牧民のようなスタイルで逃げ回ることもできる。

問題はシャーロットが合流しない限り、ユニコーン1体で4人全員を運ばなければいけない点だが……。

「ん? あのモンスター――いや、ファミリアは……?」

その時、砂利道を歩くマーセディズの視界に2匹のファミリアが現れ、かなり慌てた様子で彼女の方へと近付いてくる。

「コーン! オコーン!」

「ピッピリッピー!」

「ルクレール! アスカ! お前たち、飼い主はどうしたんだ?」

飼い主に忠実なルクレールとアスカが自己判断で行動している――。

彼らの飼い主であるシャーロットとキヨマサに何かあったのかもしれないと判断し、マーセディズは不安に駆られながら家路を急ぐのだった。

「(何か悪い予感がする……早く帰らなければ!)」


 それから十数分後、隠れ家に戻ったマーセディズは衝撃的な光景を目の当たりにする。

「し、シャルル……! 誰がこんなことを……!」

彼女の目に飛び込んできたのは、腹部から赤黒い血を流し死んだように眠っている妹の姿。

「シャルル、ボクの声が聞こえるか? 無事なら目を開けてくれ……いや、返事だけでもいい!」

シャーロットは姉の呼び掛けに全く反応できないほど衰弱しており、このままでは本当に取り返しのつかないことになる可能性が高い。

「あまりショックを与えちゃダメだ、マーセディズさん……! 最低限の止血は行ったつもりだが、武器に特殊な加工がされていたのか上手く止まってくれないんだ」

気が気でない状態のマーセディズを諭しつつ、キヨマサはダメもとで暗殺者が落としていった「仮面」について尋ねてみる。

「ところで……これは俺とシャーロットを襲った『仮面の女』の落とし物なんだが、何か知っている事とかないか?」

「このウルフの仮面……見覚えがある。何年か前に戦った賞金首の特徴として手配書に記載されていたはずだ。確か……名前は『マーダー・ビゾン』といったかな」

証拠品を受け取ったマーセディズは記憶を(さかのぼ)り、3~4年ほど前に繰り広げた暗殺者との激闘を思い出す。

マーダー・ビゾン――。

それがキヨマサの命を狙い、シャーロットに深い傷を負わせた「仮面の女」の名前であった。


「キヨマサ、お前を殺しにやって来た刺客は鉤爪を使っていたか?」

心を落ち着かせるためにコップ一杯の水を飲み干すと、マーセディズは妹の容態を確認しながら「仮面の女」の特徴について聞き出そうとする。

仮面で素顔を隠している暗殺者は結構多く、マーダー・ビゾンと同じタイプの仮面を着けている別人である可能性も考えられるからだ。

「ああ、両腕に鉤爪を付けていた。光を全て吸収してしまいそうなほど真っ黒だった」

「そうか……やはりマーダー・ビゾンで間違い無い!」

キヨマサの返答を聞いたマーセディズは確信した。

特殊加工が施された漆黒の鉤爪もまた、マーダー・ビゾンの特徴である。

おそらく、奴はシュタージからの依頼でキヨマサの命を狙っているのだろう。

……だとしたらジェレミーのことがなおさら心配だ。

シュタージが彼の抹殺を目論んでいる可能性も十分に考えられる。

マーセディズはジェレミーの消息についてわずかながら情報を得ているため、今すぐにでも彼を探しに行きたかったが……。


 アーカディアはスターシア王国最古の都市の一つであり、リリーフィールド誕生以前は実質的な王都として機能していた。

リリーフィールドへの遷都(せんと)後は商人に対し優遇措置を取ることで交易都市として発展を遂げ、町の中心部は市場や隊商ギルドの関係者でいつも賑わいを見せている。

一方、中心部から少し離れるとかつて宰相や大臣の邸宅が置かれていた地区が広がっており、現在は中流階級の人々が暮らす閑静な住宅街へと生まれ変わっている。

そして、この住宅街の一角に「アーカディアで一番腕の良い医者」の営む診療所があった。

「処方したお薬を1日2回、食事の後に飲ませてあげてください。あとは水分補給をしながらなるべく安静にするように。体力を使うと快復が遅くなりますからね」

薬を入れた麻袋(あさぶくろ)を親子連れに手渡し、優しく微笑みかける医者と思わしき青年。

「ありがとうございます先生。北の大陸で噂の流行り病じゃなくて安心しました」

「病気が治ったらまた友達と一緒にあそんでいいの?」

「ああ、誰かにうつる病気じゃないから大丈夫だよ」

少女の質問にそう答えてあげると、彼女は嬉しそうにニッコリと笑う。

青年――ヒューゴーにとっては「患者の笑顔」こそ最高の報酬であった。


「(ふぅ……今日の診察はこれで最後だな)」

待合室に来診者がいないことを確認し、店じまいのために掃除を始めようとするヒューゴー。

「ヒューゴー、急患よ! 聞こえてるの!?」

その時、彼の母親にして看護師を務めるレイラが大声で急患の来訪を知らせる。

「そこまでも叫ばなくても聞こえてるよ! まだ診察できるから中に通してあげてくれ!」

「分かったわ!」

レイラに急患を通すよう指示を出すと、ヒューゴーは片付けを中断し仕事着である白いコートを身に纏う。

しばらく待っていると「急患」がドンドンドンとドアをノックしてくる。

マナーが悪い患者はあまり好きではないのだが、医者としてはどんな人物であっても平等に対応しなければならない。

「ヒューゴー、ボクだ! マーセディズだッ!」

「! 急患って君のことだったのか!?」

恩人の切羽詰まった声を聞いたヒューゴーはすぐに椅子から立ち上がり、診療室のドアを勢い良く開けるのだった。

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