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二人で協力するってさ

 何とか荷物をまとめて、小屋の外に二人で出る。

 田所さんが小屋に触れて、煙の塊に戻してから帽子に煙を押し込んでいく。


「昨日のうちに、スタート地点に近づいておいてよかったのよ。ここから急げば10分くらいだからまだ間に合うのよ」


ーー9:48ーー

「この川を辿って川上に向かって行くのよ」


 早歩きで移動を開始しながら田所さんが教えてくれる。

 雲一つ無い青空が、広がっている。

 時に吹いてくる風。


「気持ちいいなぁ」


「あなたねぇ!」


 急いでいる田所さんは、のんびりと風を感じて楽しんでいるオレをキッと軽く一睨みする。

 田所さんは、急いでいるらしい。

 またも可愛らしく足をチョコチョコと動かしてはいるが、それに合わせて普通に歩いても、こっちの方が早い。

 横を流れる川はキレイで澄み渡っている。

 川上からは、落ち葉がクルクル回りながら流されてきたりする。

 その葉っぱの大きさは1㍍くらいはあるだろうか?

 他にも色々と流されてくるゴミや木の実が見える。

 どうしてかはわからないけど、どれも知っている物に比べて大きさが10倍くらいあるみたいだ。

 大きな岩の配置と川の流れの関係でゴミ溜まりになっている所がある。

 木の実だけじゃなくて、果物もいくつかあるみたいだ。

 朝ご飯は食べていないので、果物を見ていると空腹を感じてしまう。

 田所さんを起こさないように、持っていたチョコレートを少し食べただけではやはり足りなかった。


「朝ご飯はどうしましょうかね。昼ご飯ですかね」


「あなた、話を聞いてなかったの? 今は、い・そ・い・で・る・の・よ!」


「はい、すいません」


 恐い……。

 またしばらくは、機嫌が直るまで我慢の時間かな?


「隠れてなのよ!」


 時計を見ると9:59。

 いよいよ、調査と言うものがはじまるみたいだ。


 木の陰に身を隠しながら、川のほとりをジッと見つめる田所さん。

 その視線の先には……


「おばあさん?」


 昔話に出てくる、平均的な外見のおばあさんが、洗濯しているようだ。

 川で洗濯……

 あっわかってきたかもしれない。

 あの話なのかもしれない。



……


 ピ~ヒョロロ~


……


……


 この世界でも、トンビはいるんだなぁ。


……


……


……


 時計は10時をまわった。

 おばあさんは、黙々と洗濯を続けているようだ。

 そうだ、昔はあーやって洗濯板で大変な思いをして洗っていたんだ。


……


……


……


……


「おかしいのよ……」


 田所さんは、自分の腕時計をチラリと見て動きを止め小刻みに体が震え始める。


ーープルプルプルプルーー


「あなた、ちょっと腕時計見せるのよ!」


 言われるがままに時計をしてる腕を田所さんに差し出す。


ーープルプルプルプルーー


 急にしゃがみ込む田所さん。

 と、思ったら……


「ゴフッ!」


 オレの腹に目掛けて飛び上がり、田所さんの体重をすべて乗せた右ブローが決まった。


「何を……?」


 地面に横たわり、腹部を手で抑えながら初めて田所さんを見上げていた。


「田所さん、オレが何を…?」


「あなたの時計、5分遅れてるじゃないのよ!」


 そういえば、そうだった。

 昔から使ってる腕時計は、油断すると数日で時間が狂ってきてしまう。

 愛着もあったし、慣れればその狂った時間もおり込んで行動できたし問題は無かった。


 言われてすぐに、自分の時計を5分進めてみる。


ーー10:07ーー


 あっ!


ーー10:08ーー


「あれ?」


「あれじゃないのよ。」


「と、いうことは……?」


「と、いうことなのよ!」


「田所さん? 笑った方が良いと思いますよ……」


「ふっふっふ。これでいいの?」


「あっはっは。目が笑ってないですよ」


 ヘナヘナっとしゃがみ込んでしまった田所さんに、何と声を掛ければ良いかわからない。


「物語が進行しなくなったなのよ。このままじゃ………………なってしまうのよ。どうしよう……」


 何が起こっているかわかるが、どう大変なのかはいまいちわからない。


「ホントにすいませんでした。私のせいで田所さんの調査を邪魔してしまい、どう責任をとればいいか……」


 田所さんはゆっくりと立ち上がり、体に付いた砂をパンパンと落としている。


「いいのよ。私も確認しなかったり、寝坊したり悪い所があったのよ。昼までに物語をスタートさせないとダメだったけど…まぁでも、この昔話は、運が良いことに、スタートが特殊ではないからまだ何とかなるのよ。あなたにはもう一日付き合ってもらうことになるけど、それで解決出来るなの」


「何か手伝えることはありませんか?」


「気にしないでいいのよ」


「でも!」


 ガシッと田所さんの肩を掴んで迫る。


「明日やり直しましょうなのよ」


「わかりました……」


 二人はうなだれながらトボトボと、来た時の半分以下の早さで小屋を出した森へと戻って行った。



 道中の空気は重い。

 オレは、自分が田所さんに迷惑をかけたことが許せないでいた。

 あんなにおいしいスープと一晩の宿を世話してもらって……


「田所さん、ホントにすいませんでした」


「もういいなのよ。そんなに謝られるとこっちも謝らないといけないのよ」


「田所さんが何を謝るんですか」


「偶然だけど、あなたを調査に巻き込んでしまったことなのよ」


「わざとじゃなかった訳ですし、しょうがないかじゃないですか」


「じゃあ、あなたが時間に気が付かなかったのはわざとなの?」


「ち、違いますよ。そんなことするわけないじゃないですか!」


「ねっ!」


 オレの顔を覗きながら、ニコリとする田所さん。

 わざとじゃない……か。


「じゃあ、わかりました。謝るのは無しにしても、お手伝いはさせて下さい」


「だから、気にしないで」


「手伝わせて下さい」


「いや……」


「手伝わせて下さい」


「……」


「手伝わせて下さい!」


「はぁ~」


 勝った!

 オレは、田所さんの顔を覗いてニコリとする。









「フフフ…」


「フフフ…」


「「アッハッハッハッハッ」」










ピーヒョロロー







 ひとしきり笑い合ったら、スッキリした。

 オレに出来ることなんて無いかもしれないけど、少しでも田所さんを手伝お う!


「田所さん、調査について詳しい説明をお願いします」


「はい、じゃあ説明するなのよ。まず、あなたの世界には、沢山の昔話があると……」


「ストップ!」


「えっ、昔話を知らないの?」


「そうじゃなくて、1つお願いがあります。これからは、短い時間ですが一緒に頑張りたいと思っています。田所さんは違いますか?」


「いえ、その通りだけど……」


「だったら、しっかりと名前で呼んで下さい!」


「わかったのよ。じゃあ、オオバさんの世界には、沢山の」


「はい、ストップ!」


「なんなのよ?」


「まだ余所余所しいですよ」


「そうなの? じゃあ、どうするのよ!」


「名字じゃなくて、名前でお願いします」


「はぁ~。カズキさんの世界には、沢山の」


「ストッ~~プ!」


「何!」


「もう一声!」


「…………」


「はい、どうぞ」


「…………」


「カズキの世界には沢山の」


「田所さん!!」


オレは、右手を出して親指を力強くたてて微笑んだ…。


「話が進まないの~~~~~~!」

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