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第3話

 京都精霊隊本部


 時間は少し遡る。


「中級の消滅が確認されました」


 夜叉は扉を開け、入ってくるなりぬえに言い放った。


「そうか……。

 次は私が出よう」


 その言葉に夜叉は狼狽を隠さず、


「な、何故?

 本来なら次は上級を送るべき……」


「本来なら……な。

 だがあいにくとそんな時間は残されていない。

 一刻も早く遭遇しなければならなくなった」


「ならば私も……」

 そう言う夜叉にぬえは有無を言わさぬ口調で言った?


「だめだ。

 お前がエスピニスに会うにはまだ時期尚早だ。

 耐えろ、今は」


 夜叉は更に何か言おうとしたが、諦め、部屋を去った。


************


「ようやく来たか、紅連」


 公園。

 小鬼とこの時代に初めて遭遇した場所だ。

 辺りに人気は一切なく、ただ公園の真ん中に1人の男がたたずんでいた。

 漆黒の衣につつまれた、細い体躯。

 紫の髪を肩まで伸ばし、根元でくくられている。

 切れ長の目に整った顔立ち。

 そう……


「ぬえ!!」


 紅連は吠え、いきなり手をかざし、火を放った。


「朧火!」


「無駄なことを……」


 ぬえに向かいまっすぐに飛んだ火の玉は、すんでの所で弾け、消えた。

 ぬえが何かした様子はない。


「いきなりの攻撃……。

 変わってないなお前も。

 もっともお前は最後に私に会って、そう日が経ってないのだろうが」


「もう1人いるのを忘れるな」


 ぬえの背後からカイの剣が襲いかかる。

 公園に入り、カイは紅連を先に行かせ、自分は後から機会をうかがっていたのだ。


「ああ、忘れていないぞ?」


 神速とも思えるカイの剣撃はまたもやすんでのところで弾かれた。

 カイは落ち着いて態勢を整え、退き、紅連の隣まで移動した。


「相変わらず厄介な能力だ。

 その妖気の膜は……」


 ぬえのまわりには常に妖気による膜が張られていて、その膜を上回る衝撃を与えない限り、ぬえに直接ダメージを与えることはできない。

 もっとも攻撃される箇所に意識しないと、効果は発揮されないのだが。

 じりじりとぬえの隙を狙っていた2人を見て、ぬえはため息をつき、


「落ち着け、2人とも。

 今は争いに来たわけではない」


「信用できるか!!」


 紅連はぬえの話を聞こうとしない。


「本当に聞いてくれ。

 今は別の妖魔もいないし、人払いの結界も張っている。

 つまりこの空間には3人しかいない」


 ぬえは諭すような口調で言った。

 だが紅連は警戒を解かない。


「……ならばそのまま聞いてくれ。

 お前達がこの時代に来たわけと、今起きている事態について……」


 この言葉に紅連はようやく警戒を緩める。

 だが目は離さない。


「ふぅ。

 まずはお前達がこの時代に来た顛末だが、簡単だ。

 紅連の力が暴発した結果時空に歪みが出来て、飛ばされたのだ。

 エスピニスはその巻き沿いをくらったようだな」


 ぬえの目がカイに移る。

 カイも警戒心を隠そうとしていない。


「次に……こちらが本題で来たのだが、今この時代に起こっていることについて、お前達は“がしゃどくろ”という妖魔を知っているか?」


 紅連とカイは互いを見合い、


「知らないな……」


「まぁ知らないだろう。

 お前達が時を越え、100年後に封印が解かれた妖魔だからな。

 そいつが今は妖魔のボスだ。

 率直に言おう、お前達にそれを滅してほしい」


 いきなりの提案。

 紅連とカイは目を丸くする。


「なんで……だ?

 貴様には妖怪を牛耳ろうという意志はなかったはずだ」


 紅連は訝しみ言った。


「がしゃどくろは力をつけすぎた。

 私は始末出来ない事情があってな……。

 それにがしゃどくろを倒さねば元の時代には戻れぬぞ?

 悪い条件ではないのだが……?」


 紅連はまだ訝しんでいたが、顔を上げ、言った。


「妖怪を滅することが退魔士の仕事だ。

 だから、依存はない」


「そうか……。

 だがひとつ、今のお前達では歯が立たない。

 “龍火草”が必要だ。

 “龍火草”は昔と同じ、中国の奥地にある」


 今まで黙って話を聞いていたカイが口を挟んだ。


「待ってくれ。

 夜叉……ミオナは?」


「今も私の下にいる。

 相変わらずの様子だが……」


 するとカイは顔を伏せ、


「そうか……」


「……ならば私はここで失礼する」


 言葉と共にぬえは消えていた。


「ふぅ。

 ……くっ」


 紅連は一息つくと共に冷や汗が大量に流れてくる。


「ぬえ……。

 あいつも相当力を上げたようだな」


 短時間の対峙でかく汗。

 ぬえの重圧にあてられたのだろう。


「どうする?

