37:異世界滞在12日目-2
旅行者、囲まれて困る。の巻
今日は王都の広場で大規模な菓子品評会が開催されているそうで、後援者の一つであるノアさんの家に招待状が来て、私を連れて行ってくれるらしい。
「でもノア。私が行ってもいいの?」
「ミオが我が国のお菓子を気にっているからな。いろいろ食べてほしいと思ったのだ。その・・・また食べたいと思ってくれたら嬉しいと思ってな」
「ありがとう、ノア。うーん周囲が甘い香りで幸せ」
私が深呼吸するとノアがちょっと笑いをこらえてるようにみえた。最初の頃に比べるとなんとなく分かる確率が上がったような気がするんだよね。
「上位10品までに選ばれた菓子は、王宮に献上される。そこで評判がよければ“王室ご用達”の称号がもらえるから、菓子職人にとってはちょっとした名誉なのだ」
「へえ。じゃあ職人さんは気合がはいるね」
「そうだな・・・」
いろいろ話してくれたノアが、ふと一軒の屋台の前で立ち止まった。
「ミオ、食べてみないか?」
「ありがとう、ノア」
ノアさんが渡してくれたのは、日本でいう「ドーナツ」のようなもの。楕円形のパンに砂糖がまぶしてあって中にはカスタードクリームがたっぷりだ。あつあつをぱくっと食べてみる。
「おいしい!!」
「そうか、よかった。最近人気の商品だとライナスが教えてくれたのだ」
「うん、確かにうまいな。ユーグ、私たちはこれまで王都はけっこうふらついているはずだが、これは知らなかったなあ」
「そうですね、兄上」
「・・・・エルネスト王太子殿下、ユーグ殿下。どうしてここに?」
「にらむなよ、ノア。・・・・偶然だよ。なあ、ユーグ?」
「クロンヴァール公爵、私が兄上の行くところについていくのは仕事だからな。仕方あるまい」
ノアさんがじろっと2人をにらむけど、王太子殿下もユーグさんもどこ吹く風だ。その3人に囲まれている私が一番嫌なんだけど・・・ノアも無表情だけどイケメンの部類の顔してるし、王太子殿下とユーグさんも同じ。
だからすれ違う女性たちがノアさんのことは、ちょっとびくっとしてあんまり見ないけど(なんか気の毒)、残り2人についてはぽおっと視線が注がれてさ・・・そこで近くにいる私を見て、ふっとした顔して去っていくんですけど。
なかには、私の胸元をみてふふんと言った感じで自分の胸を強調するようなお姉さんもいるんですが。どうせ私はこの世界では・・・・ないものねだりはやめよう。自分の世界に帰れば標準だ・・・たぶん。
外はカリカリなかはふんわりの生地、カスタードクリームの甘さはくどくなく食べやすい。他にチョコってあったけど、そっちでもよかったなあ。
「ミオ、チョコが食べたいのなら私が買ってあげようか?」
「恐れながら王太子殿下。殿下の財布を使わせるわけにはまいりません」
「ミオ、じゃあ私とチョコ味を半分にするか?食べてみたいのだが、さすが1個は甘さが強くてな」
「半分ですか?それくらいなら食べられそうです」
「そうか?じゃあ・・・・」
「ユーグ殿下、お待ちください。ミオ、チョコ味もいいが他にも美味しいものはたくさんあるぞ?」
「わかった。チョコはやめておく」
「王太子殿下、どうやらお迎えが来ているようですが」
ノアさんが示した方向から、ビセンテ王子を問答無用で連れて行った人たちがこちらに向かってくるのが見えて、王太子はちょっとため息をついた。
「やれやれ時間切れのようだ。ミオ、今度はノアではなく私と出かけてほしいな。二人きりがいやならユーグもつけるが」
王太子と二人きり出かけるなんてそんなこと出来るわけがないだろう。あああ、ノアさんの顔が怖いっ。この人、わざと言ってない?
「え、えっとですね。私はそろそろ故郷に戻りますので、出かける時間はありません」
「それは残念。それでは帰るか、行くぞユーグ」
「かしこまりました。ミオ、また会えるといいな」
「そ、そうですね」
私がそういうと、王太子とユーグはにこやかに姿を消した。ノアさんはその間、眉間にシワをよせたまま。
「ノア、眉間にしわ」
私が自分の眉間をとんとんすると、ノアがきづいたように無表情に戻る。
「すまない。ちょっと驚いてしまってな。さあ、まだまだ屋台はある。行くぞ」
そういうと、ノアさんが腕をまげて、指でさした。
「え?」
「ここから先は混雑する。私の腕を離すなよ?」
きょとんとする私の手を、ノアさんは半ば強引に取って歩き出した。




