8:異世界滞在2日目-3
空気を読む旅行者。の巻
ドアから姿を見せたのは、茶色の髪と明るい緑色の瞳をした私と同年代くらいの男の子だった。
「こんにちはライナス。ノアはいる?」
「いらっしゃいませ殿下。もしやそちらはミオ様ですね?」
「そうよ。ミオ、こちらはライナス。ノアの執事をしているの」
「初めまして、ミオです。ん?ノアさんの執事・・・ここって」
「そうよ、ノアの部屋。大概ここでこもって仕事をしているわね」
「アニー・・・私に一番案内したい場所ってノアさんの部屋?なんで?」
「だって、これからガイドしてもらうんだから知っておいたほうがいいじゃないの。それにライナスのいれるお茶は美味しいわよ」
「そうですよ。ノア様がいなくてもお茶を飲みにいらしてくださいね」
いやいやいや、それはダメだろう。私がどう断ろうか考えていると、奥にあるドアが開いた。
「ライナス、誰が来たのか・・・アニー、それにミオか」
今日もノアさんは無表情だ。少しだけ驚いているように見えるけど・・・うーん、わかんない。
「ごきげんようノア。今日はミオに王宮を案内してまわっているのよ。ノアの部屋が最後」
「私の部屋は観光名所ではない」
「ノア様。仕事はもう終わったじゃないですか~。そんなに無愛想じゃ、ミオ様に嫌われちゃいますよ?」
げっ、なぜそこで私に振るんだライナスさん。ノアさんがこっちを見てるじゃないか!!アニーまで興味津々の顔でこっち見てるしっ。
「え・・・いや、私、ノアさんのことよく知らないから嫌いもなにも・・・」
嫌いになるのだって、まずその人のことを知らないといけないって思うんだけど。
「ノア様、嫌われてはいないようですよ。よかったですねえ!!」
「・・・ライナス、茶と菓子を。ミオは果物の入ったケーキが好きだ」
「かしこまりました」
ライナスさんは満面の笑みを浮かべて部屋を出て行った。それにしても、どうしてノアさんは私がフルーツの入ったケーキが好きだって分かったのだろう。
私がノアさんのほうを見ると、アニーもノアさんのほうを見ていた。
その視線に気づいたのか、ノアさんが済ました顔(だと思われる)で口を開いた。
「ミオは昨日、すごい集中力でケーキを食べていたではないか。それも幸せそうな顔をしてな。昨日のケーキは何か果物が入っていたから、そこから推測したのだが間違っていたか?」
すごい集中力って・・・あれはノアさんの視線がいたたまれなくてケーキに逃げてただけよっ!!・・・って本人に言いたいっ!!確かに「王国のスイーツレベルすげー」と感動もしてたけどさっ。
「ミオのことよく見てるわねえ~」
「これからガイドをする相手だ。人となりを知るには観察も必要だからな」
どうも、ノアさん人のこと小動物っぽく思ってないか?
ライナスさんがお茶を用意してくれて、お菓子も並べてくれる。今日のケーキは洋梨のパイだ。
「それで。明日はどのような予定になっている?午後は何か希望があるのか」
「明日から午前中にオディロンさんにこの国の文字を教わる予定です。午後は特にどこに行きたいのかと聞かれても、私はよく分からないので」
「そうだったな。ところで」
「はい?」
「私に対しても、アニーに同じように気楽な態度で話すように。呼び捨てにするのはできるようになったのだろう?だったら話し言葉も変えてみろ」
「えー!それは無理・・・」
「最初から無理と決め付けるのは好かないな」
言動は面白がってる風に聞こえるのに表情は眉毛一つも動かさない。それでも“逆らわないよな”という空気は感じる私であった。
読了ありがとうございました。
誤字脱字、言葉使いの間違いなどがありましたら、お知らせください。
ちょっと感想でも書いちゃおうかなと思ったら、ぜひ書いていただけるとうれしいです!!
やっとノアが登場です。
ついでに新しい登場人物も。