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第十五話 少年の護衛

 翌朝、キャスとミセリア、それに加えてカナンという面子で村を出発。見送りには少年の両親の他、幾人もの村人の姿があり、彼らと少年の挨拶が済むのを待っての出発だった。

 それから森の中を歩き続け、現在も森の中を歩いている。

 ドライアドの住処はまだまだ遠いようだ。魔物にだって未だに出くわしていない。

「大丈夫? もう少しゆっくり進んだ方がいいかな?」

「いえ、大丈夫です」

 先頭を歩いていたキャスは背後を振り返ってカナンに問いかける。少しばかり息遣いが荒くなっているように感じたのだ。子供の身で先程から不慣れな森の道程を歩き続けているのだろうから無理も無いのだが、本人は平気だと言う。

 因みにミセリアは少年の少し後ろを歩いていた。彼には伝えていないが、彼女に背後を守ってもらっている。

「そう。辛くなったら教えてね」

「はい」

 キャスは仕方なく前を向いて周囲の警戒へと意識を戻した。今し方カナンに速度を落とすか尋ねたものの、そもそも元から子供が加わったことを考慮した移動速度にしていたつもりで、ここまでだってミセリアと二人きりで移動するよりも圧倒的に時間をかけてやって来ている。

 ドライアドの所まで日暮れ前に辿り着けるだろうか。聞いていた話からすると恐らく大丈夫だとは思うが、今日中にギルドの依頼の方まで片付けるのは不可能に違いない。

 また、今回はいつにも増して静かな移動だった。これについてはカナンの存在によってミセリアといつものようにやり取りをし難いことが原因。今の彼女はあくまでも普通の少女を装っている。

 そういえば、カナンからすると自分より歳下の女の子が平然と後ろを付いてきている状態なのか。そんなことに気が付いた。それでは疲れたなどと言い辛いことだろう。

 キャスは黙って、歩く速度を更に少しだけ落した。

 そのうち、こちらを窺っている存在に気が付いて足を止める。

「二人共、ちょっと待っててね」

「はーい」

 ミセリアから退屈そうな返事が返ってきて、少年の方は魔物の存在に気が付いているのか、ただ戸惑っているのか、その身を緊張で固める気配だけが伝わってきた。

 二人の足が止まったのを確認してキャスは前方に歩き出す。

 二十歩目を踏んだところで頭上高くの木の枝からそこに潜んでいた存在が飛び降りてきて、前方へと素早く大きく二十一歩目と二十二歩目を踏み出すことによってその影を回避。

 振り返りながら剣を抜き放ち、踏み込みの形で二十三歩目。

 着地の衝撃で背後からの攻撃に満足な反応を出来ない状態の魔物の足を片方切断し、体勢を崩した相手の体へと更に接近してその背を足で踏みつける。それから胸の中央へと逆手に握り変えた剣を突き立てた。

 心臓を貫かれた敵が動きを止めるよりも先に武器を引き抜いて離れ、素早く頭上に視線を戻す。

 たった今葬ったのと同じ茶色い毛並みの胴体に黒い頭部をした猿のような魔物が二体、こちらを見下ろしていた。

 少し待ってみるも、それらが続けて飛び降りてくる気配はない。この手の輩は一度出鼻を挫かれるとこちらが隙きを見せるまで付け狙ってくるか、もしくは早々に諦めてくれるかだ。このまま飛びかかってくることは期待出来ない。

 普段ならば念力で突き飛ばして樹上から引きずり下ろすところだが、今回はカナンの目がある。少しくらいの異能で魔法との違いを見抜かれることもないはずだが、念の為に剣と魔力の身体強化による戦いを演出しておくことにした。

 二体のうち一体が上っている木に駆け寄って、手近な高さの太い枝へと跳び乗る。細身の魔物ならば兎も角人間の自分が跳び乗って折れないだろうかと心配したが、問題なく着地。更にそこから飛び上がることによって、標的が乗っているのと同じ枝に片手をかける。

