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エルフの少女に恋した少年は永遠の命を追い求めました  作者: 赤い酒瓶
第二章 青海で聞こえた二重唱
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第十四話 葬送

 真っ暗な海の底、彼方に見える人魚の影を追いかけてキャスは駆ける。月明かりなど碌に届くべくもない海底でその姿が見えるのは、彼が異能を使っているからだ。彼の周囲は小さな空気の球体で覆われており、それもまた異能の力。人魚に引き離されることなく追い続けられているのも、異能で身体能力を強化しているため。

 現在三つの力を同時に行使しているキャスだったが、それでもまだ余裕があった。これらの能力を維持しながら人魚と戦うことにも、何ら問題は感じない。

「…………何だ?」

 走るキャスの目に、人魚の前方よりもさらに先、岩山のような物が見え始めた。

 人魚はその岩山のところまで辿り着くと、その山の中に姿を消してしまう。

 キャスは岩山へ近づくにつれ、それが岩山ではなく建物であることに気が付く。岩でできた建物が群れを成して建てられており、中央あたりに一際背の高い塔がある。それ以外の建物も、その塔には及ばないにしても総じて背の高い物が多く、地上ではなかなか見られない規模の都市であるようだ。

 あれはもしかして、人魚たちの町なのではないか。

 人間で目にするのは自身が初めてであろう光景を前に心に感動が訪れるも、傍と思い至る。自分が追っているのは人魚。あれは多分人魚の町。このまま迂闊に踏み入って大丈夫なものだろうか。数百年以上前とはいえ、人間たちが人魚にしたことを考えれば危険極まる行為なはずだ。流石にここで徒党を組まれてしまうと、大分都合が悪い。

 走る足は徐々にゆっくりになり、ついには立ち止まる。そして、岩造りの都市をじっと睨んだ。

 岩々の間には行き交う影もなく、人魚の姿など一つもない。あれが町だとして、どれだけの人魚がいるだろうか。こんな時間だ。海底の世界でも、外と同様に寝静まっているのかもしれない。

 そっと、様子を窺いに行ってみよう。キャスは決断し、再び走り出した。

 人魚の都市、その姿がどんどんと近づいていく。

 じっと黙したまま佇んでいる岩建物の群れに迫る途中、予期せぬことが起こった。中央の一番高い塔から光が生じ、都市のみならずその周囲一帯を明るく照らす。キャスのいる位置でも地上の昼間の如き明るさで、それはまるでちょっとした太陽が現れたかのようだ。

「え? 気付かれたってこと?」

 もはや異能で暗視する必要もなくなったその場所で、隠れる所もないまま立ち止まり、何事なのかと様子を窺う。

 しかし、暫くしても何の変化もなかった。明るく照らされようとも誰が出てくることもなく、まるで無人なのではないかというほどだ。まさか、本当に誰もいないとでもいうのだろうか。もしくは、人魚たちもこちらの様子を窺っているのかもしれない。人間が海の底に生きたままやって来るなど、向こうからしたら奇怪な事態であろう。

「…………………………………………」

 このまま突っ込むわけにもいかないし、かといって向こうに動きが見えもしない。暗視の必要がなくなった余力を使って、キャスは都市内の様子を覗くことを思いついた。いつかの森で使った時のように、第三の視界が己の下を離れ、都市の内側を探っていく。

 そこには誰もいなかった。人魚たちの暮らしぶりなど全く想像できないキャスだが、建物の中まで探ってみた限り、久しく誰もいないまま放置されていたのではないかと思われる寂れぶりだ。

 そんな中、キャスは一人だけ人魚を発見した。先ほどから追いかけていた相手だろう。塔の光の周りを泳いでいる。この位置からだと逆光が眩しすぎて、目視では気付けなかったようだ。

 あの人魚が光を灯したのだろうが、それはつまり、こちらの追跡に気付いており、自分はここに誘導されてきたということだろうか。人魚はどこに行く様子も見せず、町に向かっていたセイレーンと離れておきながらそのような意味のない行動をする理由もないであろうし、この照明はここでこちらと戦うという相手の意思表示にも見える。

