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エルフの少女に恋した少年は永遠の命を追い求めました  作者: 赤い酒瓶
第二章 青海で聞こえた二重唱
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第七話 舞台裏

 手傷を負ったまま逃走に入り、サニアを抱えながら必死で泳ぐこと暫く、マリナはようやっと落ち着くことができていた。浜辺まで辿り着き、サニアを陸に横たえる。切り落とされた方の羽が下にならないよう、横向きにだ。それから意識はなくとも呼吸のあることを確認し、一先ず窮地を抜けきったことに安堵する。

 一方、マリナ自身の傷の痛みも未だ引いてはおらず、そのような状態で人一人抱えて泳いできたことは人魚である彼女にとっても軽いことではなかったため、こちらもまた疲れ切っていた。鉾を手放し、その隣に倒れ込む。休むのならば海の中の方が良いのだが、サニアをこの状態で放置するわけにもいかないため、仕方ない。

 まるで丘に打ち上げられたかのような体勢になって、下半身に残る痛みを感じながら傍らの友人の様子を窺うが、ぐったりとして直ぐには目を覚ましそうになかった。

 安全を確認してしまうと、意識を取り戻した後、身体の、それも空を飛ぶために必要な一部を失った彼女がどのような反応を示すのか、今度はそのような心配に意識が傾いていく。あまり取り乱したり落ち込んだりして欲しくはないが、自身よりもずっと年若い彼女にそれを期待しても仕方ないだろう。正直なところ、サニアの反応に関してはマリナも予測できかねたが、相手の目覚めを待つ自分にとって憂鬱なのは確かだった。

 軽いため息をつき、マリナは軽く身を起こす。

 たった今サニアのことを心配したものの、その内容の幾らかは、実は自身にも当てはまるもので、船上から海へと飛び込んでこの方、彼女は己の傷の程度を直接その目で確かめるのを避けていた。結構な痛みがあったことから、あまり浅いものではないだろうと思われるが、これまでこれといった負傷を経験していない彼女にとって、自身の抉られた肉を目にするのは度胸を要するものだったのだ。

 恐る恐る、といった感じで、彼女はその下半身に、顔は向けることなく視線だけをやった。

「っ――――――――――――――――――」

 声を上げそうになり、けれど発すべき言葉が見つけられず、彼女は息を詰まらせる。

 そこでは身の半分にまで届くほど、という訳ではなくとも、大きく体を抉られた傷跡があり、鱗の下にあった肉が剥き出しになって血を滴らせていた。自分たちが襲った船上の死体たちによく見たそれだが、いざ己の身にその光景を見るとなると、何とも恐ろしく、背筋がぞっとする気分だ。

「………………………………」

 自分たちのやっていることは多大な危険を伴う行為。それを十分に承知はしていたつもりだったが、肉体の一部を失った事実をどう受け止めたらよいのか、怒るでも嘆くでもなく、ただ心拍が上がるのを感じた。

 ゆっくりと再び身を横たえて目を閉じ、全身から力を抜いて、気を落ち着かせようと試みる。しかし、それに効果がないことを悟るのは直ぐで、彼女が目を開くまでの時間は短かった。

 マリナの視線は再びサニアの下へ向けられる。果たしてこの若い友人は、今回の敗北を冷静に受け止められるだろうか。

 彼女はそのまま、相手の目が覚めるまで浜の上で待ち続けていた。

 晴れ渡った空から、二人の傷口を太陽が照らしている。


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