探検1
うるせぇ。なんかうるせぇ。
せっかくの夏休み初日。俺はもっとゆっくり寝ていたいのにインターホンとドアノックの音が止まない。くそ、忌々しい。
降参だ、といわんばかりに重たい体を起こして玄関に向かった。ドアの施錠を外すと勢いよくドアがあいた。
「おっはよーさーーん!」
一美だった。
「なんの真似だ」
今日初めて発する言葉を一美にかけた。
「いやー、昨日実と一緒に話し合って、奏がユートピアのことなにも知らないっていうなら探検会でもしようかなーって思ってさ」
うれしいんだか余計なお世話なんだかよくわからなくなっていた。なんせ俺の寝起きは最悪極まりないからな。
「だったら昨日電話とかしてくれればいいのに、ふわ〜〜っ」
あくびが出てきやがった。まだ眠いんだろうか。それにしても、今日も一段と暑いな。日本はいつから灼熱釜となってしまったのだろうか。いや、ここは日本ではないのか。んなもんどうでもいいわ!
「奏ん家の電話番号わかんなくてさー、そういうことだから、ね!行こう!」
そういうことってどういうことだ。
まあせっかくの善意を踏みにじるわけにもいかないだろ。おれは渋々一美に「あと十分待っててくれ」といい、再び部屋に戻って支度をした。
顔をソッコーで洗って、歯を磨き、なぜかある私服を適当に選び、ソッコーの二乗くらいのソッコーで着替えた。
「スマン、待たせたな」
八分足らずで支度した俺は彼女たちに軽く謝った。そう。一美だけではなかった。正確にいうと、一美と実だけではなかった。その横に二人の女の子が立っていたのだ。また新たな登場人物か、と心の中で思い、正直に二人の女の子に言った。
「一美と実から話は聞いてるか?そのー、俺はお前らの知ってる俺じゃないんだ。外見は同じかもしれないけど、中身が違うっていうかその…」
説明しずらいこと極まりない。おれがオドオドしていると、初登場の一人が黙ってられなかったのか、横槍をいれてきた。
「たく、なにオドオドしてるの?ほんっと奏はダメダメね。別に言わなくてもカズミンとミノリンから聞いてるからいいわよ」
うお、なんてことだ。今度はツンデレキャラか?いやでもまだツンしか観測されていない。しかしきっとデレもこれから出てくるに違いない。
おっと、なにを想像してるんだ俺は。
自分を情けなく思っていると、そのツンデレ見込み有り女が気を利かせてくれたのか、自己紹介をはじめてくれた。
「今更って感じもするけど、まあいいわ。私は石突遠麻。そしてこっちの子が……」
といって自分の後ろにいる少女をひっぱりだしてきた。その少女は落ち着きがなく、俺と目が合うと頬を朱に染めて目をそらしている。身長は四人の中で一番小さくて、髪はロング。ロリコンにはたまらなそうだ。
一人で考察をしていると、ようやくロリな彼女が口を開いた。
「え、えーっと… その……わ、わたしは里子。か、柿谷里子です。」
と、オドオドしながら律儀に挨拶してくれた。つい先日までは普通に会話していたんだろうなー。すんません、手間かけさせて。
「なんか悪いな。こんなことのためにわざわざ家まで来てもらっちゃってさ。なんなら、家まで送るぜ。」
我ながら紳士的だな、と自己満足していると一美が待ったをかけてきた。
「いやいや、奏。彼女たちも一緒に探検するんだよー!ちなみになんか勘違いしてるようだけど、彼女たちもあたしたちと同じ、パーソン高校の一年生だからね。」
いや、なんとなくわかってはいたさ。彼女たちも支度はしているし、遠麻とやらの口のききかたからしても、どうみたって同級生を相手にした喋り方だしな。
「じゃあそろそろ行こっか!」
という実の合図に、他三名は満面の笑みで首肯している。おい、そこのお前。もしお前が男なら俺の気持ちがよーーく分かるはずだ。こんな素晴らしい光景を目の当たりにしたら悶絶間違いなしってことをな。考えてみろ、絶世の美女四人が貧困生活に悩む民を救えるほどの笑みを×4も俺に与えてくれているんだぞ。失神もんだ。
