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エルフの少女に恋した少年は永遠の命を追い求めました  作者: 赤い酒瓶
第一章 森に染み入る獣の咆哮
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第一話 旅路の途中

非常に拙い作品ですが、お楽しみいただければ幸いです。

 満月に照らされた森の中にある開けた空間、そこで複数の男女が一匹の獣と向き合っている。

 獣の方は人間と狼を合わせたような姿をしており、首から上は狼の様であるが、その胴体、手足のあり方は人間に近くもあった。もっとも、人間に近いといっても、あくまでそれは骨格の話である。強靭な筋肉を纏っているであろうことが察せられるその体の表面は、頭も含め漆黒の毛並で覆われていて、二本の足で立ち、姿勢はやや前傾、足は開かれ、膝も曲げた状態、同じく漆黒の毛並を持つ尻尾があり、それでバランスが取れているのだろう。体の大きさも人間とそう大差ない。漆黒の中で唯一、黄金の光をたたえるその瞳が際立っている。まさしく、これこそが話に聞く人狼なのだと一目でわかる姿であった。

 月明かりに照らされながら、聞く者をおびえ、畏縮させる咆哮を人狼が上げる。

 その咆哮に応えるように、対峙していた者たちも己の得物を手に携えてその恐ろしき怪物へと向かっていく。どういうわけか、彼らの容姿はぼんやりとしていて、なんとなく男女複数の集団であることだけが理解できた。

 獣とその集団の距離は縮まり、戦闘が始まる。人狼はその圧倒的な膂力をもってして、集団を相手に目にもとまらぬ速度で立ち回り、彼らのうち一人をあっという間に仕留めようとするも、その人物の魔法なのであろうか、一瞬で身動きを封じられ、地に伏せる。どのような魔法であったのか、彼らの顔同様おぼろげであり、知ることは叶わない。

 地に伏せ動けぬ狼を見て、彼らは勇んで駆け寄りその得物を突き立てんとする。なぜだか、その光景は凄まじい嫌悪を感じさせた。



 田舎にある酒場、食堂を兼ねた古い宿の一室、真っ暗な狭い部屋で、一人の少年が目を覚ます。先ほどまで見ていた悪夢のせいか、その全身が嫌な汗に塗れている。

「今の夢って……」

 やはり予知夢だろうか、と言葉には続けることなく考える。

 普通の人であれば、多少鮮明な悪夢を見ただけでそのような考えを持つことはないであろう。しかし、彼には今までも何度かこのような、夢で未来を予知した経験があり、そもそも予知の力自体は魔物や人との戦いの中で何度も使っている力であるため、それらの感覚から彼も今の夢が予知の類だと考える。

 それにもかかわらず彼が疑問を持ったのは、今までと異なり自身が夢の中の出来事にまるで関わりがなかったからである。

 なぜ、一見かかわりのない出来事を夢に見たのだろう。あの集団の中に自分が入る可能性を示唆しているのだろうか。しかし、今までの予知夢は総じて少年の危機を告げるものであったため、人狼を仕留める一団に自分が所属する、という内容だけであると考えることは、楽観が過ぎるというものであろう。それに最後に感じたあの嫌悪感もいまだに消えていない。

 そこまで考えて、彼は隣の部屋から聞こえてくる物音に気付く。

 いまだ寝起きの頭のまま、その音の正体を知るべく彼は壁の方を向き、その薄い壁の向こう側を透視で覗く。

「っ――!」

 その瞬間、脳裏に飛び込んできた光景に、彼はなぜ自分はこんな安易な真似をしてしまったのだという思いに駆られる。奇妙な夢を見て動揺していたことと、寝起きであったことが重なったせいだろうか。このような真夜中に宿の一室から声がするなどとなれば、普段であればそれが何であるかなど考えるまでもなく察しただろうに。

 そこでは見覚えのある赤毛の男と、一人の美女が絡み合っていた。

 気付いた少年は、すぐさま透視をやめる。一人っきりで悪夢まで見せられた挙句、他人の情事まで見せつけられるなど、あまりに惨めだ。しかも、見覚えのある二人。

 そこまで考えて、二人が誰であったかを思い出すため、意識を思考に集中させる。現実逃避の意味しかないことは自覚していた。


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