気付けば檻の中
過剰なストーカー被害に合う、少女の話。
一応犯罪チックなので、観覧注意です。
相手の《××××》はご自由に名前を想像ください。
日中だというのにカーテンを閉め、一人の少女が暗い部屋の隅で蹲って泣いていた。
泣いても泣いても涙は止まらず、ただ服の袖をぐちゃぐちゃに汚す。
部屋に響くのは、少女が鼻を啜る音だけ。
少女は必死に口を押さえ、声を押し殺していた。
(このまま、呼吸が出来なくなって――――死んでしまいたい)
頭では死ぬ方法を考えられるが、実際に行動は出来ない。
頭では自身の心臓に包丁を突き立てられるが、実際に刺すことは出来ない。
理由は、少女は怖がっているから。
血の臭い、痛み、冷たくなっていく身体、死んだ後に何が待っているのか……少女は怖くて、頭で浮かんだ内容を実行出来なかった。
そして、今日も――――少女がここまで苦しむ《原因》が訪れる。
「……っ!!」
暗い部屋に、小さな光が点滅した。
少女はその光に気付き、顔を上げる。
小さな光を発している物……それが携帯だと理解した少女は、口を押さえていない方の手で携帯を手に取った。
ディスプレイには、《メール》の文字とその相手の名前《××××》が表示されている。
それを見た少女は口を押さえるのを止め、両手で携帯を握りしめて何度もディスプレイの文字を見返した。
どんなに見ても《××××》の文字は変わらない。
(違うッ!!!!届くはずがない!!!!何で、どうして!!?)
少女は恐怖のあまり、全身を震わせていた。
何故なら、このメールを送ってきた《××××》のメールが来ないように自分のアドレスを変更していたからだ。
勿論、変更後のアドレスを《××××》へ教えていない。
必死に心の中で否定をしながら、携帯を操作して《××××》から送られたメールを確認する。
そこには、たったの五文字しか書かれていたなかった。
『どうして?』
それだけだ。
しかし、そのたった五文字だけでも……少女にとっては恐怖そのもの。
震える手でメールを削除する。
同時に、再び携帯が《××××》のメールを受信して光った。
『どうしてアドレスを変えたの?
どうして俺に教えてくれなかったの?』
「だ、だって、それは……っ!!!!」
――――貴方が怖いから。
少女がそう叫ぼうとした時、また携帯が光る。
『理由なんて聞きたくない。
それより、俺を愛して? 俺を愛してよ、ねえ、ねえってば』
まるで少女と対話しているように、文章は的確に打たれていた。
それを見た少女は携帯を床に勢い良く投げ捨て、咄嗟に口を押さえる。
(……まさか……)
床に這い蹲り、少女は恐る恐るカーテンの前へ移動する。
そして、ほんの少しだけカーテンを開けた。
「っ、きゃあああああ!!??」
少女は悲鳴を上げ、もがく様にカーテンから離れた。
顔色が酷く、苦しそうに何度も咳き込む。
少女が見た物――――それは「目」。
大きく開かれた目が、こちらを見ていたのだ。
そして、その目こそ……《××××》だった。
(嫌、助けて……誰か……誰かっ!!!!)
外へ出れば、《××××》が少女を捕まえる。
助けを呼ぶ事も出来ない。
もしも警察へ連絡してしまったら、《××××》が窓を割って侵入してくる危険があるからだ。
そのせいで、少女はただ部屋の隅で震えることしか出来ない。
少女が飢えで死ぬか、《××××》が侵入してくるか。
果たして、どちらが先だろう。
【気づけば檻の中】
――気付けば、少女は《××××》の檻の中から抜け出す事は不可能だった――