表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルフの少女に恋した少年は永遠の命を追い求めました  作者: 赤い酒瓶
第一章 森に染み入る獣の咆哮
11/97

第十話 人生の再開

 木々の間を獣の姿で疾走し、彼は自らの住まいである小屋へ辿り着く。

 小屋の前で変身を解き、化物から人間の姿へと戻ると、途端にそれまでの疲労が彼にのしかかる。

 小屋の中へと入り、彼は疲れた体を椅子の背もたれに預けてぐったりとしながら、先の人物が訪れるのを待つ。そうしていると、疲労のせいか、眠気が襲ってきた。

 微睡みながら思うことは、疲れた、という一言になるだろうか。今回殺した人物が何人目の来訪者であったのか、もはや記憶を辿れども微塵も見当がつかないほど、自分を殺しに来た輩を殺し続けてきた。その数が何桁になるのかすら想像がつかない。

 ここで暮らし始めてから長い時間が経っているが、時折彼の心に去来するのは、一体いつまで続ければよいのだろうかという想いだ。

 人狼となり、人間の時には当然にあった老いや寿命、病はなくなっている。必然、幾ら待てども終わりは来ない。この地を離れて再び人々の中に紛れれば、現在のような来訪者に煩わされることはなくなるのであろうが、彼が悩んでいるのはそういったことではないのだ。

 彼を悩ませ、その心を暗くしているのは、自らに許された終わりの形を思ってのことだ。

 彼にとっての死とは、つまりは己を含めた誰かしらに殺されるということだ。老いも病も彼を殺せない以上、およそ彼が死ぬにはそのくらいしか方法がないだろう。

 しかしながら、自ら死ぬことはもちろん、時折訪れるあの人狼退治の連中に殺されることも耐えがたい。自分を殺して、その死体の前で喜色満面に喜んでいる姿を想像すれば、一層の殺意が湧くのみだ。

 そんなわけで、世の中での暮らしに疲れてこの地に来て数百年、依然として碌でもない終わりしか見いだせぬことに、彼の疲れは尚のこと増していた。

 そんな何度も繰り返した考えをなぞりながら、うっかりしていると眠りに落ちそうになる意識を保ち、待つこと暫く。小屋の外から足音が聞こえ始めた。

 そして、開け放たれていた小屋の戸口から先ほどの人物が入ってくる。

「いらっしゃい」

 言って、彼はこの言葉を前に使ったのはどのくらい昔のことだっただろうかとつい考えてしまう。旅に出て以降はこの地に落ち着くまでどこかに定住することもなかったため、最後に使ったのは当然、彼がまだ故郷の村にいた頃だ。実に何百年ぶりに使う言葉だった。

 入ったきり動かない客人を見て、彼はとりあえず席へと促すことにする。

「まあ、座りなよ」

 言われて男が椅子へ腰かける。ジーンの方はもう相手をさほど警戒していなかったが、この様子を見る限り、どうやら向こうの方はまだまだ警戒しているようだ。

 とはいえ、それも仕方ないかと思い直し、さっそく彼は本題を切り出そうとする。

「それで、話ってなんだい?」

「あ、ああ……。僕は、キャスっていいます」

 困ったような反応の後、男が名前を告げる。どうやらジーンの方が話しを急ぎすぎたようだ。そのような自覚自体はなかったが、百年単位で人と会話していなかったせいか、いろいろとすっ飛ばしてしまったらしい。それは相手の方も困るというものだろう。

「ああ、名乗るのがまだだったね。私はジーンって言うんだ、人と話すのは随分と久しぶりでね。何百年ぶりになるだろう。まあ、よろしく」

 涼しい顔で自らの失態を詫び、名乗り返す。言い訳をつけたしておくのも忘れない。

「それで、ここに来た理由なんですけど……」

 互いの紹介が終わると、先ほどのジーンの言葉に従ってか、さっそくキャスが本題を切り出してくる。今になって考えれば、ジーンの方にはいくらでも、それこそ無限に時間はあるのだから、もう少しのんびりと話を続けるべきだったと反省する。彼らは互いの名を知ったばかりの初対面、しかも先ほどは殺し合いまでした間柄だ。そこに来て、席に着くなりいきなり本題を言えといわんばかりの台詞では、どうあがいても空気が堅くなってしまう。