 意を決して、キャスは都市の中へと入っていった。目指すは中央の塔だ。

 人魚の拵えた建物を見上げながら、その狭間を歩く。

 建物は無骨、というよりも朴訥とした印象の強い、比較的簡素な外観で、通りも全く整備された様子がない。建物の中を覗いてみれば、背の高い建物でありながら階段もないことに気付く。

 なるほど、これが人魚の街並みという訳か。

 地を歩くわけでないから、建物と建物の間にある地面を「道」として捉えることもなく、だから元のまま、何も手を入れられた気配がない。階段がないのも同じ理由だろう。地上なら窓にする部分を玄関にしてしまえば事足りるのだ。

 もっとじっくりと建物の中に残されている物を見分すれば、人魚たちの細かな生活の跡も垣間見れるかもしれないが、今は他に優先すべきことがある。

 街並みを眺めながら人魚の下を目指すこと暫く、キャスは件の塔の根元まで辿り着く。

「どうだったかしら、私たち人魚の町は?」

 頭上から声がして仰ぎ見れば、いつかの年嵩の人魚が見下ろしていた。

 こちらの接近に合わせて塔の天辺から降りてきているのは把握していたが、海の中からこちら側へと普通に声が聞こえるものなのか。向こうもこちらの動きを把握していて、ここまで見てきたものの感想を、どうしてか求められた。

「大丈夫、そのまま話してくれれば、私にもあなたの声が聞こえるから。それとも、もしかして私の声、聞こえてないかしら」

 どういう趣旨の反応を求められての質問かと悩み、答えに詰まった彼へと人魚が重ねて声をかけてくる。

「他には誰も?」

 結局、出てきた言葉はそんなものだった。

「いないわ。今生きている人魚は、多分、この世で私だけ」

 目の前にいるのが最後の人魚だそうだ。道理で、長らく外の世界で目撃者が出ないはずである。そうまで数を減らしてしまったというのだから。

「そっか………………」

「ええ、あなたたち人間に大きく数を減らされてしまって、その後生き残った人魚たちも少しずつ、代を重ねるごとにまた数を減らして、私が最後の世代。だから、私もここがただの廃墟じゃなく、本当に町だったころの姿は見たことがないの」

 暗に人間の所業を詰る言葉に、元人間であり、不死を求めた身のキャスは返す言葉がなかった。直接に人魚を襲ったわけでないにしても、故郷を離れ、ついに不死となるまでの間の自身の在り様は正に、人魚を狩っていた者たちと大差ないものだと自覚していたためだ。この非難を他人がやったことと切って捨てるのは憚られた。

 最後の人魚。この海中という異世界に一人取り残されるというのは、如何なる心境であっただろうか。

「それでもう一度聞くけど、この町を見て、どう思ったのかしら」

 改めて問われる。

「……さあ。自分でもよく分からないや」

「そうなの……」

 キャスの返答にも、人魚は殊更に気分を害した様子はない。ただ、伏し目がちに、何かを想っているようだった。

「ねえ、どうしてセイレーンと一緒になって船を襲ってたのか、聞いてもいいかな? 分かりきった質問かもしれないけど」

 どういう訳か、船の時とは異なり攻撃してくる様子もなくこうして話しかけてきたセイレーンに対し、キャスの方も尋ねてみる。事によっては激昂されかねない質問にも思えたが、そこは相手の理性に期待してみてもよいだろう。人間が滅ぼしてしまったこの寂寞とした地を見て、何か自身の中で気勢が削がれるのを感じていた。

