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第3話 キャンペーン

 高校では帰宅部の僕は、家に真っ直ぐに帰ると部屋に閉じこもって美琴に電話をかける。

 それが日課となっていた。


 今日は、3コールで電話にでた美琴。


 しかし、彼女はどうやら学校らしく『またあとでこっちからかけ直すね。ごめん』と申し訳なさそうに手を合わせた。


 ちらっと見えた美琴の通う高校は、バーチャルとは思えないほどリアルで、俺の通う高校とほとんど変わらない光景だった。


 ユートピアにある高校は、美琴みたいに学校に行けずに余命宣告をされたり、高校に行っている途中で何らかの病気で余命がわずかになってユートピア・システムを受けたりした人は、無料で通えるらしい。


 美琴と同じ高校、いいなあ。一緒に通いたかったなあ。


 そんなことを考えて、試しにどのくらいの費用がかかるのかを調べてみたら、目ん玉が飛び出そうな額だった。

 費用の驚きが消えないまま、美琴から電話がかかってくる。

 

 制服姿の彼女はついついにやけてしまうくらいにかわいい。


『やけに帰りが早いけど、部活はまだ決めてないの?』


 美琴が一瞬で私服に着替えてそう尋ねてくる。つまんねーの。


「え? 部活? 入ってないよ」


『見学とかしないの?』


「そもそも部活、入るつもりはないからなー」


『そっか。じゃあ、家に帰ってイラストとか描いてるの?』


「イラスト? ああ、中学の頃描いてたなあ。でも、今は描いてないよ」


『えー。なんだ。もったいない』


「いやいや。超下手だったじゃん。あれを極めてもどーしようもないって」


 僕が笑いながら言うと、美琴は少しだけ考える仕草をしてから何かを閃いたような顔をする。


『じゃあ、小説を書いてみたら?』


「いきなり話が飛んだな」


『だって幸ちゃんラノベ読むの好きでしょ?』


「読むのと書くのでは違うからなあ」


『もー。なんかここ最近、幸ちゃんって無気力だなあ。四カ月遅れの五月病?』


 美琴の心配そうな表情と声に、胸がぎゅっとしめつけられる。


「……だって美琴がいないんだもん。僕、こっちに一人きりでいるみたいな気分だ」


 思わず本音が出てしまった。

 恥ずかしくなって、顔を手の平で覆うと美琴が黙りこんだ。


 え?! なに? 僕の愛は重い? ってゆーか付き合って間もいないのにそんな言葉吐くなって思われてる?


 一気に頭の中がパニックになって、ええい! もういいやって思って『なーんて冗談、冗談』と付け足そうとしたら、美琴が口を開く。


『じゃあ、幸ちゃん、あれやってみてもいいかも』


「あれ?」


『あのね、今日、ユートピアで発表になったんだけど、ユートピア・システムをもっと広めようっていうキャンペーンの一環で、システムを疑似的に体験できるって内容なの』


 美琴が真面目な口調になったもんだから、僕も冷静になって聞き返す。


「へえ。でも、それって対象はやっぱお年寄り? それとも病気の人?」


『ううん。キャンペーンの対象年齢は十五歳以上で、健康な人も可、だって』


「でも、ユートピア=死だよな。健康な人はどうするの?」


『だから、疑似体験だよ。本当に死ぬんじゃなくて、ユートピアの生活をVRみたいなもので生きたまま体験できるの』


僕はホッとして、それから「やりたい!」と叫んでしまった。


『実際に募集を始めるのはあと一年は先みたいだけどね』


「それでもキャンペーンの費用って、高いんだよな?」


『うーん。そうだね。本当にシステムを受けるよりも半額くらいでできるみたいね』


「えー。そうなんだ。うーん。バイト掛け持ちしまくれば卒業までにはなんとかなるかもしれないなあ」


 僕はそう言うと考え込んだ。


 こんなチャンスは滅多にない。

 美琴のいる世界をこの目で見て、体験しておきたいとは思っていたからだ。

 じゃあ、すぐにでもお金を貯めよう。


 電話を切ってからも、僕はお金を稼ぐ方法を考えていた。


 いっそのこと、高校をやめて就職? でもそれは父も母も許さないだろうなあ。おまけに両親がたとえキャンペーンだとしても、ユートピア・システムに反対することは目に見えてるから、お金を出してもらえるわけがない。   


 自分で稼ぐとなると、バイトか。

 スマホで情報を集めようとした瞬間、さきほどの美琴の言葉を思い出す。


『じゃあ、小説を書いてみたら?』と彼女は何気なく言ってたっけ。


「小説かあ」


 そう呟きつつ、ラノベの公募を検索してみる。

 たくさんある中で、なんとなく目についた出版社をクリックすると思わず驚きの声が出た。


 受賞すると賞金がこんなにもらえるのか……。 


「これならシステムを受けるだけのお金になるかも」


 みるみるうちにやる気が出てきて、早速、パソコンを起動させてとりあえず何か小説を書いてみようとする。


 だけど、パソコンの前で僕の体はフリーズ。

 それから、あっという間に一時間が経過する。 


 なんてことだ……。一文字も書けない!


 そもそも小説なんて生まれてこのかた書いたこともないしなあ。

 でも、キャンペーンのためには、何とか金を稼がないと!

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