第6話
「ホンットに海見てたの?このクソさっびーのに!」
私達は東京湾が見える景色の良い場所で落ちった
「あーいや、今外に出たばっかりだよ…タバコ吸いたかったし…この寒さは中年には堪える」
紺のスーツに皮のコートに身を包んだ中年のおじさん
私の上司、伊奈室長
「なに、今回の報告は口頭で良いの?」
「なにバカな事言ってんの!いつも文書にまとめてんなぁボクだよ?君ぁ元々いつも口頭じゃないか!」
「まぁねぇ」
ーカチッー
室長はタバコに火をつける
「で…三和の状況は?」
「状況もクソも、なーんも変わらないわ…至って平和よ?つか、なにあの街…いや街というか村か…なんもないわよ」
「ふむ…」
「まぁあの捜査対象も毎日何も変わらないわ…あ、でも」
「ん、何かあるのかね?」
「あの地域にひと世帯、引っ越してきたわ」
それを報告しようと思って私は越してきた世帯の家族構成を書いたメモのファイルを渡す
「今時手書きかい…?」
「他人の戸籍なんかを写しでも私用で持ち出したら支所なんて職場にいれないわよ」
「分かってるって…ふむ、小向…」
「まぁ今の所は目立つ動きなし」
「分かった…ありがとう」
「で、何…?まさかこれで終わりじゃないでしょうね」
「いやいや!まぁ…今の現状を教えてもらうのと同時に、君には頼みたい事があってねぇ」
「イヤよ」
「んな即答かい…」
「いくら潜入捜査とはいえ、あんな過疎の進んだクソ田舎の支所にブチ込まれて半年よ?」
「いやーボクも何度か足を運んだけど、空気が美味くて星がキレイじゃないか…」
「空気や星で腹は膨れないわよ」
「キミは夢とかそーいうのないねぇ…」
でも、事実な事に変わりはない
「ま、実はボクも拠点をそっちに移す命令が下ってね」
「…ふーん…あの三和にオフィス構えるほどのビルなんてないけど?」
「あーいや、三和の隣町の八幡原という小さな街のオフィスだ」
「あーあそこなら車で20分くらいだし、多少は街と言えるわね」
「そこで、君の直属の上司である私が直近で指揮、命令を下す」
……指揮系統を直近にするって事は…何かあるのかしら?
「ま、分かったわ…で、お願いって?」
「うむ、もう1人の対象Mなんけどね…君はある程度関係があるだろう」
…?
Mか…まぁ若い女の子ではあるが、あの対象とは深い関わりがあるからな
「Mとは…多少お話出来る位よ?エッチな関係はまだよ?」
「そんな関係、未成年の児童と築かれたらたまったもんじゃないよ」
「まーでも、Mってスッゲー可愛いのよねー!ありゃ男の子はほっとかないわ」
「オホン…まぁ、その可愛いMと、今より更に深い関係を構築して欲しい…変な関係じゃないよ?」
深い…
捜査をこちらからある程度動かす気かしら?
「それがお願いって事?」
「うむ、できれば早急にね」
「深いって言ったって…具体的には?」
「まぁ、一度メシでもご馳走してやれば、そこそこ仲も深まるってもんだろうし、そこから三和の内情や捜査対象本人、根城ではなかろうかという山林の事を引っ張り出してもらいたい」
ーヒュウ…ー
ひときわ冷たい風が私達の身体を叩きつけた…
あの女の子とか…ま、そのくらいなら引き受けよう…
結構可愛いし♪
「ま、メシ奢るのは良いけど、領収書切るわよ?」
「可愛いからって、お酒飲ましてウフンな事ぁダメだよ?」
「しねーっての」
「まぁ、君も若いコの話も聞いてみて若返りを図ってみるのも良いだろう?」
「あ?私が若くねーっての?」
「Mよりゃお歳を召してるでしょ?」
…ったく…花も恥じらう、結婚適齢期の女にヒドイセクハラね