番外編5:チョコケーキをもらった日
はやいもので、王国で暮らし始めて1年がたとうとしている。普段はセルマさんの店で働き、月に何度かノアと私が普段住んでいる王都の邸宅にシャンテル様が来てくれて、この世界のマナーやしきたりを教わっている。
「うううう~ん」
私は庭園のすみっこにあるベンチで思いっきり伸びをした。ノアは“本邸に比べるとここの庭は狭い”と言っていたけれど、庶民の私からすると門から屋敷まで整備された道があるってのは充分広い。
どうやらノアの感覚では狭いらしい・・・こればっかりは生まれた環境だよね。
周囲は高い壁に囲まれ、さらに樹木が植えられてとても静かだ。本邸ほどの規模ではないそうだけど、植物好きの家ゆえに植物園と当主専用実験部屋がある。
そこはアルベルト様(先代公爵・ノアの父親)が来るとたちまち妙な薬の製造場所になる。
「あ~・・・なんか肩がこる・・・・」
周囲を見渡すと誰もいないので、背中を思いっきりそらしたり、腕や腰を回したりしてみる。あ~、体がほぐれる~。ラ○オ体操、あなどれないな。さらにウェストをひねっていると、声をかけられた。
「ミオ、何やってる」
「あれ、ノア?今日は早いんだね」
「まあな。で、何だその珍妙な動きは」
「ちょっとーそれは失礼だよ。これは私の国では夏休みの早朝の定番で、なおかつ健康体操としても注目のラ○オ体操ってやつなんだから。こうやって体を動かすと結構気持ちいいんだよ」
「それは興味深いな。ところで、ミオこれを受け取ってくれないか」
ノアが差し出したのは、きれいに包装された10センチくらいの四角い箱。私は箱を受け取って箱を開けると中にはシンプルなチョコレートケーキが入っていて板チョコのプレートに文字が・・・・
“私と結婚してくれないか?”って。え、えええっ!
「ノ、ノア。こ、これ・・・・」
びっくりしてノアを見上げると、少しだけ表情をゆるませて顔を赤らめたノアがいた。少しだけ笑って、今度は私の手をとると跪いた。
「ミオ」
「は、はい」
なんかノアさんを見下ろすのってすごく・・・緊張する。どうしよう、震えてきちゃう。
「私と結婚してくれないか?もっとも、返事は“はい”しか受け付けないが」
「ノア・・・・私が“いいえ”って言うと思ってないの?」
「そんなことミオが言うわけがない。ほら、返事をしてくれないか?言葉にするのが難しいなら、私に抱きついてくれてもいいぞ」
その自信たっぷりな態度すらムッとするどころか可愛く思えてしまう。
「はい・・・よろしくお願いします」
私が返事をすると、ノアが立ち上がっていつもの見上げる目線なる。腕を伸ばすとぎゅっと抱きしめてくれる。力強い腕。
「よかった。ミオ、一緒に幸せになろう」
「私、もう一人じゃないんだね」
「当たり前だ。私がミオを一人にするわけがないだろう?」
「うん、そうだね・・・」
なんだか涙が出てきちゃって、私はそのままノアの胸に顔をうずめた。
「どうしましょう、大旦那様・・・とっても出づらいのですが。でも王宮も急ぎらしくて・・・ノア様に言ったら確実に冷気漂わせますよね」
「ライナス、お前は馬に蹴られたいのか?私はそんな目に合うのは嫌だぞ。それにしても息子が女性にプロポーズする場面を生きてるうちに見ようとはなあ・・・ライナス、とりあえずシャンテルに知らせて来なさい」
「恐れながら、まずは王宮のほうが先かと」
「しょうがないな。それは私が当主代理で行くことにしよう。今ちょうど“究極の惚れ薬”を開発していたのだが、しょうがない」
「大旦那様。お言葉ですがいくつめの“究極”でしょうか。私の覚えてるだけでざっと10はあるかと」
「・・・お前はますますロデリック化してくるね、ライナス」
「親子ですから」
私たちのすぐ近くで、アルベルト様とライナスさんがそんなやりとりをしているなんて全然気づいていなかった。