「理由……。そうね、やっぱり復讐かしら」

 案の定、答えは想像通り。かつて先祖を殺された恨みか、それとも自身をこのような境遇へ至らしめたことへの恨みか、とにかくそれを晴らしたいということなのだろう。

「いや…………」

 だが、答えには続きがあった。

「違うわね。人のことは憎いけど、だからって、積極的に殺してやろうって気持ちは、そんなにないのかも」

 どういうことなのか、人魚はそう言う。

「じゃあ、どうして……」

「誘われたから、かしらね。私といたセイレーン、サニアっていうんだけど、彼女に誘われたのよ。ある日、偶然出会って、一緒に人間たちの船を襲わないかって」

「なら、そのセイレーンの目的は?」

「……本人は色々言ってたけど、要は楽しいからだと思うわ。私も、自分の力で海や空を操るのは楽しいから、それと同じなんじゃないかしら」

 娯楽気分で一隻の船の船員を丸ごと殺しつくす殺人者と、それに誘われたからというだけで加担する者、これが真相らしい。

 激しい憤り、といった類の感情は、別段キャスの胸に湧き上がることはなかった。

「それで、今まで上手くやって来れたの?」

 今回のように返り討ちにあいかけたりはしなかったのかと問う。

「長いこと続けてきたけど、一度もなかったわね。……………………それより、怒ったりしないの?」

 逆に、人魚の方から怒らないのかと指摘が入った。

「別に、怒る気にはならないよ」

「どうして?」

「だって、特に見知った相手が被害に遭ったわけでもないし…………。っていうのは、幾らなんでも冷たいか。まあ、とにかく、もともと正義感に厚いわけでもないし、その上、この光景を見ちゃうとね……」

 辺りにあるのは、今や無人となったかつての人魚の町。こうまで彼女らの種を追い込んだのは人間で、それを見ながらにして相手の所業を責められるわけもない。

「…………そう」

 その答えをどのように受け止めたのか、人魚の表情は優れないものだ。

「ところで、こうしてこんな所まで追いかけてきたってことは、あの船での戦いの続きが目的ということでいいのよね?」

 思考を切り上げたのだろう、改めてこちらを見据え、人魚は告げる。

「ああ」

 返事をしてから、一つまだ聞いていなかったことを思い出した。

「結局、僕をここまで招き入れたのは何だったのかな?」

 思い立って、これだけは聞いておくことにする。最後の質問だ。

 キャスの問いに、人魚は最初、沈黙を示すのみであった。

「海の中を追ってくるあなたに気付いたとき、驚いたわ」

 暫くして、彼女はその胸の内を語り始める。

「初めは何かが海の底を移動してるってことしか分からなかったけど、確実に私を追ってきているようだったし。だとしたら、それは人間だと思ったの。丁度、獲物を取り逃がしたばかりだしね。そうしたら、自然と、この場所を見せてみようって、見ておいてほしいって、そう思ったの。海の底の世界まで足を踏み入れることのできる人間に、自分たちのしたことの、その傷痕を見せてやりたいって。それで、その人がどんな反応を見せるのか、それが知りたかった……」

 世界で最後に取り残された人魚として、彼女はそう願ったらしい。このままひっそりと何も知られることなく根絶しようかという時分にあって、海底の世界を自由に歩ける人間が現れるという奇跡的な確率。キャスは人魚の言わんとすることが、何となく理解できる気がした。

「それじゃあ、お話しもそろそろ終わりにして、始めましょうか」

 人が欲のために滅ぼした種族の、その最後を見届ける人間として、否、これから人魚という種族を完全にこの世から葬り去る人間として、自分との出会いは彼女に何らかの納得や満足を与えられるものだっただろうか。キャスは自問する。

 その可能性は低いだろう。それが結論だった。どれだけ相手が哀れでも、彼女らの種族に危害を加えたのは当の昔に死んだ人たちで、自分は無関係。そう思ってしまうのだ。相手からしたら、納得のいかない理屈であるとも思うが。

「……………………………………そうだね」

 キャスはゆっくりと腰から剣を引き抜き、いつも戦いの折にするように、身体強化と予知の異能を発動させる。

 対する人魚も、それに応えるかのように尾を翻し、海中を舞い始めた。その手には、あの黄金の鉾が握られている。

 人魚はキャスの頭上を旋回するように泳ぎ回り、次第に建物の影に姿を消した。一旦視界の外へ消えて、死角からかかってくるつもりなのだろう。建物群のど真ん中にいるキャスには、敵がどこから現れるか、予想もつかない。これが地上であれば音という手がかりもあるが、ここではそれもあてにはならないのだ。

