幻
それにしてもリアルだ。
なんて事を上辺で考えながら、俺はグラウンド端のベンチに腰を下ろし、野球の試合を観戦していた。言われてみれば、ここは高校だ。だが、現実での俺が通っている高校よりもはるかに綺麗な校舎で、はるかに大きなグラウンドである。やはり夢だからスケールもスペクタクルも上等なものだな。
よく見渡すと、これは学校対抗野球大会らしい。スコアボードには、1-2やら3-5などといった学年と組を表す表記がされているしな。
と考察していると実さんとやらが歩み寄ってきた。
「けがはだいじょーぶ?」
「ああ、もう平気だよ」
優しい子だ。こんなマヌケな俺の気遣いをしてくれるなんて。
「それより、試合にいかなくていいのか?」
「うん、さっきの試合に負けちゃってもう出番はないんだ、わたしたちのクラスは」
どうやら俺の夢は中途半端なところからはじまっているらしい。実さんの話によると、前日の試合で全敗、今日の試合も全敗、という無惨な結果だったらしい。俺の所属してるクラスっていったい…。
といった感じに実さんとの対話を堪能していると、
「あ、一美が来たよ、おーい!」
とグラウンドの奥の方から走ってくる女の子に手を振っている。一美?そんな登場人物までいるのか、この夢は。
全速力で走って来た女の子は一美さんというらしく、俺と同じクラスの子らしい。なぜわかったのかと気になると思うが、理由は簡単。ユニフォームの学年クラスが一致したからである。1-6、そう書いてある。
その一美さんとやらはロングヘアーがとても似合っている方だった。
「奏、バカみたいに転んだんだってー?あたしも見たかったわー」
むむ、こういうキャラの設定なのか。ちょっと目上の人、大まかにいえば……姉。
「あ、あぁまあね、一美さ……お、お前は見てなかったのか?」
あぶねぇ。きっと一美さんなんて呼び方してないよなこの雰囲気的に。
「うん、まあね、実行委員だし。なんてったってマネージャーだからね、あたしは」
「あ、あぁそうだったな」
強い風が吹いた。それは突然。もちろん、感覚がしっかり伝わってきた。
「遠麻と里子はまだきてないのかー、あいつらチアだったわよね?」
一美さんが少しイライラしてるようだ。
「う、うん。もう少し待とっか」
実さんが嵐を沈めようと励んでくれている。
じつは俺は少し不安だった。
長すぎやしないか、夢といったってさすがに長すぎる。しかもどことなくリアルだし、感覚もある。よくよく考えたらおかしいぞ。
夢というものでは痛覚というものは、
断じていう。
決して味わうことはない。
俺は恐る恐る、自分の頬をつねってみた。
横では実さんと一美さんが談笑していた。