 けれど結局、今更どうしようもないか、そう考えてジーンも話を進めることにする。

「うん、討伐以外に人狼に用がある理由となると何となく想像がつくけど、いったいどんな理由だい?」

 そう告げたとおり、彼としては自分に対する要件など、ごく限られたものしか思い浮かばなかった。

 彼が人里を離れて久しく、もはや外部に彼を知る者がいないであろうことは確かであり、そもそもここに潜んでいるのが彼であることを知る者も最初からいないはず、つまりはキャスの要件がジーン個人を対象にしたものではないことは間違いないだろう。もっとも、ひょっとしたらかつて彼がかかわったものの中に長命な種族の者が紛れていて、その人物が生きている可能性もなくはないのかもしれないが。

「不老不死、永遠の命を手に入れる方法を、探しているんです」

 予想通り、告げられたのは人狼の力を持つ者に向けた要件だった。それを特に驚きもなくジーンは聞き届ける。

「……、そうかい。どうして不老不死になりたいの?」

 彼は唯そう問い返す。

「それは…………」

 すると目の前の人物は言葉に詰まってしまった。その様子は、大した理由がないというよりも、何か言い辛い理由であることが窺える。

「あまり上手くまとめる自信がないので、順を追って話すことになります。長くなるかもしれませんが、よろしいですか?」

 躊躇いの後、キャスはそう告げてきた。

「構わないよ、どうせ時間はいくらでもあるしね。それから、敬語もいらないよ。確かに私は君より何百年とかじゃ足りないくらい年上だけどね」

 ジーンがそう返したことで、キャスは自らが不死の力を求めるに至った経緯を話し始めた。



「初めに、僕の出自から。僕は捨て子で、ある日エルフの里に住んでる養父母の家の前に捨てられていたところを拾われたんだ。エルフしかいないはずの里に、ある日突然現れた人間の赤ん坊だったから、怪しいことこの上ない存在だったんだけど、良い人たちだったみたいで。家族は両親のほかに、彼らの娘が一人いて、歳も近かったんだけど、実の弟の様に僕の面倒を見てくれて、あの家に拾われたのは幸運だったと思うよ。特にその娘、姉さんって僕は呼んでたんだけど、彼女は殊更僕を気にかけてくれて」

 キャスがまず語り始めたのは、自身の生い立ちからだった。どうやら彼が不死を求める理由は、彼の人生の根本にかかわって来るらしい。長命であるエルフに囲まれて育ったことに何かあるのであろうかとジーンは予想しつつ、言葉を挿む。

「でも、他の人たちまではそうはいかなかったと」

 彼自身はエルフの里を訪れたことはなかったものの、恐らくそうであろうことは予想できた。優れた特徴を持つ単一の種族のみで構成された里で育った人間の少年、どうしたって目は付けられるだろう。

「やっぱり、そう思う?」

 案の定、肯定の意味を含んだ答えが返ってくる。

「エルフの里には行ったことないけど、単一種族、それもことさらに長寿で魔力に優れた種族であるエルフだけで構成された閉鎖的な空間ではあるんだろうから、その中に他種族が一人だと、やっぱりそうなるのが自然だろうね……。それを肯定するわけではないけど」

「まあ、大人たちに関してだけ言えば、皆が皆そうだったわけでもないけど、姉さん以外の子供たちには随分と差別されたし、いじめられたよ。特にそれを助長させたのが、僕が生まれつき魔力を持っていないってことだろうね」

