第一話 四人旅
大変お久しぶりです。長らくかかってしまいましたが、第四章の投稿を開始させて頂きますので、宜しくお願いします。
尚、今回は水曜日の正午と土曜日の午前零時という週二回の頻度での投稿になります。
キャスとステラがミセリアとフィリアを旅の仲間に加えてから一週間と少し、四人は緩やかな勾配が続く道をのんびりと進んでいた。キャスが一人先頭を行き、その少し後ろをミセリアとステラが並んで歩く。そして、更にその後ろにフィリア。
キャスの故郷を目指す。四人の旅の目的地は一先ずのところそのように設定されていたが、現在進んでいる街道の先はそこに向けた進路から少々外れた場所。
ミセリアの希望による、観光目的での寄り道だ。
「まだ着かないかな?」
そのミセリアの呟きが背後から。少々元気がない。
「そうね。流石に、そろそろ見えてくるんじゃないかしら?」
答えたのはステラ。こちらは特に疲労も感じさせず、平素通りの調子。
「お腹空いたなぁ……」
「わたしも」
「早くお昼ご飯が食べたいよ」
ミセリアが嘆き混じりにぼやいて、ステラからは可笑しそうな声音が聞こえる。
もう間もなく町に到着するだろうからこのまま休まず進んでしまって、町に着いてから落ち着いて昼食を取れば良い。四人揃ってそのように判断したものの、思ったより町が見えてくるまでに時間がかかってしまい、その結果としての台詞だった。キャス自身もまた、同様の心境である。
実際のところ、目的地が見えてくるまで後どのくらい掛かるのだろうか。異能で視界を前方に飛ばし、確認を試みることに。
「もう少しみたいだよ。あそこまで上りきったら見えてくるから」
すると、現在歩いている傾斜を上ったところで丁度目的地の姿が見えてきた。振り返って三人に伝える。
「ほんと?」
「うん。一足先に異能で確認しちゃった」
「そっか。それじゃ早く、あそこまで行ってみよ!」
「ええ」
途端にミセリアが元気を取り戻し、隣のステラの手を引いて歩調をぐっと加速。そのままついには走り出してしまい、キャスを追い越して緩くも長い傾斜の頂き目掛け元気良く駆けていく。
「…………のんびり行きましょうか」
「はい……」
ミセリア達が消えた場で、フィリアに一言かけて前方に向き直った。フィリアとの関係は共に行動するようになってから『まだ一週間少々』といった様相。
それでも、自分達と共に行動するようになってからフィリアには見た目にも分かる良い変化が生じている。あれだけ濃かった目元の隈が随分と薄くなってきたのだ。ただでさえ美しかったその容貌が更に輝きを増し、いっそ若返ったとでも表現したくなる程だった。
「早いなあ……」
ミセリア達はどうやら魔力による身体強化まで使って駆け抜けたようで、あっという間に件の場所に到達してしまう。それから立ち止まって、ステラと二人でその景に暫し浸っている様。
そのうちにミセリアが振り返って、明るい大声を出した。
「二人とも、はやくぅー!」
「……はいはい」
すっかり上機嫌と化している様子に釣られて自身も笑みを浮かべつつ、それでも空腹の影響から大声を出すのは億劫に感じられ、キャスは明らかに相手には聞こえないであろう小さな声で答えた。背後のフィリアは黙ったままだったが、果たしてどのような表情をしているだろう。
「遅いよー」
ミセリアの催促を他所にのんびりと歩きながら、キャスとフィリアも合流を果たす。
「ごめんごめん。やっぱり空腹が勝っちゃって」
「うーん……仕方ないか。それよりお母さん、ほら、絶景だよ、絶景!」
その言葉の通り、勾配を登りきった先にあったのは美しい光景。遠方に木々に覆われた一際大きくそびえる山があり、その麓には陽光を受けて輝く巨大な湖。更にその湖の手前には町が見えた。
一旦足を止め、キャス自身も改めてその光景に僅かの間感じ入り、それから沈黙を保ったままのフィリアが気になって振り返る。
彼女は清々しげであり、しかしながら同時に何故か悲しげにも感じられる顔で目に映る景色を眺めていた。
「……お母さん?」
ミセリアがその様子故か、それとも一向に返事を返さないことを不審に思ってか、重ねて声を掛ける。
「…………ええ、良い景色ね」
「うん」
ちょっとの間を挟んでから、フィリアは穏やかな笑みとともにそう返答。何か感じ入るものでもあったのだろう。娘であるミセリアは何も疑問を呈すことなく、ただ屈託なく頷いてみせた。
穏やかな沈黙が流れる。
「……それじゃ、もう一息頑張って歩こうか」
「はい、頑張りましょう」
キャスが移動の再開のために音頭を取り、ステラが優しい笑顔でそれに頷いて、四人の足が再び前へ。
良い所へ来ることが出来たようだと、彼の心中もまた晴れやかだった。




