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やっぱり桃太郎だったそうな

 調査についてひと通りの説明を受けて、今は川沿いを歩いている。

 オレでも手伝うことはありそうな印象だったが……何か引っかかっる。

 何だろうか?


「何か質問はあるのよ?」


「昔話のストーリーを再現する為に、時にさりげなく、時に大胆に話を進行していくと」


「そうなのよ」


「その上で大切なのは、時間と場所と結果だと」


「相変わらず理解が早いのよ」


「話屋の人は、話の住人に昔話であることを伝えなければある程度は自由が利く」


 田所さんは右手の親指をたてている。

 気に入ったのかな?


「そして、今は『桃太郎』の世界に居るということで……」


 やっぱりだった。

 『川で洗濯するおばあさん』で思い浮かぶのはこの話だけだったのだけど。


「桃太郎は、オレも知ってるから手伝えそうですね。何でも言って下さいね、田所さん」


「カズキさん? 自分は名前で呼んで欲しいと頼んでおいて、私のことは『田所さん』? 私の名前は、田所……」


「田所さんは田所さんです」


「自分勝手なのよ?」


「そうは言っても、田所さんも結局、『カズキさん』で落ち着いてるじゃないですか」


「いきなり呼び捨ては出来なかったのよ。私にも言わせてもらえば、カズキさんはカズキさんなのよ」


 まぁ、確かに最初から呼び捨ては難しいだろうな。

 オレだって逆の立場なら呼べない。

 呼べないに決まってる。


「1つ気になってる単語があったんです。『特殊なスタート』って何ですか?」


「特殊と言っても特殊じゃないというか何というか、上手く説明出来るかわからないけど……」


「あれまぁ」


 説明の為、頭の中で話をまとめようとしている田所さんの背後に、大きな桃が浮かんでいる。


「お腹空いたなぁ…じゃない! 田所さん、あのモモって!」


「そうなのよ。今回のスタートが特殊な所は、桃があれば大丈夫な所なのよ。時間の指定はあまりなくて、開始時間に幅があるのよ」


「田所さん、あのモモ」


 田所さんは、オレの指差す先にゆっくりと視線を向ける。


「うん。あの桃をおばあさんが見つけて持ち帰る。そこがこの昔話の最初のズレなのよ」


 桃をチラリと見て、すぐにオレを見る。


「わかったの?」


「はぁ」


……


……


……


……


「あの桃~!!!!」


 やっぱり田所さんは愉快です。





 ずっと引っかかってたのは、これだった。

 ゴミ溜まりにある果物の中にあった大きな桃。

 見た時は、ここが『桃太郎の世界』と知らなかった。

 でも、『昔話の世界』とは聞いていたから薄々だけど、大きな桃が気にはなっていた。

 こんな感じかな?


「田所さん、スタート時間の幅ってどれ位かわかる?」


「確か、おばあさんの洗濯が終わる11時だったかも……」


ーー10:35ーー


「田所さん、まだこの桃を持っていけば間に合ったりしません?」


「……大丈夫かも」


「でしょ!」


「いけるのよ!」


 田所さんの耳が立ち、しっぽが小刻みに揺れている。

 喜んでる。

 よし、これからこの田所さんを『喜所(きどころ)さん』と呼んでみよう。


「でも……」


「どうかした?」


「あの桃じゃないかもしれないのよ」


「はい?」


「桃太郎の桃なんだから、桃太郎が入ってる桃じゃないとだめなのよ」


「そりゃあそうでしょうけど……どうしたらそれがわかるんですか?」


「桃の底に……」


「底に?」


「桃太郎って書いてあればいいのよ」


????


「何で、桃に名前が書いてあるの?」


「桃太郎のものだからなの。自分の持ち物には名前がつくのが当たり前なのよ。私の帽子にも本にもちゃんとついてるのよ」


そういえば……ウネウネで作った小屋にも達筆な表札があったのもそういう理由だったのか?


「名前の書いてある桃って怪しくないですか?」


「持ち主以外には見えないように調整することが出来るから、大丈夫なのよ。名前に触れて『消えろ』ってイメージすればOKなのよ」


「他の人に見えないように出来るんですね」


「そうなのよ。私も見えないようにしていたはずなのにカズキさんには見えていたことに驚きなのよ」


「そっかぁ……」


 まさか、あの桃も話道具の1つだったとは驚いた。

 だけど、田所さんが凄い訳ではなく、なぜこんなに得意気になれるのだろう?

 それに、どうやら気が付いていないみたいだ。


「おばあさんに見えないのはいいけど、オレ達も見えないんじゃない?」


 田所さんの動きが止まった。

 得意気な顔から一気に表情が変化した。


「そうなのよ。やっぱり明日まで待つしかないのよ」


 あぁ、ちょっと可哀想なことをしてしまった。

 図星を突かないのは難しい。

 やっぱり明日まで待つしかないのか?


「さぁ行くのよ。この後の話もするし、まだやることはあるのよ」


「しょうがないか……」


 しょうがないかな?


「あっ!!」


 閃いた。


「田所さん、ダメ元で名前を見に行こう。もしかしたら名前が見えない細工をしてないかもしれないよ」





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 川を渡ってゴミ溜まりに行こうとしたら、川が思いのほか深かった。

 身長が60㎝くらいの田所さんはどうやって渡ろうか困っている。


「よいしょっと」


「な、な、なにするの!」


 田所さんをヒョイと持ち上げて川の中を歩いて渡る。


「離してなのよ」


「時間も無いことですし、少し我慢して下さいよ」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 足元にある桃は、近くで見ると知ってる桃の大きさのやっぱり10倍くらい大きい。


「そろそろ降ろすのよ!」


「あぁ、ごめんなさい」


 田所さんを桃の横に降ろして、桃をひっくり返してもらう。


「田所さん、話道具について1つ質問があります。昨日、オレがウネウネを触った時に『勝手に触るとパチッとなってバーンとなる』って言っていたけど、触って大丈夫なんですか?」


「それは、道具の特性にもよるのよ。あとは、持ち主の考えにもよるけど……今回の場合、大丈夫なのよ。おばあさんが触るかもしれないのに、そんな危ない桃が川下りするわけないのよ」


「そっかそっか。で、どうですか? 名前はありますか?」


「さっきの質問だけど、今度からは私が触る前にするの。一緒に居るなら、お互いの思いやりが大切なの」


「…はい。反省します」


「いいのよ。それで、名前だけど……やっぱり無いのよ」


「そうですか……じゃあ、耳をあててみて下さい」


「なぜ?」


 不思議に思いながらも、田所さんは桃に耳をあててくれる。


「あっ!」


 どうやら、考えがはバッチリあっていたみたいだ。


「これなの! この桃に間違いないのよ。中でスースー音が聞こえるのよ!」

 桃太郎の桃ならば、中に桃太郎が入っているのが道理。

 何かしらの中に居る痕跡があると踏んでいたが、予想通りで本当に良かった。

 これで残るは、桃を持って川上に移動するだけ。

 少し重そうだけど、川を流れてきたんだから、見た目だけでそんなに重くは無いのかもしれない。


「よっこいしょっと」


「カズキさんが居て助かったのよ。か弱い私は、こんなに重いものは持てないのよ」


「これくらい、広告の束に比べれば、軽いもんです。」


 桃を担いで川上に向かって歩きだす。

 最初に川を辿って行った時よりは遅いけど、意気消沈していたさっきよりは足早に移動する。


ーー10:40ーー


 これなら間に合いそうだ。

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