 魔力を持っていない、というキャスの台詞がジーンの耳に引っかかった。

「魔力がない? 少ないとかではなく?」

 どんな種族であれ、人であれば魔力を極僅かにでも持っているはずだ。全く魔力を持たない人というのは、ジーンも聞いたことがない。

 だが続いたのは、それを肯定する言葉だった。

「うん、おかげで子供時代は魔道具も魔法陣も、身体強化も自身に宿る魔法も使えなかった。種族として多くの魔力を生まれつき持っているエルフからすれば、なおのこと見下される要因になっちゃったんだろうね」

 そうすると今度疑問になるのは、では魔力を持たない無力な身であるはずの彼が、いったいどのようにしてこの森まで辿り着き、先ほどの様な戦いを演じることができたのかということだった。魔力を用いたものと用いない者との戦闘能力の差は大きく、彼がその肉体のみで先ほどのような動きを見せることは不可能なはずである。

「じゃあ、どうやってここまで一人で来れたんだい?」

 ジーンは率直にその疑問を口にした。

「僕が十歳くらいになった頃かな。何がきっかけだったか定かじゃないけど、自分が魔力とは違う力を持っていることに気付いたんだ」

 そう答えたキャスが戸口の方を一瞥する。

 すると、開けっ放しであった戸が独りでに閉まった。

 小屋の中が、先ほどよりも薄暗くなる。

「今のは?」

 すかさず、真剣な表情でジーンは問うた。

「頭の中で明確にイメージして強く念じると、そのイメージした現象を実際に起こせるんだ。今みたいに物を動かしたりするだけじゃなく、自分の身体能力を強化したり、透視や遠見、少し先の未来を予知したりなんかね」

 ジーンからすれば、俄かには信じがたい話だった。とはいえ、ここで疑うよりも、それが事実であることを前提として、その道の能力に対する認識を固めておいたほうがよいだろうと思い直す。別段、嘘をついてまでのたまう内容ではないかと思ったからだ。

「少し先の未来って言うと?」

「さっきの戦いみたいに、次の攻撃を一瞬早く知って、対策を打てるくらいかな」

「なんだか、魔法よりも強そうに聞こえるけど」

 多少冗談交じりに、ジーンはそう言った。実際、キャスの言うことが事実であるならば、魔法よりもはるかに使い勝手の良い、応用の効く能力に思えたのだ。

 しかし、当の本人はそれを否定する。

「そこまでじゃないよ。出力、って言えばいいのかな? いくらイメージが出来ていても、それが足りなければ現象は起こせないから。例えば、今の僕じゃ月や太陽を動かすなんてできないし、上手くイメージできない現象を起こすこともできない。それにこの能力は、魔力の多いものに程効きづらくて、飛んでくる魔法をどうにか、っていうのも難しいね。大きな魔力を持った相手についても同じ。魔法とは相性の悪い能力だと思うよ。一応、その出力も鍛えるごとに上がってはいるんだけどね。とりわけ、死にそうな状況になった時に、力が増してる感じかな」

 キャスが言うには、起こせる現象にも限度があるらしい。具体的にどのあたりがそれになるのかまでは、ジーンには分からない。

「まあとにかく、この力に気付いてからはいろいろあって、いじめてきた子供たちに大けがさせてからは、今度は彼らに避けられるようになって、結局、仲が良かったといえるのは姉さんだけだったかな」

「そっか……」

 自身の力の内容へと逸れていた話を強引に戻し、そう告げたキャスに、ジーンは短く返す。周囲から蔑まれ、遠巻きにされてきたというキャスの話に、人狼として孤独に過ごしてきた彼も何か感じるものがなかったわけではないが、ここで相手にかけるべき適切な言葉が見つからなかったのだ。