 カイ」


「決まっている。

 ミオナを取り戻し、がしゃどくろを滅する。

 まずは中国だな」


 カイの決意は固まっているようだ。


「そうだな。

 ……中国ってなんだ?」


 平安時代から来ているため、中国という単語を知らない紅連とカイ。


「尊に聞くしかないな……」


 伏し目がちに言うカイ。


「カイ……心配するな。

 ミオナは必ず取り戻すんだろ?

 “夜叉の呪い”をといて」


「あぁ……」


 カイはようやく顔をあげた。


「ミオナって誰?」


 突如入る尊の声。

 気付けば尊は2人のすぐそばに来ていた。


「尊!?

 いつからいた?」


 驚く紅連とカイ。

 すると尊はきょとんとして、


「何言ってんの?

 あんた達が急に走っていったからすぐ追いかけたんでしょ!」


 紅連は訝しんだが、1人合点がいった様子で、


「そうか、結界張ってたんだな」


「それよりミオナって……」


 尊はカイを目の端でとらえて言った。


「それは……」


「いいよ、紅連。

 俺が話す。

 夜叉がこの時代にいる以上、接触は避けられないだろうから……」


 紅連を遮り、カイが話し出した。


「俺には幼馴染みがいたんだ。

 だけどある日夜叉っていう鬼の面の妖怪がミオナに“取り憑いた”んだ。

 これがまた厄介な妖怪でね。

 まず取り憑かれた体は使いものにならなくなるまで使われ、その解除方法は1ミリに満たない薄さの面を憑かれた人の顔から斬って剥がすしかないんだ」


 尊はカイの話を終始無言で聞いていたが、1つ疑問を持った。


「でもその体ってもう1000年以上経ってるんじゃないの?」


 カイは少し考える素振りをしたが、


「夜叉の特殊能力とでもいうのかな?

 憑かれた体は朽ち果てないんだ。

 事実、俺が夜叉を斬った時も服はボロボロだったけど、体はしっかりしていたから」


「え?

 夜叉を倒したことあるの?」


 尊は目を丸くした。


「いや、まだ夜叉のことを知らなかった俺は体だけを斬ったんだ。

 だから宿主を失った夜叉は俺への腹いせにミオナに憑いたんだろう……」


 カイは再び顔を下げた。

 尊はそれを見て慌てて、


「で、でももう夜叉の倒し方分かったんでしょ?

 じゃあ後は会えばその呪いは解くことが出来るんでしょ?」


「ああ、そうだね。

 ……ところで尊、学校とかいうところには行かなくていいのかい?」


「え……」


 尊は通学用の藍色のバッグから携帯を取り出した。


「は、8時52分……」


 尊は少し固まった後、


「遅刻だぁー!!」


 慌てて走り出した。

 紅連とカイはため息をつき、後を追った。


************


「本当に信用できるのか?」


 学校に着いた尊達だったが、当然遅刻だったため、尊は叱られた。

 そして紅連とカイは昼前の屋上にいた。

 今は授業中のため、尊はもちろん、他の生徒もいない。


「紅連、ぬえを信用できない気持ちは分かる。

 だが今は罠だろうと進まないと、何もできないだろ?」


 紅連はぬえの言葉に従うことに抵抗があるようだ。


「わかってるよ。

 ただ俺は……」


 何がを言いかえた紅連を遮りカイは言った。


「紅連……まず聞かせてくれ。

 元の時代に帰る気はあるのか?」


 紅連は顔を下げて言った。


「俺は……帰る気はない。

 節も、その方が幸せになれるなら」


 そう言った紅連の頬にカイの拳がはいった。

 紅連は吹き飛び、殴られた所をおさえる。


「見損なったぞ!

 紅連、お前はそういう奴だったのか!

 お前が帰ることを……いや、お前と一緒にいることを誰よりも望んだのは節姫じゃないか!」


 紅連は立ち上がり、反論した。


「俺は節を幸せにできない!

 節だって俺よりいい男がいることを知っているはずだ!」


「この……。

 まぁいい。

 それがお前の決めた道なら俺はとやかく言うのを止める。

 ただ、お前がこの時代で生きるといっても、ぬえの言う“がしゃどくろ”を倒すことは避けては通れないぞ」


「……わかってる。

 尊に言って、中国とやらの道を聞こう」


「……あぁ」


************


「中国?」


 昼休みが始まり、屋上で弁当を食べている尊。

 ちなみに紅連とカイと話すため1人である。

 玉子焼きをパクリと飲み込み、


「なんでまた中国?」


 再度聞き直した。


「いや、ちょっと用事があってね。

 頼むよ。

 行き方だけ、このとおり」


 紅連は手を尊の前で合わし言った。


「ん〜……。

 今すぐじゃないとだめ?」


「いや、でもできるだけ早く」


 尊は少し手を組み考えた。


「んじゃあ、私の精霊に行き方とか教えとくから……。

 まぁカイがいるし大丈夫だろうけど」


 この言葉に紅連は首をかしげた。


「なんでカイがいれば大丈夫?」


 尊は鼻息をして、


「カイは見かけよりずっと大人びてるから!

