夢
誰かの声がする。かすかにだが確かに聞こえるその声は女の子のものだと俺は一瞬で気づき、目を開けた。
俺の視界には大空が広がっていた。
カキーンとかパスッとかいう音が鳴り響いていて、朦朧とした意識で首を傾けると、野球の試合が行われていた。しかしここはどこだ?見覚えのないグラウンドだった。そして自分の姿をみると、なぜか野球のユニフォームを着衣している。
俺は見知らぬグラウンドで野球の試合を行っていたのだ。
あぁ、夢かこりゃ。にしてもリアルな夢だな。風に当たる感触もあるし、土の香りもする。こんなに意識がハッキリとしているのもなんかおかしい。
と、俺は自分の置かれた状況を確認しようとしていたら、俺の側には一人の女の子がいた。
「奏くん、だいじょーぶ?」
あの声の主だ。にしてもなかなかの美人だ。三十分はジッと見てられそうなくらい。
っていうか奏くんって俺の事だよな。なんで俺の名前しってるんだ?親戚の子か?
あぁ、夢だからか。なんでもありだしな、ここは。
俺は彼女の言葉を思い出し、返答した。
「えーっと……大丈夫だけど、なんで俺倒れてたのかな?」
あははは、とヘラヘラしながら聞くと彼女は
「フライが上がって、奏くんがボールを取ろうとしたらつまずいて後頭部を強打したんだよ。覚えてない?」
「あ、あぁ、そうだったな、ははは」
そんなマヌケな事をしたのかと恥らい、彼女にとって奇妙な質問をまたした。
「あとさ、ここどこだっけ?」
「えー?それも覚えてないの?保健室いく?」
「いやいや、至って正常だよ、ただ少し忘れちゃってさ」
「そっか、えーっと、ここは実や奏くんの高校である協立パーソン高校だよーー」
だいぶ凝った話だ。そんなしっかりとした設定がある夢なんて初めてだ。
大抵は一定のところまでいくと死んで終わりっていうお決まりのオチなのだが、そんな雰囲気がしない。やはりおかしい。
「あぁ、そうだったな、ハハ」
それより、この子は実というのか。是非、夢が終わったあとも覚えておこう。
俺は呑気だった。そりゃそーさ、誰だってこんな状況になったら夢だと思うだろ。
だがしかし、これはこれから始まる話を夢で片付けてしまっていいのか後にも先にも誰にもわからない出来事の前兆だった。
ホラー系ではないからな。