「それで、僕が不老不死を求める理由としてはここからが本題なんだけど……」

 キャスの方はそんなジーンの様子を特に気にすることなく、話を進めていく。どうやら核心部分に近づいてきたようだ。

「その元いじめられっ子なんだけど、成長していくにつれてどんどん、その実の姉も同然のお姉さんのことを好きになっていったんだよ……。色恋的な意味で」

 視線をそらしながら、キャスは何とか、といった様子でそう告げた。人に話すことにかなり抵抗があったのだろう。

「ほう」

 一方で、つい食い気味な反応を返してしまった自分に、ジーンは故郷で暮らしていた頃を思い出す。当時もこの手の話となると、よく食いついていたのを覚えていた。

「それで?」

 続きを促すも、彼としてはこの時点で、この件の概要についてかなりの部分が見えてきたと思っている。エルフに恋をした人間、ここから不老不死が関わってくるとなると、おおよそ見当は付く。

 キャスが話を続ける。

「ところが彼は人間で、彼女はエルフだ。しかも、一緒に育ってきた、つまりは歳もほぼ同じ。そいつはこう考えたんだよ、自分は思いを告げるべきなのかってね」

「どういうことだい?」

 そうは言いつつも、やはりほとんど自分が予想した通りのようだと、ジーンは考える。

「つまり、まあ……、寿命が圧倒的に違うってことかな。人間とエルフで年が近いってことは、彼女の方は彼が死んでからも何百年と生きるわけだし。現にエルフの中でも、そういう理由で人間と結ばれることは忌避されてるしね」

 キャスの紡ぐ言葉を、今度は口を挿むことなく聞く。

「そんなわけで、彼は何も言わないことに決めたんだよ。けど、それは一方で、その地に留まる理由がなくなったってことだった。結局その時点ではそのお姉さんへの想いを告げられないまま、彼は故郷を出て旅に出たんだよ。姉さんにはしつこく止められたけど」

 彼の決断自体はともかく、エルフの里に留まらなかったのは当然であろう。むしろジーンが気になったのは、姉にしつこく止められたという部分だ。彼が人間であることを考えれば、エルフの里を出て多種族がともに住まう外部で暮らすことを止めた理由が解せない。キャスが里に残っても、一人だけ違う時間の流れを生きて、早々に老いて死ぬだけのはずだ。彼のためを考えれば、反対などせず送り出しているのが普通に思える。

 とはいえ、それをキャスに聞いたところで仕方ないかと考え、疑問を放置して話を聞き続ける。

「それから、旅をするうちに人狼とか吸血鬼とかの永遠の命を持つ存在の話を聞いて、思ったんだ。この方法なら、今よりも長い命を手に入れることができて、あの時みたいに諦めなくてよくなるはずだって」

 どうやら、以上がキャスの永遠の命を求めるに至った理由であるらしい。

 とりあえず、ここまで聞いたところで、ジーンにはいくつか聞いておきたいことがあった。

「永遠の命を求める理由は分かったけど、だったら人魚の肉とかの方が有名だし、良さそうじゃない? まあ、今の世間のことはよく分からないんだけど」

 ジーンが自ら言ったように、彼がここに引きこもって外界との接触を絶ってから長い時間がたっているため、彼としてはそのあたりの認識についても確認しておきたかった。彼の知る限り、不老不死を手に入れる手段としてよく知られていたのは人魚の肉だったし、聞いたところでは、それを口にした者は、何らの代償もなく不死となれるらしい。人狼や吸血鬼などとは異なり、実際に求めるものも存在したくらいだ。もっとも、彼が知っている範囲でも、人魚の肉に不死の効があるというのは真実でない旨の噂も頻繁に耳にしていたので、現代ではそれが証明されているのかもしれない。

「人魚とか吸血鬼とか、昔はどうだったか知らないけど、今じゃ伝承の中だけってくらい情報がなくて。人狼の噂に関しても、だいぶ田舎の方に来て、初めて聞いたくらいだし」

 それを聞いたジーンは、今と昔でかなり事情が異なっていることを知る。彼がまだただの人間だったころは、人狼や吸血鬼はどこからか急に現れはじめた新種の脅威であったし、人魚も珍しいとはいえ、伝承の中だけ、というほどではなかったはずだ。

