お地蔵様、さようなら
【おじいさんとおばあさんは、来年は良い年になるように祈りながら眠っていました。すると、外からドシーン!!と大きな音が聞こえてきました。何事かと思い、外に飛び出すと、沢山の食べ物やお金が置いてありました。こんなところになんであるのか?不思議に思っていると、離れていく7つの影が見えました。】
無事にズレを直し、お地蔵様の後ろについて歩いている。
衝突の衝撃は、雪がクッションになってくれたおかげであまり無かった。
「カズキ、覚えてろよ!」
列の先頭で、一蔵が文句を言っているのが聞こえる。
「みんな無事だったんだから良いじゃないですか。恩返しも無事に完了できたんですから。」
「そうですよ。お二人が居なかったら、間に合わなかったと思いますよ。」
「こんな大雪、はじめてでしたから…」
一蔵に対し、他のお地蔵様がみんなで窘めてくれている。
「あれは、おじいさんが笠を被せてあげたお地蔵様ですかね?」
「う~ん、どうじゃろか?」
「きっとそうですよ!ほら、一番後ろのお地蔵様……手拭いをかけてませんか?」
「確かに……いや、手拭いかの?あれは……」
手拭いが無かったので、パーカーの上から、タオルを被っているが、何とかごまかせた……かな?
おじいさん達は、雪の上だというのに膝をついて正座していく。
去っていくお地蔵様にお祈りをしている。
どうか、良い新年をお迎え下さい。
【お地蔵様にお祈りをすると、贈り物に目を奪われてしまいました。見たこともないような金銀財宝に、あんなに欲しかったお餅もあったのです。】
「カズキ、それから……田所さんとやら。不本意だが、お前達のおかげで無事に恩返しをすることが出来た。礼を言う。」
一蔵は、隊長としての立場を考え、しっかりとしたお礼の挨拶をしてくれているが……
きっと心からはお礼を言っていないだろうことはわかる。
「いいんだよ、一蔵。オレにはオレの事情があって手伝ったんだから。無理に仲良くなることはないからさ。」
少し離れた所では、六蔵と田所さんが抱き合っている。
他のお地蔵様も涙を流しているが、別れの涙だろうか?
それとも恩返しを終えたうれしい涙だろうか?
「そう言うなら、そうすることにする。お前達を認めはしないが、助けてもらったことにはいつか報いなければ、地蔵の名が廃ると言うもの。いつかだぞ!!まぁ、いつでもいいから、会いに来ると良い。待っていないがな。」
認めてくない自分と感謝している自分の間で争っているのかな?
わざわざ、偽物ですと伝えることもないので、それで良いと返事をする。
「カズキ、そろそろお別れなのよ。ストーリーも間もなく終わるのよ。」
田所さんは、お地蔵様との別れを済ませたのか、赤い目でこっちに戻ってきた。
「次にここに来られる保証はないのよ。だから、ちゃんと挨拶をしておくことをお勧めするのよ。」
やっぱり、簡単に戻ってくることは出来ないみたいだ。
一蔵以外のお地蔵様も周りに集まってきて、各々挨拶をしてくれている。
最後に五蔵と握手をして、終わりにしようとすると五蔵が手を離してくれない。
「どうした?五蔵。」
「隊長、このままでいいんでしょうか?」
「何だ?」
「私達は2人のおかげで恩返しを遂行できました。そのことに、弥勒様かどうかは関係ないですよね。」
「いいんだよ、五蔵。こっちが勝手に手伝ったんだから。」
「だったら、こっちも勝手にお礼をしても断れないですね!?」
「どうしたいんだ、五蔵。」
「田所さんが言うには、もしかしたら、もう会えないかもしれない、とのこと。形に残るもので、覚えていて欲しいと思うんだ。だから、これを……」
その手には、如意宝珠が乗っている。
「バカな!そんな大切な物を、どこの誰かわからない奴に……」
取り乱しそうになる一蔵は、更に驚く場面を目撃する。
他のお地蔵様全員ご宝珠をカズキに差し出していたからだ。
「隊長が、渡さないのは自由です。だから、オレ達も自由にさせて下さい。」
「そうですよ、隊長。五蔵の言うことに、間違いはありませんよ。もちろん、隊長の言うことにもです。」
「もしも、笠を被せてくれたのが、悪い奴だったとして、恩返しはしなかったんですか?」
最後の五蔵の言葉を聞いて、一蔵は、ハッとしている。
横で聞いていて、五蔵の言うことももっともだなと感心する。
「五蔵、ありがとう。でも、これは受け取れないよ。」
「そんなこと言わないで、受け取って下さい!!」
「五蔵達の言ってることもわかるけど、一蔵の言うことも正しいと思うよ。それに、こんなに沢山貰っても、使いこなせないよ。」
「ならば、1つだけでも!」
如意宝珠は、お地蔵様の手を離れオレの前で宙に浮いている。
6つも宝珠を貰っても持て余してしまうだろう。
1つ位なら貰ってもいいかな……
持っていたら、便利だろうとは思う。
貰うとしたら、どれがいいのかな?
