第二十一話 仕事へ
「では、お世話になりました」
アレナの家で一夜を明かし、翌朝の朝食も彼女の世話になったキャスとミセリアは、そのまま直ぐに出発することにした。思いがけない新たな依頼のために少々時間を取られてしまったので、出来るだけ速やかに水晶を手に入れ、手早く町まで帰りたい。
今はミセリアと共にアレナとカナンに見送られて玄関前に出てきたところ。
「お世話になりました」
「村までお気をつけてくださいね」
キャスに続いてミセリアが礼を告げ、アレナから見送りの言葉。
「はい。まあ、その前にこの先の水晶の所まで行かなければならないんですけどね」
「え? 水晶だったら、また私が村まで運んでいくから平気よ? ちゃんと新しいお婿さんも来たし」
カナンの肩に手を添えて言う。そういえば、アレナにはこちらの本来の要件やカナンの護衛を引き受けた経緯について話していなかった。
「いえ、冒険者ギルドの方で引き受けた依頼があるんですよ。その仕事の途中であの村を通りかかって、そこで偶然、カナンを送り届ける役目を頼まれたんです」
「あら、そうだったの……。言われてみれば、もう半年も町の人達は待ってるのでしょうし、人間の方達にしたら半年は長いものね」
納得した様子のアレナ。
「場所は分かっているかしら?」
「ここから北の方の水辺ですよね」
「ええ。あそこに私が定期的に使っている道があるから、よければ使って。とはいえ、単に邪魔な草木を払って通りやすくしてあるだけの空間だけど」
とある方向を指さして教えてくれる。ここに来るまでに通ってきたあの道のようなものがそちらにも存在していた。
楽に目的地まで移動出来るというのならば遠慮なく使わせてもらうつもりだ。
「それと、大抵魔物が襲ってくるから気を付けて。森の中の細々した手合よりは断然強いわよ」
「飛んで襲ってくるとは聞きました」
「的が大きいから、そこまで大変な相手でもないけれどね。あなたの実力は知らないけれど、一応、気を付けておいて」
「はい」
「それから、もう一つ」
「……何でしょう?」
「水辺で水晶を採ってこの辺りまで戻ってきたら、もう一晩ここに泊まっていかないかしら。意外と時間が掛かるのよ、あの場所。私もあそこに水晶を採りに行くときは一日がかりね」
「そういうことでしたら、お言葉に甘えさせてもらいます」
ちらりとミセリアの方に視線を送って確認すると頷き返される。態々その辺りで野宿してまで急ぐのは止めておこう。
「ミセリアちゃんも、戻ってくるまでお預かりしますか?」
「あたしは平気」
「あら、ごめんなさい」
本人から即座に断りの台詞。若干強めの語気で、現場に出向きたかったのか、子供扱いが癪に障ったのか。
「ミセリアは平気ですよ。それでは……行ってきます」
「はい、いってらっしゃい」
アレナとカナンに見送られ、キャス達は北方にある水晶の在り処を目指して出発する。




