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第六話 条件

 あれからフィリアは男女と別れた場所まで戻ってみたが、彼らは既に立ち去っており、終日探し回っても見つけることはできなかった。さらに翌日も町中を捜索し、これまた成果を上げられずに終わっている。

 今は再び宿に戻って、ミセリアが返ってくるのを待っている状態だ。彼女は昼間の間、気付かないうちにまたしても姿を消してしまっていたのである。十中八九、自分より先にあの二人を探しに行ったのではないかと思っていた。そうだとすれば、話は面倒なことになってしまう。町の外へと逃げ去った冒険者の行方を突き止めるのは至難の業だ。

 部屋の扉が開いて、逃亡者の帰還を告げた。

「ただいまー」

 白々しくも間延びした挨拶である。

「お帰りなさい。どこに行っていたのかしら」

「別に、その辺。ただの観光だって」

 娘の服装は相変わらず新調した普通のもので、帽子を脱ぎ棄てて堂々くつろぎ始めてしまった。絶対にこちらの勘繰りに気付いているはずだが、ふてぶてしい限り。ベッドでごろつく彼女に、率直に疑念をぶつけやる。

「あの二人は見つかったの?」

「見つけたよ。どこにいたのか教えてあげないけど」

 誤魔化しに来るつもりかと思えば、正面から煽り立てるような黙秘を示された。こちらが是が非でも見つけて始末せんとしているのに、秘密そのものと言える当の本人が随分な態度ではないか。

 一体、何を考えているのやら。普通にあの二人を逃がしたいのならば、ただ隠しておくだけで済むはずだ。

「教えなさい」

「やだよー」

「そんなこと言って、何か条件でも出すつもりなんでしょう? 大体、何か無茶なことを言い出す時の態度だわ」

 言葉の通り、今現在の視線の一つもむけずにわざとらしい程ずけずけとした振る舞いは、彼女が何か言い出し難い話題を抱えている場合に顕著な振る舞いである。

「えー……、絶対断らないなら考えても良いかな?」

「そろそろ怒るわよ。条件は何なの?」

 声を低くして凄んで見せた。

「真面目に考えてくれる?」

「……分かったわ」

 どうせ二人を見逃せなどといった類の要求がなされるのだろうが、一先ずはどのような条件なのか、聞き届けてやろうではないか。

「あのね、あの二人もあちこち旅してるみたいだし、どうせこっちの秘密も知られちゃってるんだから、良かったら一緒に行動したらどうかなって。ちらっと向こうに臭わせた感じ、反応も悪くなかったよ」

 理屈としては問題ないのかもしれない。事情を知られていれば娘が一端の戦闘を可能としていることも隠さなくてよいのだし、不可能ではないだろう。

「何言ってるの、駄目よそんなの」

 しかしながら、ほとんど反射的に否定した。

「考えるって言ったでしょ?」

「だって………………、信用できないわ」

「まだどんな人たちかも知らないくせに」

「そう言う問題じゃないの」

 素気無く相手の主張を撥ね退けるも、ではどういった問題なのかと聞かれれば、それも困る。単純に、幼少からの差別と苦痛塗れな人生経験による判断で、気付けば他人を信用するのを厭うようになっていた。ましてや娘の命にかかわる問題となれば、絶対に信用などという不確かなものを当てにはできない。

「分かった。それじゃ、こうしよう? あたしが上手く誘うから、一回だけあの二人と四人で依頼に行ってみて、その間にどうするのか、もう一度ようく考えて。依頼が終わって帰ってきた後でどんな答えを出すのかは任せるから」

「……嫌って言いたいところだけど、その条件さえ飲んだら、あなたも納得してくれるのね?」

「する」

 本当に納得する気があるのか甚だ怪しいが、折れるしかなさそうであるし、何よりも彼女が親しくなった相手をいきなり殺めに行くよりは、当人の心の整理もつき易いかと自身を納得させる。

「分かったわよ」

 溜息と共に了承の意を示した。

「やった」

「それで、どうすればいいのかしら」

「明日、二人が行くって話してた場所があるから、そこまで連れてくね」

 急な上に用意の良い話である。

「あなた、その格好で行くつもりなの?」

「大丈夫だって、そんなに危ないのを選ばなきゃ」

「あのね……」

 大の字に寝そべったまま適当に答える娘の姿に、これまでのやり取りとは別な意味で片眉が釣り上がっていく。

「ほら、お腹すいたから、何か食べに行こう」

 すると新たな説教が始まろうとしていることを察し、ミセリアは起き上がって部屋を出て行ってしまった。

「先に表で待ってるからね」

 開きっぱなしにされた戸の向こうから、そんな声が聞こえる。

「本当に、お子様なんだから」

 こちらがどれだけ心配して気を張っても、当の本人は大抵あの調子。全くもって緊張感がない。その上、女性らしからぬはしたない行動を注意しても、改められることは二十年ばかりの歳月、一向になかった。

 お転婆とでも評すべき娘の行動に溜息を吐いて、フィリアも夕食のために外へと出て行く。

 何を食べるかは、ミセリアの気分に任せるのだった。

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