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好奇心が人を活かす

友人の誕生日プレゼントで書いた作品です。

自分ではあまりよい出来とは思えないのですが、評価をいただきたく掲載します。

感想よろしくお願いします。


「喫茶店?」

「そうさ」

 話しかけてきたのは、佐島。高校に入学してからずっと同じクラスで、性格も趣味も全然かみ合わないのに馬が合う。腐れ縁というやつだ。もっとも、たいていはこちらが振り回されているが。

「お前がそんなところに行こうだなんてどんな風の吹き回しだよ」

「いやなに、なんか最近さ、女子の間で噂になっているんだってさ。なんでも、減量中だった細川があんなにやせたのも、それが秘訣らしい」

 細川はうちのクラスの女子だ。名前こそスレンダーなイメージだが、当の本人は全くの真逆。脂肪が全身に蓄えられ、男子の間で『太川』と揶揄されていた。細川自身もずっとやせるために努力していたようだったが、誘惑に負けていつもダイエットに失敗していたそうだ。

「そういえば、最近の細川は随分と変わったな」

「そうそう、今じゃクラスの中でもかなりかわいいって周りの男子は言っているぜ」

「驚くばかりの手のひら返しだな」

「まあ、そう言ってやるなよ。ムッツリのお前には到底わからないだろうが、それがオスのサガってやつだろうさ」

 目の前のこいつは、無類の女好きだ。たとえそれが二次元であろうが三次元であろうが関係なく、女とみれば見境がない。もちろん、法律を犯すほどの蛮勇はないチキン野郎なので、さすがに小学生を口説いたことはないらしいが。

「お前らしい意見だな。あと、ぼくのことをムッツリと呼ぶな」

「男が女を好きになるのは至極当然のことだぜ? お前だって別にホモじゃねえんだし」

「いやでも、お前ほど貪欲にはなれねえよ。お前くらいだろうよ、モテるためだけにそんな噂までこそこそと収集をしているのは」

 佐島は、女にモテるためにあらゆる努力を己に課している。女に受けるファッションを知るために雑誌を購読し、美容のために専用のファンデーションや香水を使っているのだ。そして、女との会話にも使える情報として噂にまで手を広げていると聞く。

 もっとも、あまりにもガツガツしているせいで今まで会ってきた女から例外なくフラれているため、努力は全て空回りに終わっているのだが。

「まあまあ、そう言うなよ。お前にだって利がある話なんだぜ?」

「またデマじゃないだろうな? 現代の小野小町がいるとか言って見に行ったら、実物は噂ほどでもなかっただろう」

 あれはひどかった。実物がなかなか外へ出ないということで実は美人ではないかという噂が出回っていたのだが、徒労に終わった。たしかに、小野小町のように本人が滅多に顔をさらさないというところだけは共通していたが。

「まあ聞けよ、今回はちゃんと調べてきたさ。場所もちゃんとしているし、客もそこそこいるらしい。個人経営だからバイトの求人情報はないが、少なくとも営業はしている」

「どうだか。前に、美女の幽霊が出てくるからって冬場に田舎の山に連れ出したときもあやうくお前といっしょに凍死しかけただろうが」

「ま、まあ、そんなこともあったな。でも、この街の外れにあるだけあって、絶対に命の危険はないぞ!」

「お前が『絶対に安全!』とのたまっても、全く信用できんがな」

 とはいえ、毎回こいつに付き合ってしまうのがぼくというやつだった。


 町の外れにて。

「ここ、か」

「そう、ここが噂の喫茶店だ」

 目の前にあるのは、こぢんまりとした小さな店。喫茶店らしく外には椅子とテーブルが置いてあるが、ほとんどの客は店の中にいるようだ。

「佐島、店の看板には天井って書いてあるが、なんて読むんだ? テンジョウ?」

「いや、加藤、あれでアマイと読むらしいぞ」

「喫茶店『アマイ』か」

 名前からしてスイーツを扱うようだ。たしかに女子は甘味を好む者が多い。ということは、この店は名前の通り甘い菓子を売り物にしているのだろうか。

 店の中に入ってみるとそのテーブルのほとんどは空席で、客もまばらであった。

「いらっしゃいませ、初めてのお客様ですね。店長の天井と申します」

 佐島が調べて

「こちらへどうぞ」

 客をよく観察するとうちの高校の女子生徒がいた。しかも、クラスの中でも人気者と呼ばれるようなやつばかりだ。

「すいませーん、メニューがないんですけどー」

「ああ、すみません。うちにはメニューというものがないので」

 たしかにどこのテーブルにもメニューは置かれていなかった。普通の店ならば大量のクレーマーがおしかけて潰れてしまうだろう。だが、この店は女子生徒の間で噂になるほどだ。なにかあるのだろう。客を惹きつけてやまないなにかが。