 とはいえ、まだ彼には異能の力がある。

「――――!」

 背後からの一突きを難なく躱してみせた。そして、反撃の一太刀を放つ。

 キャスの攻撃もまた防がれ、突いては躱し、斬っては防がれの攻防が繰り返された。

「あの魔法は使わないの?」

 キャスが打ち合いの最中に話しかける。異能をいくつも使いながらの戦いだが、相手はどの程度本気を出しているのか、彼には相当に余裕があった。手応えとして、本気を出せば直ぐにでも終わらせることが出来そうな気がする。

「海の底までは届かないでしょう?」

 確かに、幾ら魔法とはいえ、こんな所まで雷を呼び込めるはずもない。その上、海の底で剣士一人を相手にするとなれば、彼女自身が生まれ持つ魔法も意味をなさないだろう。だからこその武器を振るっての接近戦なのだ。ある意味では、相手の縄張りであるにもかかわらず有利な状況とも言えた。

 一方、当然に不利な点も存在する。自身は地に足をつけていなければならいが、相手は自在に宙を舞って攻めることができるのだ。否、それだけならば幾らでも対処できる力量差が両者に存在する。案ずべき点は別にあって、即ち、相手がこの戦いに見切りをつけて逃亡に転じた場合についてであった。

 勝負は急いだほうが良いかもしれない。

 そう思いながら剣を振るうキャスだったが、今のところ、攻めきれずにいる。

「あなたこそ、前に見せた変身をしたらどうなの?」

 お互い動きを止めることのないまま、話は続く。

「…………………………」

 キャスは答えることをしなかった。

 そして、代わりに別な言葉を贈る。

「そっちこそ、前の時みたいに逃げたら? 上に逃げられたら僕は満足に追いかけられないよ?」

 半ば挑発じみた口調で告げた。

「それはしないわ………………。それだけは……」

 そこに如何なる想いが秘められているのか、しんみりとした様子で人魚は答える。この依頼を達成するにあたっての最大に不安要素は、当人から直接に否定された。だからといって、安堵も喜びも、湧いてきはしない。

「名前、聞いておいていいかしら?」

「キャス。……そっちは?」

「マリナよ」

 すでに命を懸けて武器を交わしている最中にもかかわらず、二人はずるずると会話を続けることを止めなかった。相手の胸中は察しかねるものの、キャスとしては、力量差が明確になればなるほど、言葉を交わせば交わすほど、心に得も言えぬ感情が蓄積していくのを感じている。

 廃墟を背景に泳ぎ回り鉾を振るうさまはキャスの心に、彼女が被害者であり、それ以上に弱者であるという印象を強くもたらした。

 余力のあるキャスと違って、マリナは全力だったのだろう。次第に動きが精彩を欠いていく。

「遠慮なんて要らないのよ?」

 不意に、さらりと告げられた言葉に驚いた。こちらの迷いが、伝わっていたようだ。

「そっか」

 腹を決めて、自身の中の憐憫に似た感情を切り捨てた。

 繰り出された鉾の一突きを、何度もそうしたように躱してのけ、そして鉾が引き戻されようとした瞬間、それを左手で掴み取る。間髪入れず、そのまま武器ごと相手を力ずくで引き寄せ、両者の距離が縮まった。自身を取り巻く空気の層、海中に存在する「海の外」へと、彼は人魚を引きずり出したのだ。

