1.濃霧
処女作です。
目くじら立てずにお読みいただければ幸いです。
霧が深い。
5メートル先が見えないほど濃い霧が立ち込めているが、不思議と焦燥感や圧迫感がないこの状況。
「いったい、この霧は何なんだ? ついさっきまで快晴だったのに……」
ここは日本に数多あるサバイバルゲームのフィールドの一つ。
先日、グランドオープンしたばかりの屋外型サバイバルゲームフィールドの一つで、吊り橋あり櫓ありちょっとした斜面ありの立体的なフィールドだ。
セーフティーエリアを含めた敷地の総面積は東京ドーム2個分とかなり巨大で、森林エリアや砂漠エリア、インドアエリアに50メートルオーバーのシューティングレンジなど多彩なフィールドを擁し、女子専用の更衣室やトイレ、コインシャワーなどが用意されていることから、女性サバゲーマーからも人気のフィールドである。
今日はとある国内銃器雑誌主催の定例会であるため、100人以上のゲーマーが参加しているはずなのだが、人の声どころかエアガンの発射音すら聞こえない。
そんなことを気にしながら俺はフィールド内の斜面を登っていく。
少しでも高いところに行けばすぐに霧が晴れるのを信じて……
因みに俺の装備は、超リアルと言われている海外製電動ガンのSVDと国内製ガスブローバック型ハンドガンのCZ75に最近ウクライナ領土問題で親ロシア派民兵の一部が着用しているロシア軍装品メーカー迷彩服とボディアーマーにヘルメットという格好だ。
今日は久しぶりにAKMSからSVDに切り替えて移動型の狙撃兵に徹しようと思い気合を入れてゲームに臨んだのに、開始早々狙撃ポジションに移動中の所、突如発生したこの霧の中に迷い込んでしまった。
現在の時刻は午前10時過ぎ。
ゲーム開始からさほど時間は経っていないはずだが、何故だか感覚的には1時間くらい経過したような気がする。念のため海外の兵士達御用達の超頑丈な国産デジタル腕時計で時刻を確認する。
「午前10時5分か……って、5分しか経ってない!?」
うっそぉー!?
斜面を登る直前に見たときは確かに時計が午前10時5分を表示していたのを確認していたし、斜面を登り始めて体感で確実に10分以上は歩いているはずなのに……
(デジタル腕時計が動いてないだと!?)
普通電池切れならデジタル表示は消えるけど、電池はつい1ヶ月前に交換したばかりだから消えるはずないし、というか消えないでなぜ時刻が止まったままなのか?
しかも、GPSの表示も移動しているのに止まったままである。
念のため持っているルーマニア製の軍用コンパスも針がピタッと北を向いたまま傾けようが、逆さにしようが針は全く動かない。
(なんじゃこりゃ? メッチャ怖いんですけど!!)
よくよく耳を澄ませると、鳥の鳴き声さえも聞こえない。
(どうしよう!?
この広いフィールド内で遭難しちゃったのかな!? うわあ、格好悪い!!)
「敵さんに発見されるのを覚悟で大声で叫んでみるかな?」
まあ、もしかしたら敵さんもこの深い霧で迷っているかもしれないし、撃たれるといってもエアガンだから死ぬわけでもないので、ここは思い切って声を上げてみよう。
ということで、俺は思いっきり肺に空気を吸い込んであらん限りで声を張り上げてみた。
「おお~い!! 誰かいませんかー!?
すみませ~ん、ゲーム中ですけどこの霧で迷ってしまいましたぁ~!!」
……うん。
何となく予想していたけど、声が響かない……なんか、叫び声がこの霧に吸い込まれているような感じで全然響かない上に試しに非常用で持っていた災害用ホイッスルを吹いてみたけど、これもダメである。
「おお~い! 本当に誰が返事してくれー!?」
しかもこのサイレントヒルのような状況で俺はパニックに陥って涙と鼻水が出てくる始末だ。
「なんじゃ? うるさいのー。
そんな大声張り上げて、ただでさえ頭が痛いというのに、よけい痛むわい。
ちっとは、病人のことも考えんか。 ……ゲェホ、ゴホゴホ!」
(……え? だ、誰ですかあなたは?)
突如、目の前に現れたのは俺と同じサバゲーマーどころか、日本人ですらなかった。
膝裏まで届くかというような長く見事なストレートの銀髪と金色の目を持つ美女だったのだ……
頭の中のイメージを小説に起こすって難しいです。