 紅連、あんたとは違って」


「なるほど」


 納得したのはカイだ。

 紅連はがくっと顔を下げた。


「まぁ確かに俺よりはしっかりしてるけどさ……」


 紅連はいじけだした。


「いじけないの!

 それより中国だったね。

 なんとか今晩中に教えこんどくよ」


「助かるよ、ありがとう」


 カイが未だいじけてる紅連にかわり礼を言った。


「どうせ俺なんて……」


************


 漆黒の扉を開き、白い着物姿の鬼の面が入った。

 ぬえと机をはさみ対峙する。


「ぬえ様。

 首尾は?」


 ぬえは両手を机の上にのせ、あごに添えた。


「とりあえず、今の出来事、目的を言った。

 あとはあいつらでなんとかするだろう。

 それより私はおそらく明日、ここを空ける」


「は?」


 戸惑いを隠さない夜叉。


「奴らが中国に行っている間に、一度“光の巫女”と会って成長を確かめたいからな」


「……なるほど」


「だから、頼むぞ」


 夜叉は少し考える素振りを見せ、頷いてから部屋を去った。


(これはチャンスだ)


 夜叉の胸中はさすがのぬえも分からなかった……。


************


「龍火草か……」


 深夜、尊の家の屋根。

 紅連とカイは寝転び、星を眺めていた。

 尊は自分の部屋で精霊に中国への道筋を教えこんでいる。

 そして紅連はこの言葉と共に、手を空にかざした。


「龍火草。

 禁断の果実。

 食べた者は生死の境をさまようが生還した時、絶大な力を得る……」


「なんでそんな説明口調?」


 カイは突如龍火草の効能について語り出した紅連に汗を垂らし、苦笑いしながら聞いた。


「この方が見てる方にわかりやすいかなと思って」


「…………」


 さらに汗の量を増やすカイ。


「まぁやってみなきゃわかんねぇな!」


 紅連はかざした手を握った。

 ようやくカイの汗もひき、


「そうだね。

 当たらなきゃ砕けないからね」


「おい、それじゃ俺が死ぬみたいな言い方じゃねぇか」


 カイは苦笑いをした。


「あはは、ごめんごめん」


「ったく」


 紅連はそっぽを向いてごろりと寝返りをうった。

 カイは紅連のそんな様子を見て微笑み、何も言わずに目を閉じた。


************


 翌朝。

 少し早めに家を出た尊は紅連とカイを呼び寄せた。


「はい。

 これが私が昨日徹夜で中国への道筋を教えた精霊の“ヒオリ”よ。

 ちなみに雷の精霊」


 徹夜の部分を強調して言う尊。

 そして尊が差し出した手の平の上には、黄色い麦藁帽子とワンピース姿の女の子がちょこんと立っていた。


『よろしくお願いします』


 ぺこりと頭を下げるヒオリ。


「へぇ」


 紅連は手を出しヒオリを受け取ろうとしたが、ヒオリはその手を無視し、カイの肩に飛び移った。


「…………」


 目の幅涙を流しながらそのままの態勢で固まる紅連。


「ほ、ほら、カイが雷体質だからでしょ?

 あんただって炎の精霊には懐かれてたじゃん」


 尊はまたいじけそうになった紅連に必死にフォローをした。


「そ、そうだよね」


 どうやら今度はいじけなかったようだ。


(苦労するわ……)


 尊は内心冷や汗をたらす。


『では、行きましょう。

 私にドーンと任せてください』


「わかった。

 頼りにしてるよ」


 カイがそう言うと、ヒオリははにかんだ。

 そして尊にいってきます、と言い歩き出した。

 尊は笑顔で手を振る。

 だが内心では、


(大丈夫かな?

 ヒオリに教えるだけで徹夜したのに。

 なんであの子に教えちゃったんだろ?

 不安だ……)


 と、思ってたりする。


「尊。

 お待たせ、学校行こ!」


「うん!」


 心配していた尊にかかる美奈の声。

 尊は、まぁ大丈夫でしょ、と結論づけて学校に向かった。

 だが尊の心配は的中することになる……。

 え〜、次回より紅連とカイによる日本巡りの旅が始まります(汗)


 ただ次はもう一本を更新する予定なのでこっちの更新は少し先になります。


 こんな駄文を待たせるというのも甚だ遺憾ですが、生暖かい目で見守って下さいませ。

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