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38:異世界滞在12日目-3

旅行者、はんぶんこする。の巻

 ノアさんが腕を離すな、と言った意味がよくわかった。会場内を歩くほど混雑して確かにこれじゃあ私なんてすぐ迷子になってしまう。

 腕を組んで歩いていると、ノアさんがとっても近くて安心してるのに同時に緊張してしまう。

 菓子品評会はまるでデパ地下のようだ。地図をみると、甘い菓子と甘くない菓子の区分がきっちり分かれていて、一定の距離を置いて店が設置されている。

ここは中間地点で、ここはベンチが置いてあるので休憩所のようだ。この休憩所の近くがメイン会場みたいで、甘くないお菓子と甘いお菓子が左右に分かれて店を出している。


「わあ、おせんべいみたい」

 私は通りかかった店の商品を見て思わず声をあげた。それは、平べったいぱりぱりした生地に焼いていて、甘辛い匂いがする。なんか醤油せんべいとか塩せんべいが食べたくなってきたなあ・・・向こう戻ったら買おう。

「ミオ、オセンベイってなんだ?」

「私の国に昔からあるお菓子でお米の粉から作るんだ。辛い味から甘い味までたくさん種類があってね、食感もパリパリしたものからしっとりしたものまでいろいろあるんだよ」

「この菓子は、それに似ているのか?」

「うん。見た目はそっくりだよ」

「そうか。それなら1枚もらおうか」

 ノアさんは店員さんに声をかけ1枚袋にいれてもらい、空いているベンチに私を連れてきた。

「ちょっと歩き疲れただろう?ここに座って食べればいい」

「ノアだって歩き疲れたでしょ?隣にどうぞ」

 私が隣をぽんぽんたたくと、ノアさんはうなずいて隣に座った。

 袋の中でおせんべいもどき(ペイセイって言うらしい)を半分くらいの大きさに割ると、私はノアさんの前に差し出した。

「な、なんだ?」

「はい、ノアのぶん」

 すると、なんだかノアが戸惑った様子で私を見た。

「もしかして、ペイセイが苦手?」

「いや、そんなことはない。私は甘いのは苦手だが、これは結構好きだ」

「じゃあ、一緒に食べようよ。はい」

「わ、わかった」

ノアさんが差し出した手のひらに、ペイセイをのせる。でも、指でつまんだノアさんはしげしげと見るだけで食べようとしない。

「ノア、食べないの?」

「い、いや。食べる」

 ノアさんがペイセイを口にいれたのをみて、私も口に入れる。おおお~、この食感はまさに堅焼きせんべい!!醤油じゃないのがとっても残念!!でも、これはこれで美味しい。

 なんだか一度座ってしまうと立ち上がるのが億劫になってしまう。ちょっと疲れたかも。

 そんな私の様子に気づいたのか、ノアさんはすっと立ち上がると私にここで待っているように言い、並んでいる店の一つに入っていった。

 戻ってきたときには温かいお茶が2つ。私たちはここで少し休憩することにした。


「ここが中間地点ってことはまだまだたくさんお店があるんだよね」

「ああ、そうだな。ここから先は高価な菓子や特別なときに食べる菓子の店が出ている」

「特別なお菓子って例えばどういうのがあるの?」

「そうだな・・・あ、愛の告白をするときのお菓子とか、プロポーズのお菓子などもあるな」

「えー、お菓子で告白するの?」

「い、いや・・・その、愛の告白をするのと同じ意味を持つお菓子がある、ということだ」

「なるほど、バレンタインデーのチョコみたいなものか」

「バレンタインデー?」

「うん。バレンタインデーというのは、私の国では女性から男性に愛の告白をチョコレートを添えてする日なんだよ」

 もっとも、現在は「友チョコ」のほうが多いけど、まああんまり細かく言わなくていいよね。

「なるほど、それは男性から女性ではだめなのか?」

「そんなことないよー。本来は男女関係ないけど、私の国では製菓業界の広告戦略で女性から男性へチョコを贈るって定着したらしいよ」

「ミオは、チョコをあげたことはあるのか?」

 私はノアさんからの質問にどう答えていいのか困った。義理チョコや友チョコなら毎年あげてたけど、彼が聞きたいのは本命チョコのことだよね・・・あれは、いつだったっけ?

「・・・すっごく前だったかな」

「ここ数年はないのか?」

「うん。ないよ」

 本命チョコはあげてないから私の返事はまちがっていないはずだ。

 ノアさんはなぜか私の返事をきくと、満足そう。どうやら、私は彼の望んだ返答をしたらしい。

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