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40:異世界滞在13日目-1

しょうがない公爵様。の巻

ノア視点です。

 オディロン先生が戻ってきて、ミオが異世界に帰るのは明日の昼食後と決まった。

 ということは実質今日がガイドをするのは最後の日なのだが・・・アニーが“ジョシカイ”なるものをすると言い出し、ミオはそちらに行ってしまった。

 その代わり、部屋にやってきたのはカールだった。


「午後なのにノアが部屋にいるとは珍しい。ミオは?」

 ソファにどっかと座ったカールは自分の部屋のようにくつろいだ姿勢になった。

「アニーが“ジョシカイ”をするからと連れていった。2人でお茶やお菓子を楽しむんだそうだ。それで、カールは何しに来た」

「俺?俺は仕事の合間にライナスの茶を飲みに来たんだよ。そんなわけでライナス、お茶を一杯」

「かしこまりました。カール様」

「人の秘書を勝手に使うんじゃない」

 ライナスがお茶の準備をするために部屋を出ると、だらんとソファに座っていたカールが姿勢はそのままだが、鋭い視線を私に向けた。

「ミオが異世界に帰るのは明日の昼過ぎなんだよな。残り時間が少ないけど、お前どうすんの?」

「ど、どうするとは何だ」

「・・・・エルネストやユーグに持っていかれていいのか?」

「・・・・私のことは心配しなくていい。それよりお前とアニーはどうなってる。ペルジェスの第3王子はいなくなっただろう?」

「・・・アニーは待つと言ってくれているんだが、こればかりはな」

 カールは苦笑いするが、私は笑うことができない。

 2人のことはそれぞれの両親が賛成しているにもかかわらず、カールの兄である次期公爵が独身ということで膠着状態になっている。別に次男が先に結婚してもいいと思うのだが、カールの家ではそういうわけにはいかないらしい。

  そのまま黙った頃、ライナスがお茶の用意をして部屋に入ってきた。


「うーんライナスの入れる茶は美味い」

「ありがとうございます、カール様」

「そうだライナス。ミオがもうすぐ帰ってしまうだろう?寂しくなるよなあ」

「そうですね。ミオ様も私の入れたお茶を美味しいといつも喜んでくれますから」

 カールはライナスのことも小さい頃から知っているので、ざっくばらんに話しかけるし、ライナスも他の貴族には決して見せない気軽な調子で応対する。

「なあライナス、ノアってものすごくじれったい男だと思わないか?俺たち3人しかいないからさ、ずばっと言っていいぞ」

 私はカールの発言にお茶を噴き出しそうになる。

「・・・カール、お前は何を言ってるのだ」

「それはまあ、確かにカール様のおっっしゃるとおりかと」

「・・・ライナス、分かって言ってるのか?」

「カール様がおっしゃっているのはミオ様のことですよね。ノア様、僭越ながらミオ様には気持ちを伝えておいたほうが後悔はしないと思いますが」

「・・・なんだ、その断られること前提のような言い方は」

「そういうわけではありませんが、私の見たところミオ様はノア様に警戒心ゼロですから」

「なるほどお兄ちゃん扱いなんだな。ノアは無愛想だけど世話好きだから」

 ライナスの指摘にうんうんとうなずくカール。なぜか非常に面白くない。

「お前たち、うるさいぞ。私は仕事をする」

「ごまかすなよ、しょうがない公爵様だなあ。じゃあ俺も仕事に戻るか。ライナス、お茶をごちそうさん」

「またいつでもお越しください、カール様」

「用事以外では来るな」

 私とライナスの返答の違いに、カールは笑いながら「じゃあな」と言って部屋から出て行った。


 部屋に静寂が戻る。ライナスも黙って机の上で仕事を始めた。

“ミオ様はノア様に警戒心ゼロですから”この指摘はちょっと違う。昨日セルマの店で、彼女は初めて私を多少警戒したはずだ。あのあと、ミオに対してぎこちなくなってしまった自分の態度が我ながら情けない。

 もう時間がない・・・それならせめて。私はライナスにちょっと出かけると伝えて、自分の部屋を出た。

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