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35:異世界滞在11日目-4

公爵様はちょっと複雑。の巻 ノア視点です

「ノア様。今年もなかなかの出来になるかと思います」

「・・・なるほど天候に恵まれたのもあるし、お前たちの監督もしっかりしていたということだな」

「恐れ入ります」

 私の返事がちょっと遅かったのに気づいたのは、どうやらライナスだけだったらしい。


 打ち合わせが終わり、客が帰ると私は椅子に深くこしかけて息をはいた。

 ミオのことはユーグに任せて安心したはずなのに・・・・なんだろうか、このざわつく感じ。あの女好きの腹黒(エルネスト)無才ビセンテに比べたら、ユーグははるかに安全な男だ。

 無才は墓穴を掘ったな。エルネストのあの様子だと、あのままペルジェスへ強制送還のうえ婿入り先が決まるまで軟禁だろう。

「ノア様、そんなにいらつかないでください。ミオ様はちゃんと来ますから」

 ライナスは小さい頃から一緒に育ってきたので、二人だけのときはあまり遠慮しない。

「いらつく?私はいらついてないぞ」

「そうですか。ならいいんですけどね~。先ほどの打ち合わせの際、少し別のことを考えていませんでしたか?例えばユーグ殿下とミオ様のこととか」

「そんなことはない。ライナス、お茶をいれてくれないか」

 私が強く否定すると、ライナスは何も言わずにお茶を入れ、自分の仕事に戻った。

 今頃、ミオとユーグは何をして過ごしているのだろうか。私に打ち合わせの予定がなければ、すぐにここに連れてきて仕事が終わるまで読書をさせたのに。

 それにしても一人でも散歩していたとは・・・まったく、王宮の警備は強固だが中には不届き者だっているかもしれないのに。現にあのビセンテと遭遇したではないか・・・・まったく、いつでも私がそばにいられるとは限らないのに。

 そばにいられるとは限らない・・・滞在期間が終わればミオは元の世界に帰る。それは分かっていたことなのに、なんか心に穴があいた感じなのはどうしたことか。

「・・・・私は頼まれてガイドをしていただけなんだがな」

「ノア様、何か言いましたか」

 思わずぼそっと言うと、ライナスに聞こえていたらしい。

「何でもない」

 私が返事をしたころ、ちょうどドアをノックする音がした。



 ユーグが部屋から出て行ったあと、私はミオに向き直った。

「ミオ。どうしてユーグ殿下を名前で呼んでいる」

「う・・・そ、それはちょっと不用意な発言をしてしまって・・・ユーグ殿下が名前呼びすれば許すって言うから・・・」

 いったい、何をやらかしたのかと聞けば、どうやらユーグが詩集を読むことにたいして驚いてしまい彼の不興を買ったらしい。だが、その程度だったら絶対国内でも同じ反応をされているはずだ。

 ユーグは「武の次男」の通り名のとおり、勇猛果敢な堅物で知られていて常に腹黒の護衛として控えており、女性との噂もほとんどない。

「このままだと、間違いなく王太子も“どうしてユーグだけ名前呼びなんだい?”とか言うよ~。どうして私、あのとき驚いちゃったんだろう。人に偏見持っちゃいけないっておばあちゃんにも言われてたのに・・・」

 部屋のソファで頭を抱えるミオに、ライナスがなぐさめるようにミオの前にお茶と彼女の好きな果実入りのケーキを置くと、それに気がついたミオがライナスに笑顔で礼を言っている。



 ミオをなぐさめる男は私だけでいい-思わず心に浮かんだ気持ちに自分で驚く。そして、ライナスにすらそんな気持ちを抱いてしまう自分の心の狭さが嫌いになりそうだ。

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