「そっか、今じゃそんなに珍しいのか。確かに、えり好みできる様子じゃなさそうかな。でも、永遠の命を手に入れる手段として頼ってきた以上は、噛まれて眷属になる以外に人狼になる方法も知ってるのかな」

 今度は人狼についてどの程度知られているのか確認する。

「人狼の血を飲むことで、眷属になることなく力を手に入れられる。そう聞いてる」

 そこまでは知っているようだ。

「その通り。でもそれを知っているのなら、話し合いじゃなくて、私を殺して力を手に入れることもできるんじゃない?」

 現状の力量差でそれは難しいだろうことを知りつつ、彼はそう問うてみる。もっとも、彼の剣が銀でできたものだったら、必ずしも不可能ではないかもしれないが。

「いきなりそんなことは出来ないよ」

「どうして?」

「眷属もつくらずに、こんなところに隠れるように暮らしてまで平穏に過ごそうとしてる相手に、さすがにそこまではね……」

 どうやらキャスの方も、ジーンの事情をある程度汲んでくれているようだ。ただ、ジーンとしても言葉の頭にあった「いきなり」という部分の意味は承知している。いざとなれば、そんな道義心よりも自らの目的の方を優先する覚悟はできているのだろう。

「とにかくそんなわけで、僕に人狼の血を分けてほしいっていうのが、僕がここに来た理由」

 そこまで語られて、ひとまずジーンはどうするか考える。彼としては正直、血を分けたところで困ることなどない。キャスが人狼化したとしても、その力でこちらに襲い掛かってくることはなさそうであるし、人狼化した彼がどこかで暴走する危険性についてもさして心配していない。とりあえず今までのやり取りの中ではそう判断している。

 しかしながら、彼を迷わせるのは別な問題、この目の前の人物、キャスにとって、人狼の血を得ることがどのような結末をもたらすかという点だ。少なくともジーン自身は、人狼の血のせいで不幸となったことは確かだ。だがそれは、彼が人間として普通に家族友人と村で暮らしていたからこそなのかもしれない。彼が人狼となって失ったもの、故郷での未来などは元からキャスが持っていないもの、望んでいないものであろう。何より彼は、それ自体を目的とするのでなく、最も欲するものを得るための手段として人狼の力を望んでいる。人狼になったとしても、ジーンが見てきたものとは違う景色をキャスが見ることになる可能性は高い。ともすれば、自分が不幸になったからといって安易に止めるべきではないのかもしれないと考える。

「そうだね、言いたいことは分かったけど、それでも人狼はお勧めできないかな。月に一度とはいえ、自分の意思に反して人を狩らずにはいられないっていうのは、実際に何処かで定住して人と暮らすには結構不便だよ。私も諦めたし」

 考えた結果出てきたのは、率直な意見としての、お勧めできないという言葉だった。ただし、相手の要求を拒否したわけでもない。

「まあ、だからと言って今すぐ断るってわけでも、了承するってわけでもない。それでも人狼になりたいならそれでもいい。けど同時に、人狼の力っていうのはとても危険なものだから、詳しく人となりも知らずに与えるわけにもいかない。だから提案なんだけど、君、しばらくここに留まってみないかい? とりあえず、次の満月くらいまで」

 早急に決める必要もない話であるから、考える時間を設ける。それがジーンの出した結論だった。適当な理由をつけて、キャスに人狼となることについて改めて考える時間を設けさせるために、そんな提案する。

「その間に君は、本当に人狼になりたいのかを、もう一度よく考える。私の方は、君が力を与えても問題のない人間か、見極める。どうだい?」

「わかった。それでいい」

 ジーンの意図をどこまで汲んだか定かでないが、キャスも大人しく同意した。

 それを見て、ひとまず話が決まったようだと彼は判断する。

「じゃあ、しばらくの間よろしく、キャス」

「こちらこそ、よろしく、ジーン」

 ここから、ジーンはこれから始まる満月までの日々が彼にもたらすもの、そして何気なく決めた、次の満月という期限が持つことになる意味を知ることになる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