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【97】MASTERMIND -黒幕の影-

「よおイーディス! ちょっといいか?」

部屋の主の名前を呼びながらバンッと扉を開けるイレイン。

「何が『ちょっといいか』だ。アタシが返事する前に入って来てるだろうが」

その扉の先にはベッドに腰掛けながら本を読んでいる金髪のメガネ美人――イーディスの姿があった。

読書を邪魔された彼女は読んでいた本をパタンと閉じ、メガネの位置を調整しながらこちらに近付いてくる。

第一印象は……綺麗だけど怖そうな人だ。

「この小僧……昨日誘拐してきた奴じゃねえか。どうしてここにいるんだよ」

品定めするように僕の姿をジロジロと見た後、イレインに対してこう尋ねるイーディス。

彼女は明らかに僕のことを歓迎していなかった。


「シュタージか奴隷商人に売り渡してもよかったが、オレ様はこんな子どもで金儲けするほどクズじゃねぇ。ただ、シュタージに追われてるのが可哀想だと思ったから助けたまでだ」

部屋の扉を閉めると、書斎机の椅子に腰を下ろしながら僕を売らなかった理由について語り始めるイレイン。

「ハンッ、人の物を盗って生計を立てている奴が今さら人助けか? 抵抗する護衛は何人も殺してきたのに、その小僧だけ特別扱いってのもおかしな話だな」

それを聞いたイーディスは矛盾だらけの行動を指摘し、メガネのレンズを拭きながら鼻で笑う。

「子分どもは賛成してくれたぜ。お前だけが反対したとしても一度決まったモノは覆らない」

イレインのほうも引き下がるつもりは無かった。

彼女は多数決原理を持ち出し、あくまでも「スカベンジャーのリーダー」として一度下した決定は突き通すつもりだ。

「……はぁ、分かった分かった! お前とはスカヴェンジャーを始めた頃からの付き合いだし、一度決めたら考えを曲げないのは知ってんだよ」

しばしの沈黙の(のち)、イーディスは意外なほどあっさりとリーダーの決断を受け入れる。

……しかし、不服そうな表情が彼女の内心を何よりも物語っていた。


 先ほどまで読んでいた本を本棚に収め、突然部屋の床に散乱している私物を片付け始めるイーディス。

この部屋のベッドは限られた空間を活かせる二段ベッドとなっており、収納スペースと化している上段は誰かが使っているようには見えなかった。

「念のために聞くが、まさかその小僧の世話をアタシに押し付けるつもりじゃないだろうな?」

「そう、そのまさかよ。さすがに全部押し付けるつもりはないが、オレ様は仕事で遠出することも多いから、ジェレミーの新人研修に付き合いたくてもできない状況が出てくる」

イーディスからの質問に対し、僕の頭をポンポンと軽く叩きながら笑って答えるイレイン。

「だから、オレがいない間は一番信頼できるお前に任せようと思ったのさ」

「果たしてそうかな? こいつと歳が近い万引きシスターズのほうが良いと思うがな」

「あいつらはダメだダメだ! 歳が近い男と一緒にしたら、ナニをするか分かったもんじゃない!」

万引きシスターズ?

物騒な異名を持つ彼女らが何者なのか全く想像できないが、スカヴェンジャーには僕と歳が近い少女も所属しているらしい。

何かしらの複雑な事情を抱えている()たちが……。


「……クソッ、しょうがねえなぁ。少しぐらいはお前の『お姉ちゃんごっこ』に付き合ってやる」

十数分にわたる押し問答の末、イーディスはついに折れてしまった。

彼女は抱えていた木箱を床の上に置くと、僕の方へ近付き突然両肩をガシッと掴んでくる。

「勘違いするなよ小僧、アタシはお前のことはまだ認めていない。自分の身はせいぜい自分で守ることだな……前のルームメイトはそれを守れなかったから、ヘマを命という代償で支払うハメになった」

そう吐き捨てながら僕の額を指で弾くと、金髪のメガネ美人はそのまま部屋から出て行ってしまう。

彼女の言いたいことは分からないことも無いけど……。

「気にしないでくれ、アイツは新入りにはいつもあんな感じなんだ。根は悪いヤツじゃないんだがな……」

僕の頭をまたポンポンと叩き、イレインは部屋の窓を開けて霧雨が降りしきる曇り空を見上げる。

「その理由はアイツから信頼を勝ち取って自分で聞いてくれ。一つだけ言えることは、アイツは想像を絶するほど過酷な人生を歩んできた……それだけだ」

おそらく、長い付き合いを持つ友人として彼女は知っているのだろう。

そして、僕はもう少し後になって知ることになる。

……イーディスの壮絶な過去とスターシア王国の暗部を。


 一方その頃、ここは王都リリーフィールドの中心部にあるリリーフィールド城の秘密会議室。

この部屋は盗聴などを受けにくい地下に設けられており、決して部外者に漏れてはならない重要な会議を行う際に用いられる。

逆に言えば、秘密会議室が使われるほどの議題とは王家存続(=国家存続)に関わる問題である可能性が高い。

「ええい! 災厄をもたらす異界人とやらはまだ始末できぬのか!?」

机をバンバンと叩きながら家臣たちに怒鳴り散らしている彼の名はライオネル・ソル・スターシア。

スターシアという姓が示す通り、金髪碧眼のこの少年はスターシア王国の王族――しかも世継ぎとしての権利を有する第一王子だ。

「父上も姉上も事の重大さを理解しておらぬから、余が直々に指揮を執っているというのに……!」

「も、申し訳ございません殿下……まさか、聖剣士の一族を筆頭に多数の協力者がいるとは想定できず――」

「言い訳は要らんわ! かつてグラリエルとの戦いで多数の兵を死なせた貴様を再び指揮騎士として抜擢したのだから、それ相応の働きはしてくれたまえ!」

指揮下の部下たちを一通り叱責した後、年相応のタメ息を()きながら王族専用の椅子に腰を下ろすライオネル王子。

「……それで、末席に座っている仮面の女が貴様らの用意した『切り札』とやらか?」

彼の視線の先には、誰がどう見ても明らかに場違いな「仮面の女」の姿があった。

【父上】

ここで言う父上とは「妊娠出産した方ではない女性」のことなので、ライオネルから見た場合は国王リリー・ルナ・スターシア9世を指している。


【グラリエル】

スターシア王国があるアメリケヌ大陸の西部に存在する砂漠地帯。

そこには様々な先住民族が暮らしていたが、スターシア王国の西部進出によって壊滅的な打撃を受け、彼女たちの多くは優秀な奴隷として使役されている。

ただし、スターシア側の損害も決して少なくなかったため、これ以降スターシア王国の領土拡大政策に歯止めが掛かる結果にも繋がった。

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