 枝を切り落として魔物ごと地面に叩き落とせないか考え、実行。左手でぶら下がりながら右手に握っていた剣で枝を断ち切り、魔物を乗せた枝が落下していって、キャスもそれを追って枝から手を離し、落下。

 地面に下りて魔物に視線を向けると、相手は地面に叩きつけられた衝撃から立ち上がろうとしているところ。きちんと着地したキャスの方が動き出すのは早い。

 こちらの接近に気が付いて顔を向けた魔物の頭部を振り下ろした剣が割る。

 倒したことを確信しつつ残る三体目の魔物に視線を向けると、敵は慌てて逃げ去っていった。

 更に視線を巡らせ、異能も使って周囲を確認。これ以上こちらを観察している魔物はいない様子。

「終わったよ」

「お疲れ様ー」

 ミセリアからは気の抜けた労いの声がかかり、カナンの方は何も言わずにこちらや地面に倒れ伏す魔物の死体に目を向けていた。

 彼には少し刺激が強かっただろうか。

「平気かな? 慣れないうちは刺激が強いよね」

「いえ、凄かったです。冒険者の人って、皆そんなに強いんですか?」

「……いや、人によるんじゃないかな。あのくらいの相手なら、倒せる人は多いと思うけど」

 これまでの会話よりも幾分か活き活きとした印象のカナン。これまでは碌な会話にもならない程素っ気なく、控え目な声音だったのだが、今になって少しばかり心を開いてくれたようだった。

 その様子から彼の胸中は何となく察せられる。先程の戦闘はある意味で少年にとって刺激の強いものだったらしい。

「凄いんですね……」

「……どうだろう?」

 決して大きな声ではなかったが、そこには確かに興味と興奮が秘められていた。率直に憧憬の念を示されて、キャスは反応に困る。正直に言えば、人狼に勝利しドラゴンと渡り合った経験もある以上、間違いなく冒険者として凄い部類に属しているはずだという気持ちはあるのだが、それをあからさまに表現出来るかは別な話だ。

「キャスみたいになりたいんだ?」

「えっと……成れるものなら」

 それまで黙って眺めていたミセリアに尋ねられ、カナンが躊躇いがちに頷く。

「…………兎も角、先に進もっか」

「はい」

 いよいよどのような反応をしたものか分からなくなり、会話を断ち切って先に進むことにした。照れのような感情も然ることながら、これから僻地のドライアドに婿入する少年の将来の希望など、あまり突き詰めたくはない。

「ねえ、どうしてさ、魔人のお婿さんになってこんな所で暮らしてもいいって思ったの?」

 歩きだして少しすると、背後でミセリアのそんな声。なんて質問をしているのだと思いつつ、彼女も何か理由があって問いかけているのだろうと思い、静かに耳を傾けた。

「……だって、誰かがならないといけなかったから」

「そうなの?」

「うん。少し前から、大人の人達は皆困ってた。最初は何の話なのかよく分かってなかったし、訊いても教えてもらえなかったんだけど、そのうち僕とか、同じくらいの歳の子にも説明されるようになったんだ。森の奥に、いつも村を助けてくれてる魔人さんが住んでて、その人が一人ぼっちで寂しいから、旦那さんを欲しがってるって」

「そうなんだ」

「最初はね。友達は皆それで納得してたけど、ボクは何だかおかしな気がして、本当にそれだけなのってお父さんに訊いたんだ。凄く焦ってるみたいだったし、何だか、……嫌な空気だった」

 彼も子供ながらに事態を感じ取っていたらしい。

「そしたら、もっと色々教えてもらえて、このまま一人ぼっちにしておくとその魔人さんが助けてくれなくなることとか、そうすると皆の生活が苦しくなることとか。それに魔人さんも村の一員みたいなものだから、一人でほったらかしには出来ないって」

「それで、仕方ないから立候補したの?」

「立候補っていうか、よかったら魔人さんの婿にならないかって訊かれて、うんって……」

 やはり、決して乗り気での決断ではなかったようだ。

「そうなんだ。教えてくれてありがとね」

「……うん」

 それきり背後の会話は途絶え、三人は黙々と歩き続けた。

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