「そうだな。ご好意に甘えますよ。」
素直に認めるのは嫌だったのでなくなく行くことになった、ってことにしておこう。
里子はというと、一人笑いながらまだ顔を赤く染めていた。そんな緊張してたのか、あいつ。
「んで、どこにいくんだ?」
俺は四人に聞いた。すると実が、
「えーっとねー……どこだっけ一美?」
おいおい、実は知らんのかい。まあいい、一美さあ教えてくれ。
「んーっと……決まってません!」
そんな堂々と言い切るなよ!別に誇れることでもねーよ、むしろ恥じろ。
「おいおい、本当に大丈夫なのか?心配だらけだぜ、全く。」
「へーきへーきー。ユートピアについては私たちが一番くわしいんだから。奏は大船に乗ったつもりでついてきな!」
大船ったってな。作りが脆くて小船以下の能力しか発揮しないのじゃ意味ないぞ。
「奏、あんたねー。あたしたちをなんだと思ってるの??」
人間。
「そりゃあそーよ!そういうことじゃなくて、あたしたちはこのユートピアで生まれてユートピアで育ってるのよ。これがどういうことだかわかる?」
さっぱりわからん。
「つまりね、このユートピアはあたしたちの庭みたいなものなの!あんたのそのトサカ頭にいれておきな」
だれがトサカ頭だ。うるせぇ。
「わかった。わかったから落ち着け、とにかく最初に行くところくらいはここで決めておこうぜ」
そうね、といって一美は腹立たしいくらいに澄み渡った空を見上げた。もうちょい曇ってたらこの尋常なまでの暑さも少しは和らいだだろうよ。
「まずはロベリア山に行きましょう」
凄そうな山だな。名前は。
そういうと、一美を筆頭に遠麻、里子、実の順番で下を目指して階段を降りていった。
俺は自宅のドアに施錠して、愉快な四人集を追った。
アパートの最下部まで降りると女子四人組は自転車に乗っていた。ありかよそんなの。俺は自転車なんて持ってないぞ……いや、まて。2日前以前の俺は自転車を所持していたかもしれない、と僅かな願いを込めていると、遠麻が笑いながら俺の目を覚ます言葉を発した。
「奏は自転車持ってないでしょ」
あぁ、わかってはいたさ。なんとなくそんな気がしたからな。
「じゃあ俺には走れっていうのか?自慢ではないがな、俺は持久走はちょー苦手なんだ」
一応保険をかけておく。出来ますって言って出来ないよりは、出来ないって言って出来ないほうが何倍もマシだからな。
「“持久走は”じゃなくて“持久走も”でしょ」
くそ、遠麻のやろう、可愛い顔してるくせになんでそんな酷い言葉がポンポンと出てくるんだ。イメージ台無しじゃねーか。
と、人間に振り分けられたパラメータ配分の正確さに感心しつつ、俺は渋々四人集の後をついて行こうとした時、
「私のと二人乗りする?」
と実が声をかけてくれた。それは天使の囁きにも聞こえた。
「え、いいのか?俺重いぜ」
「え、あ、私は運転できないよぉ。乗るとしたら奏くんが前ね」
俺としたことが。女の子に重労働を課して、自分だけのうのうと風に吹かれて気持ち良くなろうなんて考えたなんて。最悪だ。
「あぁそうだよな、じゃあ俺が前に乗るわ。本当にいいのか?」
うん。と実は答えたので俺は遠慮なく自転車に乗らせてもらうことにした。後ろに女の子を乗せて自転車走行できるなんて幸せものだな、俺は。
待たせてた一美たちに礼の一つでも言おうとして彼女たちの顔を見ると、なんだか浮かない顔をしていた。
「どうした?暑すぎて行く気が失せたのか?」
「う、ううん。なんでもない。ね、皆。じゃあ行こっか」
変なやつだな一美は。
すると後ろに乗っている実の手が俺の服を掴み、ギュっと力いっぱい握りしめた。
後ろを振り向くことがなぜかできなかった。
あまり追求しないでくれ。俺にもわからなかった。
ロベリア山を目指して俺は必死にペダルをこいだ。




