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番外編6:よき日

 今日はノアとミオの結婚式だ。私とカールは式に出席するために公爵家本邸を訪れた。ここに来るのは何年ぶりかしら。


 新婦の控え室に顔を出すと、椅子に座っていたミオが私をみてパッと笑顔になる。

「ミオ、おめでとう!!」

「アニー、忙しいのに来てくれてありがとう」

「親友の結婚式なんだから当たり前じゃないの。もしかして緊張してる?」

「そりゃするよ~」

「ふふ、そのドレスよく似合ってる。ノアには見せたの?」

  ミオのドレスは真っ白なコットンリネンのスクエアネックで五分袖、ウエスト切替のベルト、すそに細かい刺繍がほどこされ、後ろ部分は流れるようにすそが広がったデザインだ。髪の毛には薄い青色の花を飾っている。

「お義母様が“当日まで内緒にして反応みましょうよ”って言い出して、私も面白そうだからのってみたの。だからノアだけはドレスを見てないんだよね」

 あー・・・なんか叔母様なら言いそうな気がする。

「・・・この姿、おばあさまにも見せたかったね。ミオ」

「うん。おばあちゃん、私の花嫁姿見たいねえって言ってたから・・・でも、今日ここに位牌を持ってきてるからさ、きっと見てるよ」

 テーブルの上には、かつてのミオの部屋にあったイハイが4つ置いてある。そうだね、きっと見てる。私もこの国でミオが幸せな人生を送れるように手助けするから安心してくださいって心の中でそっと伝えてみた。

「そういえばアニー、カールさんと一緒に来たんでしょ?なんで別行動なの?」

「ノアより先にミオのドレス姿をカールが見たなんて知ったら、あの無表情がさらに冷気を漂わすわよ。そしたらカールが気の毒でしょうが。これからノアのところで合流する予定なの」

「何よそれ~」

「花嫁が大口あけて笑わないの。じゃあ、私これからノアのところに行くわね」

「はーい、またあとでね」

 ミオはすっかりリラックスした様子で手をふった。よかった、ちょっとでも緊張がほぐれたみたい。


 ノアの部屋に行くと、カールとライナスをまじえて3人でなにやら話していた。

「3人で何を話しているのよ」

「アニー殿下!!もういらしたんですか」

「ちょっと、何その言い方。ライナス、どういう意味」

「アニー、緊張してるノアをからかっていただけ」

 カールが私の肩をポンとたたく。

 ノアのほうを見ると無表情なのは変わらないんだけど、確かにいつもより表情が硬い。

「ノアお兄様、もっとリラックスしないと顔が怖いわよ」

「・・・・私はいつもこんな顔なんだ。アニーはミオのところにはもう行ったのか」

「ミオ、きれいだったわよ。お兄様が緊張しちゃうとミオも釣られちゃうんだから、ほら笑って笑って」

「笑う・・・そうだな」

「アニー、ノアが笑うと周囲の人間が驚いて固まってしまうぞ」

「そうですよ、アニー殿下。カール様のおっしゃるとおりです」

「2人とも黙れ」

 カールとライナスのからかいにぴしっと言い返せるんだから、まあ大丈夫か。ちょうどロデリックが時間を告げにきたので、私とカールは会場のほうに向かうことにした。ライナスはこのままロデリックを手伝うことになっているそうだ。


 我が国の結婚式は、基本的に新郎の家で王宮から出される結婚許可書にサインをし、互いの家にある“家族の書”といわれる系図の書かれた本に名前を書く。ミオの場合は実家がここではないので、クロンヴァール公爵家の本にだけ名前を書き込むことになる。

 それを当主から任命された“確定人”が確認をし(多くは新郎か新婦の身内)、挙式後に速やかに王宮へ提出。受理されると夫婦として認められる。

 たいがいの式は王宮の者が“見届け人”として挙式に来ていて、その場で受理する。今回は私がその役目を担うと立候補したので、けっこう責任重大だ。

 ノアはミオのドレス姿を見て、一瞬驚いた顔をしたもののすぐに立ち直り堂々とミオを出迎え、エスコートして確定人が待つ場所に歩いてきた。

「・・・思ったよりノアが動揺しないわね」

 隣に立っている叔母様の言動に思わず吹き出しそうになるが、なんとか我慢をした。その後も粛々と式は進み、私も無事に見届け人としての役割を果たすことができた。



 結婚披露パーティーが始まり、私とカールはのんびりとその様子を眺めていた。今日の主役の新郎新婦は楽しそうにダンスを踊っている。ミオったら“ダンスのレッスンがきつすぎる”とぼやいていたけど、なかなか踊れているじゃない。

「アニー」

「なに?カール」

「ノアに言われた。“前例がないと言われたなら、お前が前例になればいいだろう”って」

「えっ」

 以前のノアなら私たちのことは見守っているだけで何も言わなかったのに。

「アルベルト様やシャンテル様にも応援されてしまったよ。だからアニー、俺は今年中に絶対両親を説得する。応援してくれる?」

「カール・・・もちろん、応援するに決まってる」

 親友のよき日は、私にとってもよき日への一歩になりそうな予感がした。

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