6つの中から……
6つ?
いつの間にか、一蔵の宝珠も混ざっている。
「ふん!!」
本当に素直じゃないな。
「じゃあ、1つだけ……」
【喜んだ、2人はお地蔵様からの贈り物を大切に家に運びました。】
ゆっくりと周りから色が無くなっていき、静かな世界が広がっていく。
お地蔵様達は止まった時の中で、ただの石の塊になってしまったかのようだ。
「田所さん、これって……」
「無事にズレを直せたのよ。ストーリーも最後まで進んだから、最後の一文を読んで帰るだけなのよ。」
「そっか……桃太郎の時には、全然実感無かったけど、終わったんだね。」
「お疲れ様!!2人共、頑張ったね!!」
「橘さん!」
橘さんの明るい声が、静かな世界に響き渡る。
「一時はどうなるかと思ったけど、何とかなったね!」
「ありがとうございました。色々と助かりました。」
「いやいや、私もチームの一員ですから!!それより、田所とカズキは、だいぶ仲良くなったんじゃない?いつの間にか、カズキって呼んでるみたいだし!」
「そういえば、そうですね。」
いつからか……
う~ん、いつからだ?
「あの時は、咄嗟のことで、つい……カズキさん、ごめんなさい。」
そうだ!
ケンカの途中からそう呼んでいたと思い出す。
オレも気持ちが高ぶっていたから、気にもならなかった。
「わざわざ、戻さなくていいです。カズキでお願いしますって前から言ってますよ?」
「でも……」
「カズキがいいって言うんだから、いいんじゃない?いつまでもグジグジ言ってると、ケンカの後泣きついて来たことを言っちゃおっかな~!!」
「泣いてないのよ!!」
「何の話ですか?」
「カズキは、知らなくていいのよ!!」
しっぽをピンと立てたまま飛び上がり、オレによじ登って耳を塞いでくる。
オレが悪かった、あのケンカを田所さんも深く受け止めていてくれたと知り、うれしく思う。
ケンカのお陰で田所さんに近付けたのなら、悪くなかったのかもしれない。
「さぁ、帰るのよ。」
「これどうします?」
お地蔵様が託してくれた如意宝珠が宙に浮いたままになっている。
「もらっとけば?」
「橘さん、そんな簡単に……」
「気持ちだけじゃ伝わらないことだってあると思うよ!」
「…………」
「あっても、困るものじゃないしさ!男は、気持ちを受け取ってデッカクなるんだぜ!!」
おそらく、橘さんのオリジナルだろう格言だが……
たまには、良いこと言うじゃないですか。
「じゃあ、1つだけ……」
貰うなら、役に立ちそうな物がいい。
二蔵の毒の治療か六蔵の小判もいいかも……
オレが近づくと、1つの宝珠が輝きだし、腕時計めがけて飛び込んできた。
「うわぁ~!!ビックリした!!」
「じゃあ、早く戻ってきて。モモも待ちくたびれてるよ!」
「あの~、少しは心配して下さいよ!!」
「何よ!元気そうじゃない!」
「まぁ、良いですけど……」
時計を確認すると、話道具の欄に2つ目のアイコンが追加されている。
1つ目は、桃のマークで……
2つ目は、これは……餅?
「五蔵のお餅の宝珠を選んだのよ?きっといつか役にたつのよ。」
「ちゃんと見てました?オレが選んだんじゃないですよ!!」
「カズキ!!早く!!ってモモが怒ってるよ!?」
モモにも、早く会いたいなあ……
話道具はあとで確認するとして、早く帰りましょう!!
「田所さん、お願いします。」
「何言ってるのよ?来る時と同じようにカズキが最後を読み上げるのよ。」
「そういうものですか……じゃあ、いきます。」
話渡りは、話屋が『はじまりはじまり』『めでたしめでたし』を口にすることで実行される。
これは、移動の時に聞いていたが、同じ人物がするというのは初耳だった。
そういうことなら……
と、かさ地蔵の本を開いて、最後の一文を読み上げる。
これで、初仕事もおしまいか。
「2人は、無事に年を越して、幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。」
2人を光が包み、目を開けると目の前には、橘さんとモモがニコニコと迎えてくれていた。




