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43:公爵様、本邸に戻る

ノア視点です。

ミオが元の世界に戻った日&次の日の話。

 私とライナスは王都を離れ、クロンヴァール公爵領に来ていた。ここには父が私に当主の座を押し付けてまで打ち込んでいる薬草園があって、母も通常はこちらで暮らしている。

 いきなり戻ってきた私に、母は少々驚いた様子だったが仕事だというと納得した様子だった。

 それでも、今日ミオが異世界に帰るというのに仕事を優先させたことを知ると、あなたは公爵家初の一生独身の当主になりそうね、と母がいささか呆れた様子で言い、ため息をついていた。


「ミオ様はそろそろ出発した頃ですね・・・ノア様、見送りに行かなくてもよろしかったのですか?」

「いいんだ。父に用があるので薬草園に行ってくる。」

「・・・・かしこまりました」

 ライナスは表に出しはしないが私の態度にいささか物申したいようだ。だが私は昨日の夜に図書室でミオの見送りが出来たと思っている。その際、ちょっと暴走してしまったが、ミオに忘れてほしくなかったから後悔していない。

 公爵家本邸にある薬草園は代々の当主が精魂こめて手入れをしているうえに、珍しいものを持ち込んでくるので、今ではかなりの広さを誇っている。

 屋敷見学ツアーに組み込まれている屋敷というのはたいてい、庭園も見学は自由にできるのだが、我が家の場合は薬草園に一般客が入り込んでしまうのを防ぐために庭園の半分は立ち入り禁止区域として柵越しの見学になっている。

 先代当主である父は、特に用事がなければこの植物園の隣にある父専用の研究所(といっても、一部屋しかない小屋である)にこもっていることが多い。ちなみに、ここから父を引っ張りだせるのは母だけである。

 研究所のドアを開けると、父は歴代当主が書き残した書類を見ながら実験に没頭していた。

「父上」

「・・・・・」

 実験に没頭している父が返事をしないのはいつものことだ。

「父上。母上が探しております」

「・・・・ノア、下手な嘘をつくな」

「分かってるなら、すぐに返事をしていただけませんか」

「ちょうど実験がいいところだったのだ。無粋なヤツだなあ・・・で、何か急ぎの用事か?」

「父上の実験は前衛的過ぎると報告が届いておりますが、まあ今日は何も言いません。父上にちょっと頼みがありまして」

「前衛的とは、この間の“美容にいいといわれる薬草を使った惚れ薬”か?それとも“薬草の苦い部分だけを集めたけど飲みやすい味の死なない程度に精神的打撃を与える薬”・・・どっちだ」

 父上・・・いったい何を作ってるんですか・・・・・。

「どちらもですよ。惚れ薬を仲人気取りで渡すのはやめてください。精神的打撃のほうは、私に嫌味を言った貴族で実験してますよね?陛下から“気持ちは分かるが自重しろよ”と伝言です」

「公爵家を悪く言ったあいつが悪いのだ。それで、お前の頼みとはなんだ?薬の製造か?」

「それは間違っても頼みませんから。父上、半年ほど当主の仕事をしてもらえませんか?」

「ノア、私が当主の仕事より実験が好きなのを知ってるだろうが。なんでまた王宮に行かなきゃいかんのだ」

「実はオディロン先生とカールの実験につきあおうと思いまして」

「なんでまたオディロンとカールの実験に・・・・・あ。ああ~~~なるほど~~ふーん、しょうがないなあ。私が当主の仕事を代わってやろう・・・成果を期待してるからな。そうだシャンテルにも教えてやらないと」

 最近、恋愛沙汰だけは察しがよくなった父上が、なぜかニヤニヤし私の肩をたたくと、自分から実験室を出て行った。

 そして本邸に戻ると母上が“半年で時間は足りるかしら?忙しくなるわね!!”といそいそとメイド頭やロデリックと打合せを始めており、父上も王宮に持ち込む書物を選定すると図書室に行ったらしい。

「ノア様、私も応援しております。存分に実験してきてください!!」

 ライナスも期待に満ちた目で私のことを見る・・・・私は、言う状況を誤ったのだろうか。



 その後、王宮でアニーに呼ばれて“ノアお兄様。ミオに変化がありましたら教えますから、成果を期待してますわよ”と言われ、カールは“ノア、お前もやるときゃやるんだな。俺も実験につきあってやるよ”とニヤリと笑う。

 先生にいたっては“まあ、目的はどうであれノアが実験につきあってくれるのは嬉しいのう”と、生温かい視線で私を見る。

 昨日の今日で本邸から王宮に伝わっているあたり・・・・やっぱり私は言う状況を誤ったらしい。それでも周囲の応援というのだろうかがありがたいとも思った。


 ミオの手を取るのは、私だけだ。

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