40:異世界滞在13日目-2
旅行者、女子会をする。の巻
座り心地のいい椅子と華奢なテーブルに載っているのは、いい香りの紅茶。サンドイッチに焼き菓子、ケーキ。カットされた果物。そこで繰り広げられるのは上品な会話・・・・とは限らない。
「昨日ノアさんと一緒にお菓子の品評会行ったんだけど、そこで告白のお菓子を食べたよ。美味しいチョコケーキだったなあ」
「あれは美味しいわよね~。もしかしてノアがくれたの?」
「違うよ。セルマさんの店で食べたの。本来はチョコプレートにメッセージを書いてもらってそれをわたすんだってね。ノアさんってばさ、セルマさんに“プレートに何か書きましょうか”って聞かれて言葉につまっちゃって、なんかかわいかったよ」
「セルマはノアのことを小さい頃から知ってるから~・・・眼に浮かぶわ・・・あー、だめだわ。想像するとっ・・・・ぷっ・・・」
アニーが噴出したのを合図に2人しておなか抱えて大笑いしてしまった。アニーが人払いを命じたので部屋には私たちしかいないけど、外には護衛の人がいる。なかから大笑いが聞こえてぎょっとしてたりして。
「あー、もう笑いすぎておなか痛い。でも今日はノアに悪いことしちゃったわ。実質ミオがここに滞在するのって今日が最後だから、ノアだってミオと一緒に過ごしたかったはずなのよね」
アニーが眼をくるりとして私を見て、ふふっと笑う。
私は、ケーキに手を伸ばした。ピンク色のスポンジの上には白いクリームがのっていて、一口大に切れば中にイチゴの果肉が刻んで入っている。
「え~、そうかな」
「そうなのよ。ところで話は変わるけど、ミオは向こうに帰ったら職探しをするのよね?」
「働かざるもの食うべからずっていう日本のことわざもあるしね。アニーのおかげでリフレッシュできたから私、頑張れるよ」
「・・・じゃあ、もしこの国でミオに仕事を紹介するって言ったら、どうする?」
「どうしたの急に。確かに、この国にいるとあんまり“独り”を感じることがなくて居心地はいいけど、やっぱり風習の違いはあるよね。今はアニーのおかげで馴染めてるけど、働くとなると別だから」
「この国、ミオの世界に比べるとちょっと窮屈なところがあるものね。もっと気楽なら、王国で暮らしていけそう?」
「もし私が王国で暮らすことになったら、とりあえず王太子とか王子様に遭遇するのはあんまりないほうがいいな。私が緊張しない王族の人はアニーだけだから、時々アニーとこうやってお茶が出来ればいいよ」
「それは嬉しいわ。じゃあ、ノアは平気?」
「ノアさんは確かにいつも無表情で機嫌悪そうだけど、優しくて結構世話好きなのがわかったから。ノアさんっていい人だよね」
いい人・・・・本当にそれだけ? あのときセルマさんが来なきゃキス、してたのかな・・・慌てて離れた手に寂しくなってしまったのはどうしてだろう。
「ミオ、ボーっとしちゃってどうしたの。なんか顔赤いよ」
「あ・・・ご、ごめん」
「私は親友が顔を赤くしてボーっとなっていた理由を聞くべきかしら?」
「・・・・出来れば聞かない方向で」
「ふうん・・・しょうがないなあ」
アニーは少し残念そうに笑って、私に紅茶やお菓子を勧めてきた。




