6:異世界滞在2日目-1
王国の朝。の巻
朝、持ってきたスーツケースを開けて悩む。
この国は、設備は私みたいな便利さに慣れきった人間でも充分馴染めるようになっているのに(昨日の夕食時に教えてもらった話ではオディロンさんとアニーが中心となって改善した結果だそうだ)、服装だけはヴィクトリア朝なのだ。
昨日の私の服は、チェックのワンピにロールアップデニム、バレエシューズ。
旅行中、ちゃんとしたディナーにも1回くらいは行くだろうとシフォンのワンピースとボレロは持ってきたけど、それすらも膝丈。他もカジュアルで洗えるものばかり。
「うーん・・・・どれもこれも浮くなあ」
だけど、持って来たのを着るしかない。着替えを終えた頃、ノックの後のドア越しに「ミオ様、起きていらっしゃいますか?」とアイノさんの声がした。
「朝食をお持ちしました。」
「ありがとうございます。」
アイノさんがテーブルに並べてくれた朝食は、カゴに盛られた数種類のパンに、いい香りのするスープ、フルーツ。ティーポットと水のはいったピッチャー。
「ご用意できましたので、お召し上がりください・・・・ミオ様、何をなさっていたのですか?」
朝食の準備を終えたアイノさんが、ベッドのうえに広げられた服に目を留めた。
「ここの人たちは皆、すごくきっちりとした服装をしてるでしょう。持ってきている服だと浮くなあと思って」
「ミオ様。まずは2週間の予定でいらしてるのですから気になさらなくて大丈夫ですわ。それに、ミオ様の服はとても動きやすそうで羨ましいです」
「まずは・・・?」
私は思わず首をかしげる。2週間以上はいる予定はありませんが。
「し、失礼いたしました。朝食が冷めてしまいますのでどうぞ。食べ終わりましたら、ベッドの脇にある紐を引っ張ってください」
アイノさんはちょっと焦った様子で、私に紐のことを教えると頭を下げて出て行った。どうやら、私が謎に思っていたベッド脇の紐はメイドさんを呼ぶためのものらしい。
アイノさんの態度は気になるけど・・・・まあいいか、お腹すいたし。
カットソーとロングスカートで身支度を整えた頃、ヘルガさんが顔を見せた。
「おはようございます、ミオ様」
「おはようございます、ヘルガさん」
「アニー様が、朝早く申し訳ないが執務室に来てほしいとのことです。一緒に来ていただけますか?」
「わかりました」
ヘルガさんはアニーの秘書で、あずき色の髪の毛と瞳の持ち主だ。体型にフィットしたメンズ仕立てのジャケットにロングスカート姿がよく似合っている。
「昨日はよく眠れましたか」
「はあ・・・でも、何だかいろいろありすぎて」
「環境が激変しましたからね。ですが、こちらでの生活を楽しんでいただけると嬉しいです」
そう言うとにっこり笑う。ヘルガさんって、とっつきにくい感じだったけど笑うと印象が変わる。
執務室に入ると、アニーが書類を書く手を止めて顔を上げた。
「おはようミオ。よく眠れて?」
「うーん、何とかね。でもさ、なんか怠け者になってしまいそうで」
「どうして?」
「アイノさんがとてもよくしてくれて・・・ありがとね、アニー」
「ふふっ。この際だからそういう生活を楽しめばいいのよ。ところで、観光は午後からでしょう?午前中はどうするの?」
「あ!私オディロンさんに聞きたいことがあるんだ」
「じゃあ、先生を呼ぶわね。ここでいい?」
「いいけど、仕事の邪魔じゃない?」
「全然。これさえ終われば自由時間だもん。だから、ここで待っててくれる?」
そう言うと、アニーはヘルガさんにオディロンさんを呼ぶように頼んでくれた。
アニーの仕事が終わり、ヘルガさんが書類を受け取って部屋を出て行く。
「ねえねえミオ」
「なに?」
「昨日紹介した、ノアってどう思った?」
「どうって・・・・うーん・・・顔が怖い?それから俺様?・・・あ、ごめん」
アニーは私の返答に苦笑しながらも、うんうんとうなずいた。
「そうよね~。ノアって言動もあれだし無表情だから。あだ名が“顔無し公爵”だし。」
一瞬、あの映画のキャラクターを思い出して吹き出す。いや~、まさかのあれ??
アニーも一緒にあの映画をみたので、私の考えてることがわかったらしく「い、いやあれをイメージしたわけじゃないの。無表情だから顔が無いってことよ?」と言いつつ、笑いをこらえている。
そっか。あの映画、こっちでは見られるわけないものね。
「でもアニーと仲がいい従兄なんでしょう?それなら悪い人じゃないよね」
「ああ見えて、根は優しいのよ・・・分かりづらいだけで」
そのあと、二人して顔を見合わせて笑い出したら止まらなくなってしまった。
ヘルガさんがオディロンさんを伴って入ってきたときも笑いが止まらず、「どうなさったのですか?!」とヘルガさんを焦らせてしまった。
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