第2話
私はキッチンの戸棚から、猫用の煮干しを取り出す
ーカラカラー
煮干しを数匹、お皿に盛ると、プーはお皿にがっつく
「ほら、ちょっとだけよ?」
真っ白い、まん丸な白い毛並みの体を揺らして、煮干しを美味しそうに食べる
………
まぁ、1人は慣れたとはいえ、やっぱり寂しくなる時はある
16歳の高校生の女の子だし…
ーコンコンコンー
!!?
不意にキッチンの曇りガラスの窓を叩く音
そこには、見知った顔があった
ーガラガラー
「何やってんのよ…来たんなら玄関から来なさいよ…」
私は呆れ顔でキッチンの窓を開ける
「ははー♪だって、こっちから音とアンタの独り言が聞こえたし」
「独り言じゃないわよ?プーと会話してたのよ」
名前はユウカ
木村ユウカ
私の古くからの友人、いわゆる幼馴染だ
「待ってなさいよ、玄関開けるから」
「ほいほい」
私は玄関に回り、鍵を開ける
「…あら?雨上がってるわね」
「うん、来る途中までは降ってたんだけどねぇ…通り雨だったみたい」
「雨の中来たの?止んだとはいえ…」
「んーま、暇だったし」
「まぁ良いわ…上がりなさいよ?」
「上がんのは良いけどさ、お菓子とか食べんのあんの?」
「…そういえば無いわね…買い出しは明日行こうと思ったし」
「じゃ、ばーちゃん家行こーよ」
「…そーね、じゃ、支度するからプーと遊んでて?」
「おけおけ!おらー!プー!良い子にしてたかーー?」
ーモニュモニュ!パンパン!ー
ユウカがプーのお腹をモミモミ、そして軽くペチペチパンパンと叩く
「ニャ〜♪」
なんでか喜ぶプー
ーーーーー
冬とはいえ、雨上がりの外はなんだか気持ちいい
ユウカが言う、ばーちゃん家とは、私の家の近所にある駄菓子屋さん
そこを目指して、2人で周りが田んぼだらけのアスファルトの道を歩く
ージャリ、ジャリー
雨上がりの、濡れたアスファルトを踏みしめる音がなんとも気持ちいい
しかし、私達の住むこの地域は本当に過疎化が進んでいる
名前は三和町
驚く程に、田舎なんだ
家と家の間隔は恐ろしく遠いし、お店なんかほとんど無い
小さなスーパーが1件あるだけ
生活用品はそこでなんとか買えるけど、洋服やアクセなんかは電車とバスを使って街に買いに行かなければならない
私の通う高校も、そこひとつしかないし…
そして、この街にはある1つの怪談みたいなお話がある
戦争中、この三和にある山に駐屯していた旧日本軍が100人近くの兵隊が一日にして全て姿を消すという事件…
「兵隊さんの神隠し」
なんて呼ばれた怪談染みたお話
そして正式名称は
「三和町軍隊消失事件」
当時は少し、ちょっとしたニュースにもなったみたい
でも詳しい話は知らないし、良く分かんないけど…
そんな事を考えてると、目的の場所にたどり着く
私が小さな時からお世話になっていた、ヤエばーちゃんという人の駄菓子屋さん
私の家から500mもほど歩いた所にある
ーガラガラー
到着するとユウカは
「こんちゃーす!!」
元気良く挨拶をしてお店に入る
「あらあら、いらっしゃいお2人とも」
真っ白な髪の毛を、後ろで束ねた、優しそうなヤエばあちゃんが読んでいた新聞から視線を上げて私達を見る
「何食べよっかな〜♪」
ユウカは早速お菓子を品定めするユウカ
「アンタ…ラーメン食べんの?」
ユウカが取ったのは、ブタメン…
お菓子というより、少し遅い朝ご飯だわ
「だってさみーし」
「まぁ…良いけどさ…朝ご飯食べたんなら太るわよ?」
「アンタサラッと人が気にしてる事言うよね…」
まぁ、ユウカは別に太ってる訳ではないけど、いつも体系を気にしてる
「…太るとえーとなんだっけ?彼氏の…リュウタ君に嫌われるよ?」
「べっつに〜ブタメン1個なら大したことないし!あ、ばーちゃんお湯!」
ユウカがお金を払い、ブタメンをばーちゃんに差し出す
「ちょっと…ばーちゃんにやらせんじゃないわよ…お湯くらい自分でやりなさいよ」
私はユウカからブタメンをふんだくり、カウンターにあるポットで私がお湯を入れる
「へーい」
「…サツキちゃんは良いお嫁さんになれるねぇ♪」
ニコニコと、私を見ながらヤエばーちゃんが唐突に話す
「え…そうかな…」
「あ!今日はサツキの彼氏は?」
「コタロー君かい?」
「ちょっと…ユウカ、アンタ何言ってんのよ」
コタローか…
ーガラガラー
不意に開く、お店の引き戸
「こんにちは…」
「アッハ♪バッチリなタイミングじゃーん!」
そこに立っていたのは、話題になったコタロー本人だった