満月の夜は血の香り
「ごめん 待った?」
某都内のカフェにて本を読みふけっていた時、そっと隣から声をかけられた
物語の中へトリップしていた時だったから、一瞬何のことだかわからなかった
「ううん、本読んでたら大丈夫よ」
そう微笑みを浮かべ男の顔を覗き込んだら
男は口の端をあげ、軽く私の唇にキスを落とした
そうだ、今日は満月
お食事の日
確か一週間前位に、ここで声をかけられた
この男にデートに誘われてたんだっけ
名前は…忘れた
どうやら私の顔は一般的な女性よりもよく出来ているらしい
度々このようなことが起こる
おかげで食事には困らないが
本を鞄の中へ戻し、男と連れ立ってカフェを後にした
「嬉しいな 君とこうしてデート出来るなんて 今日は何処に行きたい?時間も遅いし食事にでも行く?」
そういいながら男は私の肩を抱いてきた
この男は自分に自信があるらしい
そう言えば最初から結構強引に誘ってきたっけ
女性にモテそうな顔をしているようだし、今まで女性に不自由していなかったのだろう
それ故の自信であろうか
最初から断られるとは思ってもいない誘い方だった気がする
まぁそれに乗らせて貰ったのだけれども
「…甘いもの食べたいな」
「いいね この先にこの前出来たばかりのスイーツのお店あるよ そこ行こうか?」
「ううん…もっと甘いものが食べたい」
「もっと甘いもの?スイーツより?何だいそれは」
私が行先の希望を答えたところで、今話題になっているお店を提示された
でも私が希望するものは違う
私が欲しいものはスイーツなどではない
首を振って否と答えた私に対し首を傾げ、こちらを見つめてくる男に
背伸びをして、キスをした
「…私のお部屋で…食べさせて?」
「それって…いいの?」
ごくりを喉をならし、私を見つめる男の目には欲望がちらついていた
…かかった
YESと答えるかわりにもう一度キスをして
そのまま私の部屋へ案内した
私の部屋はタワーマンションの最上階にある
まぁこのマンションのビル自体が家の持ち物らしいけど
男を部屋に通し、リビングのソファに座らせた
男は落ち着かないようでそわそわしてたが
それを無視してカーテンを開けに行った
「明かり つけないの?」
そう男は問いかけてくる
「今日は満月よ 月の光で十分でしょ?」
カーテンを全開にして、着ていたワンピースを足元に落として見せた
そしてゆっくりと男に近づく
男は待ちきれないようにソファから立ち上がって私に近づこうとしたが
そっと制してまた再びソファに座らせる
「ダメよ がっついちゃ お行儀悪いでしょ」
下着姿になった私は、ソファに座っている男の膝の上にまたがり
首に腕をまわし耳元でそう囁くが、男はそのまま私の頬や首筋、胸元へと
キスを落とし続けてきた
「ダメ…食べるのは…私よ」
再びそう戒めるも、男は止まらない
どうやら私を愛撫することに夢中になっているようだ
男の首に回していた腕を外し、あらかじめソファの背の間に忍ばせていた
アイスピックを手に取った
アイスピックの銀色の光が月に照らされてとても綺麗だ
それを勢いよく男の首筋に突き刺した
※※※
ぴちゃ…ぴちゃ…
「はぁ…姉さん また殺ったの?後片付け大変なんだけど」
身体中血まみれにして、ソファで倒れている男の血を舐めている姉に向かって
大げさにため息をついてみせた
「…だって お腹が空いたんだもの…でもこの男の血美味しくない…
選ぶの失敗した…」
僕の姿を見た途端、今まで一生懸命舐めていた男にけりを入れて僕の所へゆっくりと
歩いてくる
「ねぇ 晃の血舐めさせて…甘いの欲しい…」
血まみれの手でそう誘惑してくる僕の姉
「いいよ…」
そう答えながらポケットからナイフを取り出し指先を切り
姉の口元に持っていく
恍惚とした表情で僕の血を舐める姉は
とても綺麗だ
別に姉は吸血鬼でもなんでもない
普通の人間だ
まぁ血を好むのだから普通のいう表現は間違えているかもしれないが
幼少のころ、満月の夜に両親と僕とで一緒に散歩をしていたら、
ビルから飛び降りたらしき自殺者が目の前に落ち、血をかぶったのが原因だと思う
悲鳴が飛び交う中、顔に飛び散ってきた血をぺろりと舐めた姉は
幼いながらもぞくっとするような色香をまとっていた
最初は転んでけがをしたときとか、姉にねだられて
僕の血を舐めさせているだけだったが
姉が成長するにつれて、姉の美貌に惑わされる男たちの血を
食べはじめた
そして僕はその後片付けをする
親の金と人脈をフル活用させてもらっているから出来ることだけどね
別に姉にこの行為をやめさせようとか微塵も思っていない
姉が血に魅せられたように
僕もあの満月の夜から、血を浴びている姉の姿に魅せられているのだから
僕の美しい姉さん
いつの日か僕の血で姉さんを赤く染め上げてあげる