Ep2 マジックハンター
隊員のナンバーに違和感を感じるかもしれませんが、間違いではありません。
特殊支援部隊はハイグレイズとグレイフォージャーの2つのみで、普段は交代制で待機しているが今回はたまたま被った時間に当たった様だ。
ただ、グレイフォージャーはハイグレイズの穴埋め的な役割が大きく、割り当てられる待機時間もハイグレイズの方が長い。
実のところ、超能力とも呼べるパーソナルアビリティを持つエージェントは少なくないが、機構の職員で魔法を扱えるものはかなり少ない。だがハイグレイズは魔法のスペシャリストという立場にある。例えば世界間移動こそ機構の転送装置が必要だが、同世界間における短距離ワープ等は全ての隊員が使用可能だ。
「こちらハイグレイ02、7名全員の転送完了。これよりUAV展開準備に移る」
岡本班の無線がハイグレイズの電波を受信する。
UAVとはつまり無人航空機の事を示す。
「岡本班よりハイグレイズ、これより我々は情報収集活動の為戦闘地域に侵入する、支援内容の判断はそちらに任せる、だが邪魔はしないでくれ」
「ハイグレイ02了解」
ハイグレイズには特筆すべき点が多く、彼らを理解する為にはそもそも彼らが魔法のスペシャリストである理由を知る必要がある。
機構の特に日本支部には人間でない職員も少数ながら存在する。彼らは異世界に人間でない存在として転生してしまい、機構に回収されたが社会に行き場が無い為に機構の職員として生きていくわけだ。
だがハイグレイズはこれに当てはまらない。ハイグレイズの隊員は皆元から異世界の存在なのだ……
町の火災は勢いを増すばかりだった。炎に逃げ道を塞がれた人々は魔物に追い詰められ、抵抗虚しく殺されて行く。元の世界では到底見ることのできない光景だ。
「ダメだなこれは、情報収集どころじゃない」
岡本班は結局町の中に入ることができず、少し離れた場所で観察していた。
「こちらハイグレイ02、現在岡本班のヘッドセットの情報を見ている。敵勢力は最前線において統率がとれていない。自分達の優位を確信し好き勝手に暴れている。岡本班長、重要な情報は作戦の進行に必要なもの全てであり強制回収対象の手がかりだけではない」
「了解」
「UAV発進完了、間も無く現場に到着。岡本班へ、我の指揮下について欲しい」
「岡本班了解……これよりハイグレイズの指揮下に入る」
「ヘッドセットにUAVの情報を回す、安全な場所で待機せよ」
小型のターボファンエンジン1機を搭載した全身翼のUAVにはサーマルカメラと可視光カメラに加え、小型の対地レーダーが搭載されており。騒音の大部分は後方上方へ向かうように設計されている。
UAVが送信してくる情報の中で1番の注目を集めたのは、魔物の大群の中に存在する人型の存在であった。しかし人型の存在と言ってもその姿は人間のこれとは異なり、頭には羊のような角、背中にはコウモリのような翼、そして長細い尻尾が生えている。
「成る程、いわゆる悪魔か。典型的な魔界式侵略パッケージ」
そうハイグレイ02が呟く。ハイグレイズの隊員は皆フェイスマスクにゴーグル、ヘルメットを装備しており、03、08、11を除き肌の露出が存在しない為、隊員は肩に書かれたナンバーで識別する。
「こちらハイグレイ02、これより敵部隊指揮官と思わしき人型存在をキャプチャー、尋問を試みる。07出撃」
「こちら岡本、まさかこの空飛んでる悪魔を捕まえるのか?」
「そうだ」
「らしくないぞ、敵の能力はまだ未知数だ」
「今回の任務では複数人の転移が確認さており、その数は尚も増加し続けている。いち早い事態の解決がいっそう求められる。何の道避けては通れない道ならば奇襲のチャンスを逃すわけにはいかない」
ハイグレイ07、その正体は魔竜だ。だが転送の際そんなものは存在していなかった。07は02の召喚獣のようなものであり、02の付近にどこからともなく出現する。
07は高度3000m程まで上昇し、魔物達の侵略方向の側面を迂回し後ろにつく。油断しているキャプチャーターゲットに後方から迫ると急降下を開始した。降下角およそ70度での急降下だ。
しかしターゲットは魔竜である07の存在を関知してしまう。だがそれも想定内、ターゲットが空を見上げたとき、そこには何も存在していなかった。そう、何も存在していないのだ。
15秒後、07はターゲットの背後に出現し、ターゲットを口で捕まえると再びターゲットと共にその姿を消した。まるで地面の中に入ったかの様に……
