第2話「奮励努力せよ」
期待などされているハズなどない第2話
眼が覚めると、まず見慣れない天井・・・いや、タオルが目に入った。起き上がろうとすると、腹が痛い。
「お、目ェ覚めたか?」
聞きなれない声だ。誰だろう?
「あの・・・」
「あぁ、おじさんの名前か?おじさんはフジクラってんだ。新しい用務員さんだ。お前は?」
「西郷です。西郷義弘」
「そうか、西郷君。ところで、君はいつもああなのか?」
「えぇ、まぁ・・・」
フジクラさんはコーヒーを淹れてくれた。砂糖とミルクが丁度いい具合だった。
「おじさんが教官達にチクっといてやろうか?」
間髪入れずに「無駄です」と答えた。フジクラさんは「そうか」と言うと、自分のカップにもコーヒーを淹れた。
「まぁさしずめ、アイツは親父に似て才能の塊のようなヤツで、教官陣も、軍部内で沖学の株を上げるためのホープだから全力で保護してる、って感じだろ?」
ドンピシャだ・・・。
「な、なんでそこまで詳しく知ってるんですか⁉︎」
「んぁ?勘だ、勘」
そう言うとフジクラさんはコーヒーを飲み干し、カップを置くと、オレを指差した。
「で、お前さんの場合はだな、両親・姉共に優秀なパイロットなのに、どういうわけか落ちこぼれ、って感じだろ?要するに」
「まぁ、はい・・・そうです」
「まぁ、確かに、お前さんの親父は天才中の天才だった。実際、あの第24戦隊でもNo.2の実力の持ち主だったからな」
え?なんでこの人オレの父さんのコトこんなに語れんだ?
「ん?あぁ、『なんで親父のことこんなに語れんだ?』って顔だな」
フジクラさんはタバコを取り出し、火をつけた。
「おじさん、かつて空軍第24戦闘隊所属のパイロットだったんだ。日本海、大陸、果てはモロッコで戦った・・・。まぁ、結局、最後は撃墜されて、右目はオダブツ。と同時に戦争終結、ってワケだぁ・・・」
そう言うとフジクラさんは顔の右半分を覆う髪をたくし上げ、眼帯を見せてくれた。眼帯からはみ出した傷跡が痛々しい。
「その後、傷痍軍人手当やら何やらでひっそりと生きてきて、今やかつての空の勇士はしがない用務員のオッサン。
ってワケだぁ。ハハハハハッ♪」
自身の転落話で笑えているのは、剛気な証拠か、はたまた不安を押しつぶしているのか。わからん人だなぁ。
フジクラさんはその後、第24戦隊のことや両親のことを色々と教えてくれた。どれも驚くことばかりだった。教官が人から聞いた話や、部隊内で伝説と化していた話などを話してくれたことはあったが、なにぶん第三者の話だったので、どうも嘘くさかった。
楽しい時間というものは早く過ぎる。気付けばもう辺りは暗くなり始めていた。明日の準備など色々とあるので、もう帰ることにした。オレはフジクラさんに深い感謝の意を述べると、鞄を持って部屋から出て行こうとした。が、一つ気になることがあったので、振り返ってフジクラさんに尋ねた。
「あの・・・一ついいですか?」
「何だ?」
「オレの母さん・・・、秋山美緒はどんなパイロットだったのですか?本人に聞いても何も答えてくれないので・・・」
フジクラさんはタバコを灰皿に押し付けると、オレの顔を眼だけで見つめ、微笑んだ。
「お前さんの母ちゃんも、確かに天才だった。が、大変な努力家でもあった。アイツの技術の一つ一つが絶え間ない努力の結晶だった」
それまで母さんの現役時代のことは、その華々しい戦果しか知らなかったオレにとって、それは衝撃的な事実だった。
フジクラさんに再び別れを告げ、帰宅した。帰り道の途中、下宿のマンション、風呂の中、布団の中でも、フジクラさんの言った「母は努力家だった」という新事実が常に頭の中を徘徊し、その日はボンヤリとしたまま眠った。
翌日、朝早くに電話がかかってきた。電話の主は学校における数少ない友達の一人の赤井英樹だった。
「もしもし・・・?」
『おい、義弘!えらいことなってんぞ!早く学校に来い!』
「はぁ・・・?」
『いいからとっとと来い‼︎ホントにどえりゃあことになっとるんだ‼︎』
何事かと思い、急いで朝食を済ませ部屋を出た。学校に着くと、昇降口の前で赤井が待っていた。
「おぉ、案外早かったな。さ、こっちだ!」
赤井はオレの腕を掴むと、学校掲示板の前までオレを引っ張って行った。
「だから何なんだよ!」
「いいから見てみろ‼︎ほら!これ!」
赤井が指差したのは『欧州派遣要員について』と書かれたものだった。
「これがどうしたってんだよ?オレは関係ないハズだぜ?」
「だぁ〜!もぉ〜!よーく見て見やがれ!オメェの名前が書いてあんだよ!どういうワケか!」
まさかと思いつつ欧州派遣要員候補の名前を見てみる。
【以下の者 欧州派遣要員候補に選抜する】
岩本 将志
西郷 義弘
鈴木 哲志
天野 一也
高谷 宣親
【尚 欧州派遣要員は二名につき 本通知の発表の一ヶ月後に選抜試験を執り行う 各員 奮励努力せよ】
ウソだろ?何かの間違いだろ?ミソッカスのオレが?新手のドッキリか?その辺にカメラでもあるのか?
「どういうワケかは知らんが、よかったな!義弘!」
赤井はそう言ってくれてるが、周りの生徒の目が怖いうえに白い。
こりゃ大変なコトになってしまった・・・。
to be continued
もうなるようになっちまえ。書きたいコト書いて、やりたいネタやって、暴走するだけ暴走しよう
次回、LITTLE WING、第3話「ブッ○オフでも一万円超えるものは普通に存在するんだ青二才‼︎(仮)」
乞うご期待!