 水中でもない空間で泳いでいられるはずもなく、どさりと音を立て、相手は落ちた。キャスが見下ろし、マリナが見上げる。

 その時、キャスはマリナと一瞬だけ、けれど確かに視線を交錯させた。それから止めとなる一撃を繰り出す。

 右手に握った剣が、相手の胸のど真ん中に、地面に縫い付けるように突き立てられた。剣先は相手の背を突き抜け、剣はその半ば程まで埋まっている。

「ごめん……」

 地に倒れる相手を、剣の柄を握ったまま片膝ついて見下ろし、一言、呟く。この至近距離、確かに相手にも聞こえたはずだ。何を謝っているのやら、自分でも分かりかねているものの、今が最後と思えば、人間の子孫として、この人魚の子孫にそのように言ってやるべきだと思ったのだ。

「………………………………」

 当然、胸のど真ん中を貫かれている人魚にはそれに応える余裕など、有るはずもない。キャスとて、そんな状況であるからこそ、せめて最後にと先の台詞を発したのだ。

 横たわる人魚は、その言葉をどのように受け止めているのだろうか。既にその手は鉾から離れ、力ない様子。眼つきはぼんやりとしている。

 このまま、彼女の意識が、命が完全に途絶えるまで見届けよう。そんな思いで、目を離すことなくその様を見つめていたキャスに、最後の最後、それが彼の言葉への返答とでもいうかのように、それは齎された。

 人魚の手がゆっくりと持ち合がり、キャスの頭に添えられ、軽く撫でつけられる。海中から引きずり出されたばかりのその手は、濡れていた。

 そして、その絶命と共に、ぱたりと再び地面に落ちていく。

 キャスは半ば以上呆然とした状態でその光景を見送った。

 周囲には、海底に相応しい静寂が舞い戻っている。

 たった今起きたことをどのように解釈すればよいのか、その沈黙の中で、キャスはたっぷりと考えた。けれど、考え付いたものは何れも、自分に都合の良い解釈をしているだけのようにも思えて、結局、自身の中でさえ、結論付けることはやめておくことにする。

 剣を引き抜き、鞘へと納め、立ち上がって頭上を見上げた。そこでは未だに、件の塔から光が照りつけている。

 いつかは供給された魔力も切れ、あの明かりも消えることだろう。それがほんの数秒先のことか、あるいは小一時間ばかりのことになるのか、それとも数時間、数日、あるいはそれ以上になるのか、分かりはしないが。

 その時は今度こそ、二度とこの地が明るく照らされることはなくなるのだ。

 その後には、誰に知られることなくひっそりと、遺跡が墓標となって残り続けるのだろう。

 もう訪れることのない寂寞としたその場所を、キャスは暫しの間、別れを告げるかのような心持で見て回って、それから地上に向けて歩きだした。



 キャスがようやく地上に出られるという所まで辿り着いた時には、すっかり日も登りきっているのだろう、太陽の光が海面から眩しく降り注いでいた。

 外界へ続く緩やかな斜面を登りきり、ついに視界一面に陸の世界が戻ってくる。吹き渡る風に晒され、波の音を耳にして、絶えず使い続けていた異能も収め、暗い沈黙の世界から解放された清々しさを感じながら大きく深呼吸した。

 改めて辺りを見渡せば、遠くの浜辺に、ステラと思わしき姿が見える。大まかな方角だけを意識してここまで帰ってきたが、割と元の場所に近いところまで来れたようだ。

 のんびり歩いて近付いていくと、あちらもキャスの存在に気が付いて向かってくる。その手には白い翼が握られていた。

「ただいま。そっちも、上手くいったみたいだね」

「お帰りなさい。キャスさんも、無事なようで何よりです。中々戻ってこないから、心配したんですよ?」

 確かに、海の中に入っていった相手がいつまでも戻って来なければ、それは心配だろう。

「ごめん。向こうを追いかけてたら、随分遠くまで行くことになっちゃって。……昔、人魚たちが暮らしてた町まで行ったんだ。何だか、凄いところだったよ」

「それは凄いですね。後で色々、聞かせてください」

「うん。それじゃ、ミセリアも待ってるだろうし、急いで戻ろうか」

 キャスが海底まで人魚を追っていったことで、当初想定していたよりも大幅に時間がかかってしまっている。

「…………そうですね。行きましょうか」

 そして、二人は帰路に着いた。


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