36:異世界滞在12日目-1
旅行者、朝の散歩をする。の巻
「今日は気持ちのいい一日になりそうね!」
「そうだね~。風がさわやかだよ」
アニーに誘われて私は朝食後に王宮の庭園を散歩していた。私たちとは少し距離をとってヘルガさん、アイノさん、カールさんが後ろからついてきている。
「そういえば、無才に絡まれたんですって?ノアとエルネストから聞いたわ。ほんっとにあの男は!!」
「あー、すごく思い込みの激しい王子だったよ・・・でもユーグさんに助けてもらったからさ」
「ミオ、無才でいいわよ、無才で。ユーグがいてくれてよかったわ」
アニーはそういうが、いちおう王子様だからな~。庶民が無才なんて呼んだらまずいだろう。
「ユーグさんには本当に感謝してる。でもビセンテ王子、どこからか現れた男の人たちに連れて行かれちゃってさ」
「ああ、たぶんミオが見たのはエルネストの護衛ね。ユーグをはじめ精鋭ばかりなのよ」
精鋭ばかり・・・反抗しても無駄ってやつか。どうりでおとなしく連れて行かれたわけだ。
「そうなんだ。でもビセンテ王子はあれから姿を見ないけど、どうなったのかな。ノアさんも何も言わないし・・・なんか聞いちゃいけない雰囲気で」
「そうねえ・・・エルネストの口調だと国に強制送還されてそのまま部屋に軟禁ってとこかしら」
「ええっ!そこまでする?!」
「そりゃするわよ~。友好国の王女が招待した客人に対して無体を働こうとした・・・いいえ、したと言っていいわね。
無才は婿入り先が決まって送り出すまでエルネストの監視下にいたのに、それに気づかずに馬鹿なことをしたんだもの。当然だわ」
確かに怖い思いをしたけど、なんか王子が気の毒になってきた。
「そういえばノアさんから一人で庭を散歩するなって注意されちゃった。ねえアニー、王宮のなかでも一人で出歩いてはだめなの?」
「うーん・・・ミオにはちょっと堅苦しいかもしれないけど、できればアイノを連れて歩いてほしいわね」
「そうなんだー。でもただの散歩に、アイノさんをつきあわせるのが悪くてさ」
「それもメイドの仕事だから気にするなって言いたいけど、ミオの性格だと気にしちゃうよね」
「ご、ごめん」
「ふふ、謝らないで。この国では女性の一人歩きってよく思われないのよ。一時的な護衛を派遣する商会もあるくらいよ」
それは私の世界でいうところのボディーガードってやつかな。いっつも誰かと一緒かあ・・・気詰まりだなあ・・・でもこの国の人たちからすると、一人でぶらぶら王宮内を歩く私のほうが異端なわけだ。
「じゃあアニーは最初、私の世界に来て驚いたんじゃないの?」
「それはもう!ミオもおばあさまも最初はどこかに護衛を見えないように連れ歩いてるのかと思ったけど、本当に一人なんだもの!!」
その当時の衝撃を思い出したのか、アニーがふふふと笑う。あれ?じゃあアニーは私の世界に来たときの護衛はどうしていたんだろう。
「ね、ねえ。アニーはじゃあ私の世界にいたときも当然、護衛の人がいたんだよね」
「そりゃいたわよ。先生が雇ってくれた方がいつも。ああいう仕事って周囲にばれないようにいるパターンもあるんでしょ」
「う、うん・・・・そうなのかも。私には別世界の話だからよく分からないけど」
「あら、ミオだって別世界じゃなくなるかもよ?」
「なんで?」
「あ、えーっと・・・ほらミオだってどんな出会いをするか分からないでしょ?た、たとえば“タマノコシ”だっけ?」
「え~、玉の輿??ないないない」
「どうしてよ~。運命なんてどう転がるか分からないのに」
なぜかアニーがちょっと焦った口調になるなんて珍しい。そこに後ろを歩いていたヘルガさんが近寄ってきた。
「殿下、そろそろ仕事のお時間です」
「あらもうそんな時間・・・はあ、残念。ミオはこのまま散歩してる?」
「そうだね。もうすこしぶらぶらしようかな」
「こんなに気持ちのいい天気だもんね。それではミオ、また夕食に会おうね」
「うん、またね」
アニーがヘルガさんとカールさんを伴って戻っていくのを見送って、私はさらに散歩をしようと歩き始めたところで、反対側から歩いてくる人に気がつく。
「ミオ、おはよう。散歩か?今日はちゃんとメイドを連れてるな、いいことだ」
「おはよう、ノア。さっきまでアニーと一緒に散歩をしていたの」
「そうか。ちょうどよかった。ミオ、今日は一日仕事を休みにしたので午前中から私につきあわないか?」
「うん、いいよ」
私が返事をすると、ノアさんがなんかほっとしたような、嬉しそうな顔をした・・・ように見えた。