これこそが07が得意とする秘密の魔法、任意虚位相移動技術だ。ベクトルオペレーターを用いて自身の位置座標を虚位相空間にシフトさせることにより消えたように見えるのだ。つまり同期された別世界に移動している。故にターゲットは07を認識できなかった。(すごく簡単に言うと、裏世界に行ってます。)
だがそれは07も同じことであり、訓練と経験によって戦術的実用性を確保している。しかしそれでもその虚位相空間は真空であり無重力である為本来生物の存在できる環境ではない。07にかかる負荷も相当なものとなる。
だがそれは07と共に転移したキャプチャーターゲットも同様である。ターゲットからしてみれば、気持ちよく人間共を虐殺していたら突然ドラゴンに咥えられて、宇宙空間のような場所に飛ばされてしまったのだ。
「こちら02、ターゲットキャプチャー。生体反応あり、気絶状態。岡本班は今こちらが指定した合流地点に移動、07及び03とランデブー」
「岡本班了解……すごいな」
岡本班は指定されたポイントまでヘッドセットの透過型ディスプレイの表示を頼りに移動して飛来した07と合流し、そこへ03も走ってくる。
07が咥えた悪魔は07の魔法で拘束されているが、覚醒した場合何が起こるかは想像できない。今回は単に不意をつけたからうまくいっただけなのかもしれないという不安が皆にある。
(覚醒は能力の発現とかではなくて単に目を覚ますことです。起きること。)
ハイグレイ03は悪魔のコウモリのような翼に触れると顔を近づけ観察する。
「よし、切り取ろう」
そう言ったハイグレイ03は腰からタクティカルナイフを取り出した。
「03、マジか……」
岡本班のエージェント元木が嫌そうな顔をして言った。
「マジだ。覚醒しなければ角も破壊する」
情け容赦ない拷問が始まろうとしていたところへグレイフォージャーが転送されて触れるので来る。
「こちらグレイフォージャー、現場に到着。ハイグレイズの指揮下に入る」
ハイグレイズの異世界における影響力は大きく、後続の主力の増援が到着するまでの間、その世界において指揮官の様な立場になる。
「02より03、尋問はグレイフォージャーの到着を待て、そちらに向かわせる」
眠らせた悪魔と03を囲む形で岡本班とグレイフォージャーの隊員達が武器を構える。武器と言っても様々であり、03の様に銃を構える者もいれば、剣や両手斧を構える隊員もいる。
「それでは始める」
振り下ろされたタクティカルナイフは悪魔の翼を切り裂くが、切り落とすには至らず、03はナイフを逆手に持ち替え切断する。
03が両翼を切り落とし、岡本班長に角を破壊するよう頼もうとしたときようやく悪魔ま目を覚ました。
「岡本班長、この角を切り落と」
「ウアアアアアアアアアアア!!!」
悪魔は発狂して暴れるが、魔竜である07の魔法の拘束を脱する事ができない。03はそんな悪魔の胸にライフルを撃ち込んだ。
“パン!”
「アアアアッ!!アアアアアア!!!」
反応を見て03は直ちに悪魔から走って離れた、直後周囲は炎に包まれる。しかしその炎は07の展開したシールドによって防がれた。
「まだだ!来るぞ!」
無線から02の大声が聞こえた。直後周囲は黒い炎のような何かよくわからないものに覆われた。いわゆる闇の魔法だ。同様にこれも07の展開したシールドで防がれたが、03はその中にライフルを撃ち込む。
“タタタン!タタタン!タタタン!タタタン!”
「03より02、AMP弾の使用を推奨する」
「その必要はない。クローズファイヤー」
「ラージャー」
悪魔はその力を出し尽くしたのか、間も無く攻撃は止んだ。
「こちら03、攻撃を評価。7.62mmNATO弾非貫通。損傷与えるも貫通せず、一部めり込むも弾かれている。02、状況報告」
「こちら02、ターゲット沈黙するも意識あり、ソールスペクトグラムに変化あり、残存エネルギー大、警戒せよ」
「03よりグレイフォージャーに発令、AMP弾の使用を許可。厳重警戒」
グレイフォージャーの隊員達はライフルを構え悪魔を照準する。機構は友軍勢力に関して言えば基本的には人命尊重の姿勢を取る。しかしこの特殊支援部隊達の優先事項は常に”現状打開”にあり、基本的には人命は軽く扱われる。故に03が射線に入ろうがグレイフォージャーの隊員達は照準を維持する。
「おい、起きろ。殺されたくなければこちらの指示に従え」
03はまぶたを無理やり開かせナイフの先端を悪魔の目に近付ける。特殊支援部隊の隊員達の頭には言語をインプットしていないが、ウェアラブル端末が同時通訳を行う。
「聞きたいことが山程ある、まずお前はあそこで何をしていた?何故人間を殺していた?答えろ」