「どうぞ、チーズケーキです」

「あの、頼んでいないんですけど」

「初回サービスです。もしも一口食べておいしくなかったら残していただいてもかまいません。その場合は、お題は結構です」

 それだけ言うと店主は奥へ引っ込んでしまった。他の客も騒ぐことなく談笑とともに食事を楽しんでいる。少なくとも帰れという意味ではないようだ。

「でも、どう見てもただのチーズケーキだよな。本当にここが噂の喫茶店なのか?」

「そのはずだ、たぶん、十中八九、おそらく」

 チーズケーキにフォークを刺す。手応えは普通のチーズケーキよりも少し硬い程度で、目立った違いは見受けられない。

 すると先に食べていた佐島が驚きの声を上げる。

「うまい!」

「そんなに?」

 ぼくもチーズケーキを口に運ぶ。もっとも、ぼくにはそんなに驚くほどおいしそうには見えないが。

「ほう」

「うまいわー」

 たしかにこのケーキはうまい。佐島のように叫ぶことはないが、市販のケーキよりもずっとおいしい。

「砂糖とバターの代わりに、細かく砕かれたクルミとクリームチーズの風味が前面に押し出されている。食欲が刺激されるな。ケーキといえば胸焼けするほど砂糖を使うものだが、このケーキにはしつこい甘さがないおかげで素材の味がしっかりと出ている」

「そうだな、そのおかげで甘いのが苦手な俺でも食べられる」

「それに、菓子というものはバターと砂糖を入れればおいしくできるが、たいていはそのせいで胃もたれが起こる上に、高カロリーなので脂肪として身体に蓄えられてぶくぶく太る。しかし、このケーキはバターをほとんど使われていないようだな」

 なるほど、これなら満腹になるまでいくらでも食べられる気がする。

「お待たせしました」

「え、でも」

「お客様が非常に喜んで召し上がっていたようでなによりです。チーズケーキがお気に召したのなら、こちらもどうでしょうか」

 店主が出したのはアイスクリーム。色は白く、握りこぶし程度の大きさだ。

「では、ごゆっくり」

 店主が奥へと戻っていくと、貪るように佐島はアイスクリームを食べる。どうやら佐島はここのスイーツを気に入ったようだな。

「この味はバナナかな。アイスクリーム特有の乳のにおいがしない。それに、甘さも控えめだ。でも、冷えているだけあってその甘さが引き立つ」

 佐島は黙々と食べている。口を開くことでこれを十分に味わうようにも見える。

「それにしても、不思議だな」

 いわゆるアイスクリームというものは、冷やした牛乳のようなものだ。つまり、牛乳と同様に脂肪分と糖分を大量に含んでいる。他のスイーツと違ってしつこく甘さを感じることはあまりないので、ついつい食べ過ぎてしまう。

 けれど、このアイスはあまり甘くない。たしかに牛乳特有の風味はあるし、アイスと同様に冷たいことを舌で感じ取れる。だが、食感はアイスとはまるで別物だ。なんというか、かき氷とアイスクリームの中間のようなのだ。固形物のような固さを持ちながらも、流動体のような軟らかさもある。不思議な味だ。

「ごちそうさまでした」

「あーうまかった」

「それはありがとうございます」

 佐島は満腹になったと言って一足先に会計を済ませてしまった。自分から誘っておいてなんとも図々しいやつだ。

「それにしても、ここのスイーツはどうやって作られたんですか? 菓子にしてはあまり砂糖を使っていないようだったんですが」

 店主はいたずらっ子のように惜しみなく種明かしをする。

「一品目のチーズケーキ。これの材料は、牛乳、ハチミツ、米粉、米油、卵、砂糖、クリームチーズ」

 ここまでは普通のスイーツとさほど変わらない。さすがに分量までは教えてくれないが、あのケーキの秘密はまだ不明だ。

「ですが、ここにおからを生地に混ぜ込むことであの味へと変化します」

「おから?」

 おからといえば、あの豆腐を作るときに残った搾りカスのことか。たしかに栄養的にとても健康にいいと聞いたことがある。

「次にアイスクリームですが、実を言えばあれは厳密に言うとアイスクリームではありません」

「食感からしても違いましたよね」

「ええ、その通りです。あれは、おからとヨーグルトとバナナでできています」

「牛乳もバターも砂糖も、およそスイーツを造るのに必要不可欠な素材を一切使っていないんですか?」

「ええ。しかも、このアイスクリームは非常に簡単に作れます。冷凍したおから、バナナ、ヨーグルトを混ぜ合わせるだけなんです」

 なるほど、ヨーグルトが含まれているから牛乳の風味がしたのか。だが、おからが含まれているから固形物でも流動食でもない独特の食感だったという訳だ。

「おからは健康にいいというのは、誰しも聞いたことがあるでしょう。ですが、おからの利点はそれだけではありません。普段の食事では不足しがちなカルシウムや食物繊維を多く含み、カロリーも非常に少ない。美容や減量におからは非常に有効的なのです」

「だからこの店には女性のお客さんが多いんですね」


「加藤先輩、なにやってんですか?」

「昨日のことを記事にまとめようと思ってね」

 普段から佐島に振り回されているぼくだが、転んでもただでは起きない。こうして、貴重な体験を記事にして新聞部で発行されている部誌に投稿しているのだ。

「喫茶店『天井』、女性にオススメ、っと」





参考URL

おからチーズケーキ

https://cookpad.com/recipe/5137942

生おからアイス

https://cookpad.com/recipe/4561502


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