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番外編3:最初のダンスはあなたと。 

ノアの両親のなれそめ。



 私はシャンテル・ファルゲート、15歳。この国の王女だ。初めて参加する夜会に備えて、何かと忙しい日々を送っている。

 休憩時間くらいは好きな場所で過ごしたくて、庭園のすみっこにあるこの大きな木の上にいる。どっしりとしたすわり心地のいい幹の部分に寄りかかって、風の気持ちよさに目を細める時間は最高だ。


「相変わらず、木登りがお好きのようですね」

 誰だと下を見ると、ブロンドの髪を後ろで一まとめに束ねたチョコレート色の瞳の持ち主がこちらを見上げて微笑んでいた。

「・・・ごきげんよう、アルベルト様」

 アルベルト・クロンヴァール様はクロンヴァール公爵家の嫡男で、兄と一番親しい友人だ。

 小さい頃からクロンヴァール公爵様に連れられて王宮に出入しているので、私とも顔見知りだ。確か、兄と同じ年齢だから21歳のはず。

「シャンテル殿下、一人で降りられますか?」

「当たり前です。わたくしは15歳で、5歳の頃とは違います」

「そうですか。では私は反対側の幹に寄りかかって本を読んでいますので、どうぞ降りてください」

 そういうと、アルベルト様は幹の反対側に回ると、根元に腰掛けて持っていた本を読み始めた。私はするすると降りると、本を読んでいるアルベルト様の隣に座った。

「アルベルト様、何を読んでいらっしゃるの?」

「薬草学の本ですよ。この本は実に面白い」

 アルベルト様はそれだけ言うと、私のことなど眼中にないみたいで本に没頭している。

 公爵家は本業が薬草・穀物の栽培、研究で、その関連で王宮で薬師部の管理を任されている。当主は代々植物・穀物好きが多い。

 もちろん次期当主のアルベルト様もその例に漏れず、相当な植物(特に薬草)好きで趣味でいろんな薬を作っていると兄から聞いたことがある。

 まったく・・・私以外の女性だったら絶対怒ってると思う。なぜ私は腹が立たないのかといえば、余計なことを聞かないアルベルト様の側はとても居心地がいいからだ。

 もうちょっとここでのんびりしようかなあ・・・そう思っていると、アルベルト様がふいに立ち上がった。

「私はそろそろ行きます。ほら、女官たちが殿下を探しに来ましたよ」

 アルベルト様は一礼すると、スタスタと歩いていってしまった。


「待って、アルベルト様!!」

 私は思わずアルベルト様を追いかけて、服のすそをつかんだ。

「どうしたんですか殿下?」

 いつも冷静なアルベルト様が少しだけ驚いた顔になる。

「・・・アルベルト様は、こ、今度の夜会に出席しますか?」

「そういえば招待状が来ていたなあ・・・まあ、面倒なので欠席の返事を出す予定ですが。では」

 立ち去りかけたアルベルト様に対して私はまたすそをつかんだ。

「だ、だめです!!夜会の欠席は認めませんわ!!わたくしはアルベルト様に夜会に出席してほしいのです」

 私の必死な様子が伝わったのか、アルベルト様が驚いた顔から優しい顔になった。

「殿下、落ち着いてください。私が夜会に出席しなければいけない理由を教えていただけますか?」

 そう聞かれて、私は特に理由を考えてないことに気がつく。でもアルベルト様には出席してほしい・・・だからふと思いついた理由を口にした。

「今度の夜会は、わたくしが初めて出席する夜会です。そこで、最初と最後のダンスをわたくしと踊ってほしいのです」

「・・・私とですか?殿下、私はたしなみということでダンスを習いはしましたが、踊ったのは片手で数えられるくらいなので遠慮しま・・・」

「知らない人といきなり踊るなんて嫌です。アルベルト様、お願いっ」

「殿下は私にとっても妹のようなものですからね。わかりました、私でよければ」

 アルベルト様がやれやれといった感じだけど、了承してくれた。それだけで心が躍る。



 アルベルト様は片手で数えるくらいしか踊っていないと言っていたけれど、私の足を踏むことなく夜会を終えた。

 夜会に顔を出さない彼が出席したことは周囲を驚かせたようだけど、珍しいものが見られたと歓迎されたようだった。

 数日後、お気に入りの木がある場所に行くと、根元に腰掛けてアルベルト様が本を読んでいた。

「ごきげんよう、アルベルト様。また薬草学の本を読んでいらっしゃるの?」

「こんにちは殿下。ええ。最近忙しくて読めていなかったので」

「アルベルト様。夜会に出席してくれてありがとうございました。ふふっ、とても片手で数えられるくらいとは思えませんでした」

「殿下も堂々とした振る舞いでした。私が相手でなくても大丈夫だったのでは?」

 私はその発言にちょっとムッとしてしまう。アルベルト様にそんなこと言われるのはすごく悲しい。

「アルベルト様だから、わたくしは臆することがなかったの」

「そうなんですか?」

「ええ、そうなの。だからまたわたくしの相手をしてくださる?」

「いやそれはちょっと困ります。夜会は面倒くさくて」

「それでは、この木の下でときおり私とお話してくれる?」

「まあ・・・それくらいなら」

 アルベルト様がちょっと戸惑った顔をしつつも、うなずいてくれる。


 夜会を終えて、自覚したものが一つだけある。

 それは、私の気持ち。“殿下”じゃなくてまた“シャンテル”って呼んでもらう。そして、妹扱いからちゃんと女の人に見てもらうように自分を磨くんだから。アルベルト様、覚悟してくださいね?

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