第三十三話 穏やかで静かな森の暮らし
「今日は何して過ごそっか」
「アレナさんのお手伝いしてみたいです」
「じゃあ、宜しく」
朝食の片付けも終わった時間、居間の椅子に腰掛けてカナンと二人、この後の予定を話している。
そんな折、部屋で出発の支度を整えていたキャスが姿を現した。
「そろそろ出発します」
「あら、もう出るの?」
「早く村の人達にも報告してあげたいですから」
「それもそうね。この子のご両親だって心配しているでしょうし。それじゃあ、お見送りするわ」
些か物珍しかった客人二人ともお別れらしい。大きな水晶を抱えたキャスの後ろをカナンと共に付いていき、玄関前に行くとミセリアの姿。
「機会があったらまた足を運んで下さいね。こんな場所ですが、別に来訪者を拒んでいるわけではないので」
揃って外に出てこれから立ち去る二人に対しそんな声をかける。思えばこういった台詞を誰かにかけたのは、この場所で暮らすようになってから初めてのことかもしれない。
無論、これは二人のうちどちらにも向けた言葉。キャスにはいつかまた、カナンに顔を見せてやって欲しい。ただそれ以上にミセリアへ向けた言葉であった。
長い時間を生きているうちに独りぼっちになって辛くなることがあったら、この場所を訪ねてきてくれれば良いと思う。家も一つ余っているし、自分の方が長生きだ。
こちらの意図が通じたのか、ミセリアが静かに頷いた。
「そうさせてもらいます。……元気でね」
「……はい。さようなら」
「ミセリアちゃんも元気でね。素敵な大人になるのよ?」
「うん、そうする。じゃあね」
「じゃあね」
しんみりとした雰囲気で挨拶を交わすキャスとは反対にミセリアはとてもあっさりとした印象。いつか再び出会うことになりそうな、そうでもなさそうな、複雑な気分だ。
振り返り、村へと続く方向へ歩いていく二人の背中を暫く見送る。
そのうち木の陰に隠れてしまい、見えなくなった。
ここから先は本格的に新しい夫と二人きりだ。
「さ、中に入りましょ。改めて、これから宜しくね」
「はい。宜しくお願いします」
カナンの肩に手をやり、その頬に口付ける。
照れてたじろぐ彼を伴って、アレナは家の中に戻っていった。




